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2013.09.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

コミュニケーションチャーム

また、障害者の方から気軽に助けを求めることができるアイテムをプロデュースしています。日本人は基本的にはやさしいので困っている人がいたら手伝ってあげたいという気持ちはもってはいるけど、シャイだし障害者と接した経験もほとんどないので実際にそういう人を見かけてもなんて声をかけていいのかわからないという人が大勢いると思うんですよね。例えば、電車やバスに乗っているとき、「お腹に赤ちゃんがいます」というバッヂをつけている女性には席を譲りやすいけれど、妊婦かどうかわからない人にはなかなか声をかけづらいですよね。また駅などで困っている外国人に対しても同じです。

そこで、そんな人のために「コミュニケーションチャーム」をつくりました。日本に来た外国人が困った時によく使うというYES/NO、トイレ、電話、病院、電車、Excuse me/Thank youの6つをアイコン化し、デザインしているので、言葉がうまく喋れなくても、アイコンに指を差したら困っていることがわかるというコミュニケーションカードです。NPO法人ピープルデザイン研究所を設立して最初に作ったアイテムです。

コミュニケーションチャーム

これを身に付けている人は、「困っていたら私に声をかけてください!」「私、何でもお手伝いします!」「ハンディがある方をサポートをします!」という意志を表明していることになります。そういう心意気をもつ人をもっと増やして、困っている人が声をかけやすくなる状況をつくりたいと思っています。

何かで困っている人は「すみません、ちょっと手伝ってください」と誰かに助けを求めてくださいよ。中でもこれをつけている人ならきっと助けてくれるから。だからどんどん街に出て来てください。というメッセージをコミュニケーションチャームには込めているんです。


──確かに困っている人を見かけたらお手伝いしたいのになんて声をかけていいのかわからないというのはよくわかります。でも向こうから助けを求められれば喜んでお手伝いしますという感じですもんね。まさに逆張りの発想ですね。デザインもわかりやすくておしゃれですよね。

世界的なブランドのデザインを手がけているアーティスト・クリエイターにデザインしてもらったので、おしゃれなチャーム・アクセサリーに仕上がりました。携帯用チェーンのゴムひもは本来廃棄処分されてしまうものを使用しています。

障害者の利益にもなる

もうひとつの大きなポイントは、このコミュニケーションチャームは障害をもつ人びとの仕事の創出と収入アップに貢献できるということなんです。そのためにこのようなデザインにしたんです。


──どういうことなんですか?

障害者の収入っていくらくらいかご存知ですか? 例えば来春(2014年春)から次男が働くことになるB型の福祉施設の日給ってだいたい400から700円くらいなんですね。交通費は出ないので赤字になってしまいます。それなのになぜ通うかというと、親の気持ちとしては「障害者がひとりで家にじっとしているよりは赤字になったとしても福祉作業所に通う方が断然いい」からです。よって月給にして約8000円、多い人で1万3000円から4000円。これに障害者手当6万5000円を足してなんとか実家で暮らしているというのが現在の大多数の次男と同じレベルの障害者の実情なわけです。

そこでこのコミュニケーションチャームの製作が彼らの仕事にならないかなと考えました。まずは当社のスタッフが1年かけて渋谷区にある12の福祉作業所を回ってリサーチした結果、多くの障害者は「組み立てる」「紐を編む」「通す」「結わえる」という作業はできることが判明。それらのエッセンスを盛り込んでデザインしてほしいと、作る要素、仕事の要素を前提にデザイナーに依頼してできあがったのがこのコミュニケーションチャームなのです。ゴムひもを編んだり、結んだり、取り付けたりという製作作業と完成製品の梱包作業は、現在渋谷区内の4ヶ所の福祉作業所に通う障害者のみなさんの手で行われています。


──困っている人の役に立つと同時につくる側の障害者の利益にもなるというのは素晴らしいですね。売り上げ的にはどうなんですか?

海外でも絶大な人気を誇る日本人アーティストや俳優の要潤さん、そして各ショップの賛同を得て、セレクトショップのSHIPSや裏原ブランドで有名なハイパーハイパー、渋谷区役所の売店など取り扱い店舗は確実に増えています。そのほとんどがおしゃれなファッション店舗であることが特徴的です。販売数も確実に増加しているので製作に携わっている障害者のみなさんの収入も増えています。このコミュニケーションチャームを身に付ける人をどんどん増やし、渋谷の風物詩のひとつにしていきたいと思っています。

渋谷区へのピープルデザインの導入を打診し、現在須藤さんとともに推進している渋谷区議の長谷部健さん(写真左)、須藤シンジさん(中)、ピープルデザインという思想に共感し、コミュニケーションチャームの告知などに協力している要潤さん(右)●写真/SHIPS MAG

富士宮市との協業

──街を媒体にピープルデザインを具現化していくというのは斬新で壮大な試みですね。

地域との協業という意味では渋谷以外にもいくつかの地域とコラボしています。そのひとつが静岡県富士宮市です。

多くの地域では認知症患者は健常者との暮らしの中で苦慮されています。富士宮市では宿泊業や観光業、運輸業などに携わる人たちが配慮、協力して、認知症の人も安心して楽しめる街ということを集客のひとつのキーワードにしようとしています。つまり富士宮市は認知症の人たちにとってフレンドリーな土地だということを地域の価値にしていこうというプロジェクトを2年前から推進してきました。今年、ピープルデザインという発想を持ち込みたいということで総務省のプロジェクトからお声がかかり、先月(8月)から我々も活動に加わりました。

なぜ認知症かというと、現在の認知症の人の実数が2012年時点で約462万人で、いつ認知症になってもおかしくない人を含めると1000万人弱もいるらしいんですね。私の叔父が認知症なのでいかにたいへんかというのはリアルにわかります。

今度はメディカルという領域で、「病人」として一般の人と分けるのではなく混ぜていくためにピープルデザインという発想で地域の観光産業等と連携します。富士宮市が認知症のフレンドリーな地域だということを街の価値にしていくことが狙いです。

滋賀県とも協業

また、滋賀県の地域興しに苦慮されている方から相談を受け、廃れつつある地域産業の継承をネクスタイドのアプローチ、つまり社会的弱者がものづくりや農業を通じて社会に出て来られるような手法を使って実現するという活動を3年ほど前から行なっていました。

例えば農業再生の活動に障害をもっている人たちに参加してもらう。通常、野菜は形の良し悪しで流通が決まる傾向がありますが、ここでは形にかかわらず彼らに収穫してもらう。それを集めて乾燥させ、砕いて粉末にしたものを「野菜パウダー」として商品化する。これを有名シェフや小売店バイヤーに営業していく。こういった一連の流れを田畑のオーナーや地元の福祉法人と連携して展開しました。このように、従来の障害者の成果物が従来のような「この絵はがきは障害者が一所懸命つくりました、買ってください」というような同情とは違う軸でつくられた、買う方も喜んで買ってくれるようものならお互いハッピーになれてステキじゃないですか。そんな状況を実現したくてずっと関わっているわけです。こんな感じで、最近では従来型の福祉の発想に縛られない若い新世代の福祉従事者も増えてきました。同時にピープルデザインが地域再生のキーワードのひとつになりつつあることを実感しています。


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須藤シンジ(すどう しんじ)
1963年、東京都生まれ。有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション代表、NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事。

大学卒業後マルイに入社。販売、債権回収、バイヤー、宣伝、副店長など、さまざまな職務を経験。次男が脳性まひで出生したことにより、37歳のとき14年間勤務したマルイを退職。2000年、マーケティングのコンサルティングを主たる業務とする有限会社フジヤマストアを設立。2002年、「意識のバリアフリー」を旗印に、ファッションを通して障害者と健常者が自然と混ざり合う社会の実現を目指し、ソーシャルプロジェクト、ネクスタイド ・エヴォリューションを設立。以降、「ピープルデザイン」という新しい思想で、障害の有無を問わずハイセンスに着こなせるアイテムや多業種の商品開発、各種イベントをプロデュース。2012年にはダイバーシティの実現を目指すNPOピープルデザイン研究所を創設し、代表理事に就任。

初出日:2013.09.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの