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2015.06.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

アート × 幼児教育の展覧会を開催

菊池 「なんで展」は幼児教育×現代アートというテーマで、「一人ひとりが異なる価値観や感性を持って人生を歩んでいるということを見つめ直す」をコンセプトとしました。会場は、「わたし」「わたしとあなた」「わたしたち」という3つのセクションで構成。「展示物」という鑑賞だけのものはなく、自身が参加することで自分だけの「作品」を生み出すインストラクションアートという手法を使い、今まで考えたことのなかったような質問に答えることで自分自身を知り、人との違いを知るという展覧会です。8日間の会期中は大勢の大人と子どもでにぎわいました。お互い初めての試みでしたが、大成功といっていいと思います。

小笠原 ほんと、大成功だったよね。

菊池 現代アートは家庭環境の影響などで、知る機会がなかなかないし、想像力を発揮しないとおもしろくないという非常にはっきりとした見方があって、その見方さえ知ればおもしろくなるというジャンルだと思ってます。それならば実際に想像力・創造力が非常に豊かな時期の幼児期の子どもたちに、意味も目的がなくても自由に何でもやらせるというだけでアートになる。もちろん、例えば折り紙で目的に向けて創作するという技術的、機能的な教育も必要なのですが、同時に人がアートというものを生活の中のひとつの営みとして使って成長していく場合、どういう形でアートを教育の中に浸透させていけばいいのかということをずっと考えていました。その一つの方法が以前私が企画した「アートで上手に大人になる方法」というワークショップなのですが、その内容を舞ちゃんに話をしたらそれはすごくいいとなって、あっという間にチームができて(笑)。

小笠原 宏子さんの話で一番印象的だったのが、「1000円分の私」。百円均一のお店で自分らしいと思うものを10個買ってきて、それを分解して1個につくり上げるというインストラクションアートがあるんだよと聞いたとき、ビビビ!って来て、それ子どもたちとやったらどんな風になるんだろうと思ったんです。さらに親子でやると両者にすごく学びがあるだろうなと想像したとき、とてもワクワクしました。これって現代アートっていうんだと理解できたと同時に私たちが日常的にやってる幼児教育に通じるものがあるとしっくり来ました。それで現代アートと呼ばれているものを意識的に保育の現場に取り入れることでまた違うおもしろさが生まれる気がして、宏子さんと一緒に何かコラボしたら絶対おもしろいと思ったんです。

菊池 舞ちゃんは保育の何でも屋、私はアートの何でも屋、じゃあ2人で現代アート×保育というテーマで何かやろうと。現代アートを世の中に浸透させたいという私の思いと、保育士の専門性や役割を世の中にもっと知ってほしいという舞ちゃんの思いが偶然の出会いでふっと結びついたという感じだよね。

小笠原 保育士が日々やってることもそうだけど、子どもたちが日々過ごしている日常の中に素敵なことがいっぱいあるということを、「なんで展」を通して大人たちに見つけてほしいという思いも強かったよね。

展覧会のタイトルに込めた思い

菊池 だから今回の展覧会は大人も子どもも関係なく自分に向き合って、自分に「?」を投じてほしいという思いで「自分のなんで実験室」というタイトルにしたんだよね。

小笠原 今は自分と対話したり、向き合うということがあまりされていない社会だなと感じていて。私の個人的体験ですが、保育の現場で子どもたちを目の前にしたときに、自分と向き合わなければ保育ができなかったんですよ。自分が子どもや子どもがやることに対してどう思っているかとか、自分は保育というものをどういうふうに考えているかとか、自分が果たしてそれができているのかということを毎日問いながら保育という仕事をしていました。だから私にとって子どもに何を教えるべきかというようなことはさほど重要ではなくて、むしろ教えることは何もないと思っていたので、子どもたちをよく観察し、彼らがもっている力をどう引き出して、そこにどう寄り添っていくのか、私が知ってる世界をどうすれば彼らに伝えられるかというようなことを毎日考えながら保育をしていました。つまり保育という仕事を通じて日々自分と向き合わざるをえなくて、それによって自分の気持ちが整理され、やりたいことが明確になって、今の私がある。だから保育を仕事にしてすごく幸運だったと思います。やってなければ、こんな風に自由に生きていないでしょうね。

菊池 自分というのがどういう人間なのかを、一人ひとりが自身に問い続けることが豊かな世の中をつくることにつながるような感覚をずっともっているので、それをタイトルの中に込めたいということが1つ。もう1つは、私は現代アートの境域も含めて人生ってトライ&エラーで、おおげさですが、世界という名の実験室にいるような感じがいつもあるんです。型にはめられたことをやれといわれればできるけど、型を破ることを繰り返しやっていくことで納得するような生き方を見つけられるのかなと思うので、それをそのままシンプルにこの展覧会の内容にしてみたんです。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの