日本唯一のCMFデザイナーとして
──まずは玉井さんの現在の活動について教えてください。
株式会社FEEL GOOD creationという会社の代表として「CMFデザイン」を手がけています。CMFとはすべてのモノにあるサーフェイス(表面)のことです。サーフェイスは" COLOR(色)"、"MATERIAL(素材)"、"FINISH(加工)"の3つの要素で構成されています。それらの頭文字をとって「CMF」といいます。
そもそもCMFはヨーロッパではすでに数10年前からその重要性を認められていたので、CMFデザイナーという職種が古くから存在します。
CMFはモノの美しさ、品質向上、表面保護、コンセプト表現、機能性向上などの力をもっています。私たちの身近にあるモノでいうと、携帯電話、デジタルカメラ、パソコン、自動車、机、椅子、ソファ、化粧品などを買うとき、人はまずその表面を気にしますよね。その表面、つまりCMFをデザインする人がCMFデザイナー、私の職業名です。
──確かに私たちは商品を買うとき、まずは表面を重視しますよね。
そうでしょう。私たちは何かモノを買うときにその表面の素材や色、質感、手触りなどをすごく気にしますよね。機能的には満足していても「惜しいなあ、この色があれば買うのになあ」とか「手にもった感じがもっとよければ買うのになあ」といった経験があると思います。逆に、色に一目ぼれをしたり、持った感じの心地よさが決め手となって購入したこともあるでしょう。
──それはよくあります。少し前に『人は見た目が9割』という本がベストセラーになりましたが、モノにも当てはまりますよね。
そのとおりです。五感の中で視覚による情報量は80%以上ともいわれているとおり、常に私たちはCMFから多くの情報を得ています。そして形状よりもCMFの方が心理的影響は強く、私たちはそこからいろいろな情報を想像、予測、記憶し、それが買うか買わないかの決め手になっていたりするんですよね。つまりCMF次第でその商品がほしくなったり、所持することで愛おしくなったり、楽しくなったりするわけなんです。
それに、商品の表面を大胆に変えると、みんな「わーっ!」と驚いたり顔がほころんだり、商品に触ろうと手を伸ばしてきたりするんですよね。このように人の素直な感情を引き出したり、行動をうながす力をもっているのでCMFデザインはすごく重要なんです。
──しかしそれほど重要であるにもかかわらず、CMFという言葉はあまり普及していないように思うのですが。
そこが最大の問題なんです。CMFはこんなに重要であるにもかかわらず、日本ではそれを専門に考えている人はほとんどいません。特に工業製品をつくる過程ではまず形状のデザインを考えて、機能を含む企画が全部決まってから一番最後に色や素材を考えるという流れになっています。
でもお客様が一番最初に見て気にするのは表面なので、表面のデザインを専門に考える人がいないというのはおかしな話なんですよね。ですから、CMFデザインという思想を日本に根付かせるため、いかに魅力的な表面をつくるかという活動をしているわけです。基本的に日本でCMFデザインの専門家というか事務所を構えているのは当社だけだと思います。
玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD creation 代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター
武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。S-MXで第1回オート・カラー・アワォードのファッションカラー賞受賞、シビックシリーズで第8回オート・カラー・アワォードの技術賞を受賞。2007年、プロダクトの表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD creation」設立。日本ではほとんど知られていないCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を日本で広め、日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。
初出日:2013.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの