自然派生活雑貨店を経営
──川崎さんは、高校を1年通わずに中退後、フリーター、海外放浪、アメリカ人のパートナーとの交際、出産、別離を経験。帰国後は外国人タレントのマネジメント事務所を設立して大成功を収めたと思ったらすべてを捨てて単身、アメリカへネイティブアメリカンを訪ねる旅に出かけたり、東京でオーガニックライフの先駆けとなるお店を開くなど、まさに激動の人生を送っています。その人生については後ほどじっくりうかがうとして、まずは現在の活動について教えてください。
大きくわけて2つあって、Lepas manis(レパスマニス)という生活雑貨のお店の経営と地域活動をやってます。
──レパスマニスはどのようなお店なのですか?
ナチュラルでオーガニックなライフスタイルを発信することをテーマにお洋服や基礎化粧品、洗剤などの生活雑貨を販売している小さなお店です。店舗兼住居で、お店のスペースと生活するスペースはカーテン一枚で区切られています。基本的に営業時間は11時から18時までで火曜日と水曜日はお休み。今年からですが、12月から2月は寒いし、ほんと、お客さんが来ないので火、水、木の3日間はお休みにしています。店名のレパスマニスはインドネシア語で「自由」と「スイート」という意味です。
──販売している商品の特徴を教えてください。
レパスマニスのメイン商品はオリジナルのカットソーのウエアLOTUS HEARTです。オーガニックコットンとヘンプ(麻)で作られていて、年に1回、中国の工場に注文して作っています。毎年新しいデザインを2、3型投入するけれど、気に入ったものはいつまででも着られるように、ほとんどが定番。Tシャツは全く同じ物を10年間作り続けています。色は毎回11、12色作っていて、全体の3分の1から半分ほど新しい色と入れ替えます。あとは定番色。色を選んだりデザインをおこすのは自分でやっているんだけど、服飾学校に行ったりアパレル会社で働いた経験なんてなくて全部自己流。絵を描いてサイズを書き込み、こんな感じでと工場に送ってるだけ(笑)。
──なぜ年に1回しか作らないのですか?
今の世の中は何でも大量生産、大量消費でしょ。洋服だって当たり前のように使い捨て。量販店ではすごく安く売って、買う方も1、2年しか着ないですよね。着ない服は大量のゴミとなる。私はそういう物の消費のスタイルを変えたいの。少々高くても長く大事に着続けることができるものを提供したいから、多品種大量生産じゃなくて、少なくても定番となるような物を作り続けているんです。それに世の中は次から次へと新しい物が入って来るけれど、例えば気に入った洋服があっても、何年かあとに同じ物は売っていないでしょ。私の洋服LOTUS HEARTはほとんどが定番だから、気に入った洋服が着れなくなっても同じ物がまた買えるんです。
化粧品も同じで、化粧水はホーリーバジルウォーターとローズウォーターだけ。保湿のものも100%シアバターかエッセンシャルオイルを入れたシアバタークリームの2種類だけ。それだけあればいいじゃんって思うのね。私はこれを「引き算のコスメ」って呼んでるの。
一方で最近の化粧品はシワが取れるとかシミがなくなるという成分をどんどん研究開発してプラスしていくわけですよね。これが「足し算のコスメ」。でもそれで本当にシワやシミがなくなるわけじゃないでしょ? やっぱり1回できちゃったシワやシミはね、絶対取れないのよ。もし本当に取れる化粧品を開発できたらノーベル賞ものなんだよ(笑)。だからアンチエインジングとかいって最新の化粧品で肌の衰えに抗うことよりも、年齢の経過とともに衰える肌を受け入れて一緒にハッピーに暮らしていくことの方がよっぽど大事だと思う。だから私のお店は、化粧品はシンプルに必要最低限のものだけで十分、というあり方なのよ。
洗剤にもこだわる
せっかくオーガニックコットンやヘンプのお洋服を買っても、市販の合成洗剤で洗っちゃうと台無しだよね。だから洗剤ももちろん化学物質が入っていない天然由来のエコ洗剤しか置いてません。特に葉山は地域の3分の1強くらいの世帯でしか下水道が完備されていないから、なおのこと洗剤は自然に還るものにこだわっているの。
──でもエコ洗剤は普通のスーパーなどでも売られていますよね。何か違いはあるのですか?
一般的なスーパーなどで売られているほとんどのエコ洗剤はヤシの実の油、パーム油がベースとなっているのね。そのパーム油って、原生林だったところを伐採、クリアカットしてパームの大型プランテーションに開拓して作られていることが多い。それで毎年東南アジアの原生林が失われてるの。だからいくらこの洗剤はエコですよといったって、大規模な環境破壊によって作られたパーム油なのか、適正に栽培されたパーム油なのかは、ほとんどわからない。だからうちで扱っている3種類の洗剤はすべて製造過程まで調べてるのね。例えばこの粉石けんは、日本でお醤油を作る工程で出る大豆油の廃油で作っているので全部国産。うちにある他の洗剤も原材料も製法も環境破壊とは無縁なの。
──ただオーガニックというだけじゃなくて原材料や製法にもこだわっているんですね。
そこにこだわらないと意味がないからね。あと、すべての商品に共通するのは私自身が気に入って実生活で使えるものじゃないと売らないという点ですね。
川崎直美(かわさき なおみ)
1951年神戸市生まれ。レパスマニス店主/地域活動家
神戸に暮らしていた10代は、ヒッピー文化の影響を受け自由な生き方にあこがれる。16歳で高校中退後、アルバイト生活。大阪万博のアルバイトで知り合ったスウェーデン人の女性に触発されて20歳のとき世界一周の旅へ。途中で立ち寄ったバリにハマり、バリを拠点に生活スタート。23歳のときタイで出会ったアメリカ人男性と恋に落ち、24歳で娘を出産。生活拠点をハワイに移し、バリとハワイを行き来する暮らし。28歳のときパートナーと離別、日本に帰国。様々なアルバイトを経験後、東京で外国人タレントのマネジメント事務所で働くようになる。計2社で約4年勤務した後に自ら外国人タレントのマネジメント事務所を起業。バブル景気に乗り、大成功を収めるも、12年経営した後に廃業。1994年単身、アメリカに渡り古い中古車を購入し、中西部のネイティブアメリカンの土地をめぐる。半年間で1万6000キロを走破。帰国後は逗子に移住。渋谷に自然生活雑貨店「キラ・テラ」を開店。2年後、大手自然食材企業に吸収、社員となり、横浜の店で勤務。12年勤めた後、退社。地域活動にのめり込む。2011年に葉山に移住、自然生活雑貨店「レパスマニス」開店。現在はレパスマニス店主を務めるかたわら、葉山町をみんなが暮らしやすくする町にするために様々な活動に尽力中。
初出日:2016.01.04 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの