サラリーマン山伏として
──東さんは「サラリーマン山伏」として奥様が描かれた漫画エッセイやメディアに登場されていますが、日々どんな活動をしているのですか?
平日は生命保険会社のライフプランナー、いわゆる生命保険の営業マンとして働き、休みの日は山伏の装束を身にまとって山に入って修行を行っています。
──そもそも山伏とはどういう存在なのですか?
山中で修行をする修験道の行者のことで、「修験者」(しゅげんじゃ)ともいいます。「修験」とは神通力や霊力などの人智を超えた力のことで、それらの力を山の中の自然から得るために"山"野に起き"伏"して修行するので「山伏」といいます。そもそもは平安時代の呪術者・役小角(えんのおづぬ)が始めたもので、山中で厳しい修行を積むことでさまざまな験力を身につけ、それを使って多くの民衆を救ったといわれています。
──山伏は僧侶なのですか?
得度(僧侶になるための儀式)しているので僧侶といえますが、厳密には半分だけ僧侶の「半僧半俗」です。というのは山伏の開祖である役小角は元々僧侶ではなかったからです。ですので俗の仕事をしながら山伏をやるというサラリーマン山伏はいたって普通のありかたで、「半聖半俗」ともいいますが日常生活における肉食、飲酒、結婚、全部OKなんです。(もちろん山の行に入ったときの飲酒、肉食はしません)。その他の山伏としてはお寺の住職や神社の神主などが本職の仕事をする以外に、山に入って修行を積むという形があります。
修験道とは
──修験道とはどういうものなのでしょう。
修験道にもいろいろな解釈があるので一概には言えないのですが、基本的に宗教としては仏教で、修験道はその中の1つのジャンルという感じでしょうか。僕の場合は、制度的に天台宗で得度したので宗派は天台宗です。先ほどもお話しましたが、神主の山伏もいるというのはそういうことです。礼拝対象は基本的には山そのものですが、不動明王も拝みます。これも修験の宗派によって違います。
いつも修験道をわかりやすく説明するためによくお話しているのは「修験道とはカツカレーにチーズをかけて、味噌ラーメンを添えた感じの独特の宗教」ということです。カツカレーはインドのカレーに、元はフランス料理であるカツを乗せてますよね。そこにどこかの国で生まれたチーズを乗せて、さらに中国から来たラーメンに日本独自の食文化である味噌を合わせる。このように日本人はいろんな国の食べ物を混ぜ合わせ、独自のアレンジを加えて全く別の料理にするのが得意ですが、修験道もこれと全く同じで、元々インドで生まれた仏教に中国の儒教や陰陽道、道教、ヒンズー教、日本の神道や民間信仰が混じって、日本独特の山岳信仰になったのが修験道といっていいと思います。
山伏装束紹介
東龍治(ひがし りゅうじ)(法名:瑞龍)
1976年長野県生まれ。
大正大学文学部史学科・同大学院博士前期課程修了。大学院在学中に得度し、山伏に。大学卒業後は東京都、国際マイクロ写真工業社を経て、2013年からソニー生命保険株式会社のライフプランナーとして勤務。平日は会社員として働き、休みの日には山で山伏として修行を行う。妻である漫画家・イラストレーターのはじめさん、小学1年生の娘の3人暮らし。はじめさんのコミックエッセイ『ウチのダンナはサラリーマン山伏』(実業之日本社)でサラリーマン山伏の実情がコミカルに描かれている。
初出日:2015.10.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの