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2015.06.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

新しい自分を発見してほしい

菊池さんはアメリカ時代、アートをツールに地域づくりをしていた

菊池 来場者に「なんで展」を通して新しい自分に少しでも気づいてほしいという思いもすごく強かったですね。また、今回のインストラクションアートは一人ひとり捉え方が違うんだよ、「違い」が実は美しいんだよ、人と違っていいんだよというのが一番伝えたい大きなメッセージでもありました。子どもたちはそれを当たり前のように受け止めていると思うけど、大人になるにつれて、人と違うということを敏感に感じだして違いを恐れ、周りと無理して合わせようとします。そうしなくていいんだよということを伝えたかった。あと、「自分のなんで?」というのはそもそも私たち自身が自分を考えるきっかけでもあったし、現代アートと幼児教育を掛けあわせたときにいったいどういう化学反応が起こるのだろうということも無意識だけど考えていたよね。

小笠原 うん。だから「なんで展」には、お互いが主催しているイベントに普段来ない人に来てほしいと思って、イベント告知ページには「幼児教育×現代アート」をあえて全面に出したんです。私は保育・幼児教育の世界で活動しているので、asobi基地や子どもみらい探求社が主催するイベントには保育・幼児教育に興味がある人たちが集まります。同じように宏子さんが開催するイベントにはアートに興味がある人たちが集まります。この人たちは普段は活動区域が違うけど、2人でコラボしてイベントをやることによって混ざり合います。そのことでまた何か新しい化学反応が起きることもあるんじゃないかなと期待したわけです。

世界観が同じだった

小笠原 今回、宏子さんとコラボしてみて仕事の仕方というかスタンスが似ていたから楽しかったですね。例えばとりあえずやってみようという点とか、お互いに得意な部分は完全に任せて口を出さないというのが一緒だったから。宏子さんはメインプロデューサーという立場でインストラクションを作って、私は夜の部のトークショーのゲストの人選や出演交渉を担当するという役割分担がきちっとできたのがよかったですね。

菊池 確かにそこは似てたね。なんで展に設置するインストラクションを120個ほど作って、そこからスタッフみんなで取捨選択して最終的に27個に絞り込みました。振り返ってみれば短い準備期間でよくやったよね(笑)。

小笠原 お互いを信頼して任せ合う。ここは宏子さんがそう決めたならそれでいい、みたいな。

菊池 お互いの専門性を尊重する。自分の知らない領域は詳しい人にやってもらって、そこから学ぼうみたいな感じだったね、お互い。

小笠原 どちらかが細々としたことが気になるタイプだったらうまくやれなかったと思う。

菊池 決して気にならないというわけではないんだけど、気にするところと気にしないところがお互い似てるんだよね。あと、さっき舞ちゃんも触れたけど、アートを活用した地域デザインと幼児教育の現場デザインは共通する部分も多いし、その一方で幼児教育という領域で私が知らない世界を舞ちゃんが知っている。だけど、ただ使ってる言語が違ってるだけで同じことを話してるということが話せば話すほどわかった。話せば話すほど共通言語ができていって、お互いの知らない領域のことも理解できて、それが安心して任せられることにつながっていったよね。

小笠原 たぶん世界観が同じだった。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの