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2013.06.01  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

CMFデザインの開発方法

──CMFデザインの活動についてもう少し具体的に教えてください。

私はCMFデザインは人の心を豊かにするものだと思っています。それを一番の根底に置きつつ、活動の柱としては2つあります。

ひとつはCMFデザインに関する活動です。その中にもいくつか種類があります。基本的かつ中心的な活動は、企業からの委託を受けて商品のCMFデザインを行うことです。商品量産のサポートやカラー開発、CMFデザイン開発などです。

デザインとして扱っている製品はパソコンや携帯電話などを含む家電製品や建築、インテリア雑貨など。様々な商品の色や素材、質感などをデザインしています。

例えばここ数年で爆発的に普及しているスマートフォンには表面にほとんどボタンがないですよね。そうすると表面のパネルのデザインが非常に重要になってくるわけです。最も重要なのは背面で、背面のパネルが今一番価値が出せる場所なんです。どういう質感・素材・色・デザインにするか、そして周囲をどういう素材にしてどう見せるか、そういった構成・デザインを考えるのが私の仕事なんです。


──仕事はどんなふうにして進めていくのですか?

例えばある企業から「新しい製品の表面のデザインを考えてください」という依頼が来ます。まずは企画者やデザイン担当者から基本コンセプトやターゲット、価格など商品にまつわるすべての情報をヒアリングして、顧客ニーズやカラートレンド、技術情報などをリサーチ・分析し、「この分野ではこんな色がトレンドですから、この製品の表面はこんな感じの素材を使って、こんな質感で、こんな色にするのがいいんじゃないでしょうか」と分析資料や実際のサンプルを作ったりしながらCMFデザインを提案するという感じです。


──実際にCMFデザインを施した商品例を教えてください。

OKI TATAMO!」というブランドのパネル型の畳マットを作っている会社から、カラーリングを提案してほしいと依頼されたことがありました。従来の畳マットでもたくさん色があるのですが、若い奥様がリビングに置きたい感じではありませんでした。それを洋間やフローリングにもマッチするラグのようなモダンな感じの色のものを提案。工場から上がってきた試作品のイグサのカラーチェックをして、もう少し赤みを足してくださいなどと指示を出しながら何度も細かい調整を繰り返して作りました。発売されると多くのお母さんから小さいお子さんのプレイマットに最適だとかなり好評をいただいたんです。基本的に畳なのですが、少し色を変えるだけで全然違うものになるんですよね。

玉井さんがCMFデザインを手がけた「OKI TATAMO!」

こういった商品開発以外にも提携している工場と協力して、実際にCMFデザインを施した素材自体を開発することもあります。例えばプラスチックなのに柔らかい素材や、加工をしなくても塗装したような質感のプラスチックの色などを開発しました。塗装をしていなければ剥がれたり色あせたりして柄が変わるということもないですからね。例えば大理石の模様のプラスチック素材を開発したときは、奥行き感や輝きなど大理石のような質感を表現することをテーマにやり方を考えていろいろなものを作りました。素材そのものの開発だけではなく、技術にデザインを加えて魅力ある素材を作り上げることがCMFデザインの真髄なのです。こういう感じで日々CMFデザインの開発を行なっています。

玉井さんがデザイン提案や開発した素材の数々

また、メーカーの企画・開発者の間では最近少しずつではありますが、CMFデザインとはどういうものかが知られてきました。しかし、どうやって自分たちでCMFデザインを開発したらいいのかわからないという企業に対して、開発自体のサポートや社内でCMFデザイナーを育成するための教育も行なっています。その際は開発プロジェクトに入ってその企業のメンバーと一緒に実際に開発しながら教えています。実戦を通して学んだ方が早く身につきますらね。

玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD creation 代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。S-MXで第1回オート・カラー・アワォードのファッションカラー賞受賞、シビックシリーズで第8回オート・カラー・アワォードの技術賞を受賞。2007年、プロダクトの表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD creation」設立。日本ではほとんど知られていないCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を日本で広め、日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。

初出日:2013.06.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの