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2013.06.01  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

活動のもうひとつの柱"CMF DESIGN LINK"

──もうひとつの活動の柱は?

ひと言でいうと技術をマテリアル(素材)にするという活動で、私たちは「CMF DESIGN LINK(デザインリンク)」と呼んでいます。

長らく日本のモノづくりは高い技術力で世界を席巻してきましたが、今は元気がないですよね。そうなっている理由は、クライアントから依頼された案件に対して回答するという請負型の仕事をしているという点がまずひとつあります。そして作った製品を市場に対してアピールすることやプロモーションすることがすごく苦手だからだと思うんです。

そうではなくて、もっと提案型できちっと自分たちの技術を世界にアピールし、プロモーションできるようになる必要があり、それがデザインに繋がればいいと思っています。

ですからそういった活動を展示会やライブラリや教育で支援する「CMF DESIGN LINK」で日本のモノづくりを活性化したいと思っているんです。

FEEL GOOD creationは2012年11月16日に青山にて1日限りの「CMF DESIGN EXHIBITION 青フェス」を主催。その後2013年2月26日から約1ヶ月間にわたって蔵前にあるデザインショップKONCENTのギャラリーにて巡回展を開催した。トークショーでは玉井さんがCMFデザインについての解説や各出展企業の技術についてのプレゼンテーションを行った。(※イベントの模様はブログを参照)

世界のCMFデザインの最新トレンド情報をリサーチし、クライアントや世の中へ提供・発信するために、デザインの本場であるヨーロッパで開催されている展示会に毎年出かけている。2013年4月には「ミラノサローネ2013」を視察した

人びとの価値観を変えたい

──仕事をする上で大事にしていることは何ですか?

受けた仕事はどんなに難しくても絶対にやりきるということをポリシーにしてます。


──やはり難しい案件が多いのですか?

というより、難しい案件しかないですね(笑)。直接やりとりするクライアントの担当者は企業のデザイン室で何十年とデザインされている、しかもCMFのこともよく知っている方たちです。そんなプロの方たちを相手にして、彼らを満足させるCMFを生み出すのは想像以上にハードルが高いんです。


──仕事のやりがい・喜びはどんなところにありますか?

クライアントがプロフェッショナルなだけに、私のCMFデザインの提案が彼らに喜んでもらえたときが一番うれしいですね。またCMFデザインを手がけた商品を購入したお客様から「とても気に入った」「買ってよかった」という声を聞けたときもうれしいですね。私の仕事が役に立ったとか、私にお願いしてよかったと誰かに喜んでいただくことが何よりの喜びです。

そして、今の私の仕事は、モノづくりそのものというよりは、モノづくりに関わる人の価値観を変えるということも含まれています。それは仕事というよりも使命感に近いものです。今まで日本に存在していなかったCMFという思想に対して、その考え方ややり方をクライアントに知ってもらって共感してもらう瞬間が何よりうれしいですね。今までだれも共感してくれなかっただけに(笑)。

玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD creation 代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。S-MXで第1回オート・カラー・アワォードのファッションカラー賞受賞、シビックシリーズで第8回オート・カラー・アワォードの技術賞を受賞。2007年、プロダクトの表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD creation」設立。日本ではほとんど知られていないCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を日本で広め、日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。

初出日:2013.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの