CMF推進室を設置
細谷 それでも、何かが合わないと何となく感じてはいたのですが、目の前の仕事に追い立てられていたということもあり、明確な答えが出せないでいました。そんなとき、玉井さんの最初の素材プレゼン会を皮切りにCMFという概念を知り、「うちに必要なのはこれなんじゃないか」とまずは製品デザイナーが気づいたわけです。CMFという尺度でいろいろな物をつなげて空間に広げていけば、「この空間で働いてみたい」という気持ちにさせる製品が開発できるんじゃないかと。それでまずは、部の中にCMFデザイン室を作ろうとなったわけです。しかし、社内では「CMFという言葉自体がピンとこない」と名前を却下されてしまったようで。じゃあCMFに代わる言葉として、みんなが理解できる言葉を、と上司が考えた結果、色ならわかりやすいだろうということで「カラーデザイン担当」という役割ができて、私がその担当になったんです。それが2年前(2013年)です。
玉井 なかなか理解されないという苦労は痛いほどわかります(笑)。
細谷 玉井さんはそれを何年も繰り返してきたわけですからね。それから2年経って、依然としてCMFってわからないという人もいるのですが、すでに製品デザインや開発の中ではCMFの重要性が浸透していたので、今年(2015年)「CMF推進室」ができて、私がそこのCMFデザイナーになったというわけなんです。だから、玉井さんはCMFという重要な概念に気づかせてくれた方なんです。
玉井 とっかかりは私だったかもしれませんが、その後は細谷さんたちの努力の賜物ですね。
ものづくりのポリシー
細谷 今やデザインは車や家具という狭い枠でくくる時代ではないという感覚をもっていて、さっきも話しましたが、この椅子がかっこいいから買うという人ももちろんたくさんいるでしょうが、この椅子があるライフスタイル、ワークスタイルをイメージして買うと物も空間もつながってきますよね。プロタクト単体で物を売るというよりはライフスタイルを売るというふうに変わってきているというか、内装、建物も含めてデザインが昔より広がりをもってきたな、という感覚があるんですよね。そこに当社がCMFに注目している理由があると思うんです。
玉井 価値観には変わるものと変わらないものの2つあることをしっかり理解して、変わる価値観が何なのかを見極めないとものづくりは失敗します。多くの人に受け入れられる製品を作るためにはその変わっていく価値観をしっかり見極める必要があるのですが、多くの人はそこを意外と見ていないし、なかなか理解されづらい。「変わったことを数値で説明しろ」みたいな感じにどうしてもなるんですよね。数値で説明できないこともあるということをまず認めないといけないと思うんですが、特に日本は感性とか感覚などを全部数値に置き換えようとする傾向があります。そうすれば全員が心地いいと感じる物を作ることができると思っているんですが、私は違うと思うんですね。そこの価値観の違いとか感じ方の違いを理解して物を作って提供していかないとうまくいかないんですよね。
玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD CREATION代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター
武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業後、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。2007年、表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD CREATION」設立。さまざまな企業から依頼を受けての商品開発や、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザイン・コンサルティングなどを通じて日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。
細谷らら(ほそや らら)
1985年神奈川県生まれ。株式会社岡村製作所 CMF推進室 デザイナー
筑波大学芸術専門学群デザイン専攻プロダクトデザイン領域卒業後、株式会社岡村製作所へ入社。プロダクトデザイナーとして商品開発に携わる。玉井さんとの出会いでCMFの重要性に気づき、2015年からCMF専門のデザイナーとして商品開発に取り組んでいる。
初出日:2015.11.02 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの