CMFにまつわる変化
細谷 この2年間で新しく手掛け始めたことや変化したことなどはありますか?
玉井 当社のスタッフが増えたりして当時よりは会社の体制が整ったことで、やれることが少しずつ広がってきたという感はあります。一番うれしい変化は、業界内でCMFの理解度が上がってきたことで、最近、クライアントさんから「過去に手掛けたCMFデザインの事例を出してください」と言われなくなったことですかね。これまでずっと言われていたんですが、ここ1年は言われなくなりました。
細谷 ということは玉井さんご自身の認知度が上がってきたということで、それってすごいことだと思います。
玉井 起業した当時は企業を回って営業してみても全く相手にしてもらえなかったので、その当時に比べたらだいぶ楽にはなってますね(笑)。
細谷 玉井さんはCMFのセミナーも継続的に開催されていますが、セミナーを通じて、何か変化は感じていらっしゃいますか?
玉井 ららさんは今でも私のセミナーに参加してくれてますよね。最近の講演のテーマは「感性価値」で、最近注目されているのですが、それを表現するためにCMFが必要だという時代になってきています。だから私が何かしたというよりも、時代が変わってきたという感じですね。
細谷 参加者に関しての変化はありますか? 私はプロダクトデザインからCMFに入っていったのですが、例えばデザイナーではなくて、マーケッターが聞きに来るようになったとか。
玉井 元々、CMFに興味をもってくれる人は業界を問わずプロダクトデザイナーばかりだったのですが、ここ1年くらいで急にプロダクトの設計や技術系の職種とか、あとは部品メーカーの人が多くなりましたね。
細谷 そうなんですね。部品メーカーの方々とCMFがなかなかつながらないのですが......。
玉井 2011年から開催している青フェスは、デザイン表現を組み入れたCMF技術展というテーマで技術メーカーさんと一緒に開催しているんですね。ですので、私たちはCMFデザインと技術は密接な関係にあると思ってるんですよ。技術がないと表現できませんから。
細谷 確かにそうですよね。おっしゃるとおりだと思います。ご自身の活動として2年前から変化したことはありますか?
玉井 いろいろな企業から依頼を受けて、よりよい製品を作るために社内体制を整えて、社内デザイナーなどにものづくりにおけるCMF戦略を正しく伝えるというコンサルティングのような仕事が増えてきました。
企業もCMFに注目
玉井 ららさんは、今年から社内のCMFデザイナーになったということですが、どういう経緯で?
細谷 これまで当社では製品単体における造形美やデザインの斬新さ、新しい機能など、人がその製品を見て「ほしい」と思ってもらえるような開発を重視しており、1つの製品の担当者が形や色を決めていました。一方で、当社は製品単体だけではなく、空間の提案をしている会社でもあるのですが、その製品をレイアウトする床や壁など、空間全体のことまでは製品単体の開発の段階では深く考えられていませんでした。「かっこいい」だけでは物が売れなくなってきたこの時代、従来の開発姿勢ではまずいと会社が危機感を抱き始め、居心地のよい空間をデザイン提案するためには、製品単体だけではなくいろんな物のコーディネーションが重要だから、みんなでその辺をきちんと共有して開発しようという流れになってきたんです。
玉井 時代の流れに即した正しい考え方だと思います。
玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD CREATION代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター
武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業後、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。2007年、表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD CREATION」設立。さまざまな企業から依頼を受けての商品開発や、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザイン・コンサルティングなどを通じて日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。
細谷らら(ほそや らら)
1985年神奈川県生まれ。株式会社岡村製作所 CMF推進室 デザイナー
筑波大学芸術専門学群デザイン専攻プロダクトデザイン領域卒業後、株式会社岡村製作所へ入社。プロダクトデザイナーとして商品開発に携わる。玉井さんとの出会いでCMFの重要性に気づき、2015年からCMF専門のデザイナーとして商品開発に取り組んでいる。
初出日:2015.11.02 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの