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2015.06.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

大人のことを考えていた

菊池 おもしろいなと思ったのが、お互い子どものことを考えているようで実はすごく大人のことを考えていたということ。世界観が同じだったから大人へのメッセージにもなったと思う。どういうことかというと、インストラクションアートってインストラクション(説明)を読んで行動するものだから、展覧会のときはインストラクションを大人の目の高さに設置して、材料は子どもの手の届く位置に置きました。子どもは基本的に材料からインスパイアされるものなので説明などなくてもそれで勝手に遊び始めますが、インストラクションがあることでそれを読んだお母さんが子どもにこうやって遊ぶのよと教えます。そういう親子の対話が生まれることもあれば、親が子どもの行動を止める場合もある。これは子どもにやらせたくないとか。そういう親子によっていろんな関係性が見えてきておもしろかったよね。

小笠原 展覧会終了後に反省会をやったんですが、単なる遊びではなく親子でアート体験をするための展覧会として開催するとしたら、いきなりインストラクションアートに入るのではなく、最初に「序章」みたいな感じで親に対してのガイダンスが必要だったかもしれないねという話も出ました。それは新しい気付きで、これから私たちは何をどう発信していくかを考えるためのいい材料になりました。一方で、子どもはインストラクションアートの説明は読めないし、理解できないんだけど、見なくてもその説明通りに遊んでたということがけっこう多かったのに驚かされました。例えば「地球の音を知る作品」という聴診器を通して地球を感じるというインストラクションアートでは子どもは聴診器を取って床に当てて聞き始めたり、息を吹きかけたりしていたけど、大人たちは置いておいただけでは積極的にはやらないんじゃないかなと思いました。

菊池 子どもたちはなんかわかんないけど楽しそうだったよね。聴診器を通して自然と体で地球の音というものを体験しているわけだよね。でも大人になってくるとそういうことを考えることの余裕や時間もなくなってきてそれができなくなる。ただ今回の展覧会のようなちょっとしたきっかけで、子どもの頃にもっていた自由な感性を取り戻して、身の回りのことが全部遊びでありアートなんだということに気づいてほしいという願いもありました。

子どもも大人も同じになる

小笠原さんは子どもも大人もハッピーになれるasobi基地を立ち上げ、運営している

小笠原 「なんで展」をつくるときによく出たのが、「子どもも大人も関係なくフラットになれるのがいいよね」という話。大人たちはいろんな仕組みや概念を知っているからこそあえて現代アートという言葉を使って、気づきをもって帰ってほしいなというのがすごくあって。

菊池 そうだね。一つひとつの展示をワークショップにしようとすればできた。でもそうじゃない形で展覧会をやってみたというのは、我々が働きかけてできることに加えて、来場者自身で自分のペースと解釈で、自発的に何かを作ってほしいという思いがあったよね。実際に私たちが手を出したいこともいくつかあったけどそこをぐっとこらえて観察側に徹したこともあったし、ちょっと声がけをするだけで来場者の振る舞いが変わったりしたこともあった。1回目は次のアウトプットをどういう形にしようかと考える第一歩だったよね。

小笠原 実験しながらみんなでいろいろ積み重ねていった結果、「なんで展」ができたという感じだね。現代アートと幼児教育を掛けあわせたらおもしろいという確信だけで具体的に何ができあがるかはわからず走り始めたんだけど、そのプロセス自体を楽しめたよね。

菊池 そうそう。新しいことをやるときにはある種実験のようなことも多々ある。「教育」という領域では実験しにくいことも多いと思いますが、我々はお互いにフリーランスというどこの教育機関にも属さずに動いてる立場なので、逆に学校という組織・システムの中ではできない新しい学びの方法を探求していかなきゃいけないんじゃないかなと思ってる。あと思い起こすと、スタッフミーティングのときにこの展覧会はアートであって遊びじゃないよねという話をした記憶があって、それが印象に残っています。つまり、この展覧会はasobi基地でやっている遊ぶという概念の元に作られているけれど、普段のasobi基地とは違い、アートを作る場所なんだよということを来場者の親にもっときちっと伝えておく必要があったと思いました。

小笠原 遊びとアートって近いけど、主催者の設定の仕方でどっち側にも転ぶということがよくわかった(笑)。

菊池 そう。それは一つの反省点でもあるけれど、すごくおもしろいと感じた点でもあって。改めて物事のコンテクスト化の仕方を考えることができたからよかった。


「自分のなんで実験室」展覧会
動画(動画撮影・編集・音楽:池田浩基 )
スライドショー(撮影・編集:小穴啓介)

インタビュー後編はこちら

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの