誰もが「出社したい」と思えるオフィスへ
――余白と自然が交差する空間で、のびのびと働く
誰もが「出社したい」と思えるオフィスへ
――余白と自然が交差する空間で、のびのびと働く
当社は1914年に創業し、福岡県福岡市を拠点にする技術商社・メーカーです。 今回、オフィスの老朽化が進んだことをきっかけに移転新築を決定しました。
現在のオフィスは社員数に対してスペースが狭く、各自が座る席も固定されています。 そのため、人の動きが少なく、コミュニケーションの機会が不足しがちになるという課題が生じていました。 また、コロナ禍を経験し、対面で交流を図る重要性を再認識しているところでした。
今回のリニューアルでは、社員みんなが快適に働き、なおかつ偶発的なコミュニケーションが育まれる場をつくりたいと考えています。 席数や空間に余裕を持ち、執務する場所を個々が自由に選択できるフリーアドレス制を導入することにしました。 さらに、オフィスの各所に観葉植物を設置することで、オフィスにありがちな無機質な印象を払拭したいです。
自然を感じながらのびのびと過ごすことができる――社員誰もが出社することを楽しみだと思える、そんな価値ある空間を目指せればと思っています。
お客様の想いを受け取ってわたしたちが大切にしたいと考えたのは、人と人、人と自然が心地よく混じり合うリビングルームのようなオフィスづくりです。 無機質な雰囲気はできるだけ抑え、木目の什器やあたたかな色味の家具をセレクト。 社員数の1.5倍ほどの余裕ある席数を設け、その日の気分で席を選べる楽しみが持てるようにしました。
2階から3階と、3階から4階までを、オフィス中央付近に設けられた吹き抜け階段で繋げることで、上下への人の動きが自然と生み出されます。 また、各フロアでも横方向への人の動きが生まれるよう、思い切って「何も置かない」空間も多く設けました。 人がゆったりと行き交い、顔を見て声を掛け合う機会を増やすための仕掛けです。
新社屋ではさまざまな部署の人が一つの空間で働くことが想定されていたので、高さの異なるデスクを各所に配置したり、豊富な種類のチェアを導入したりと、気分や目的で席を変えながら日々いろいろな人と仕事ができるようにしました。 社員がリラックスでき、偶発的なコミュニケーションが育まれる、誰もが積極的に出社したくなる環境をご提案しています。
新社屋のエントランスに足を踏み入れると、広がっているのは白を基調とする洗練された空間です。 間接照明が織り成す陰影や、吹き抜けを彩るモダンな「ホトリウム(※)」の印象が相まって、高級感が醸し出されています。 ここは来訪者を迎えるロビーでありながら、同社が扱う製品を展示するショールーム機能も兼ね備えた場所です。
フロアに並ぶ数々の機械と、傍らに配置されたいくつかのベンチソファ。 これらの異質なもの同士がコーポレートカラーのブルーで揃えられていることにより統一感が生まれ、しっくりと馴染んでいます。 ベンチソファはちょっと荷物を置いたり腰掛けたりするのに便利で、お客様への細やかな配慮を欠かさない同社の姿勢が感じられます。 初めて訪れる人でも同社への関心がより一層高まる、価値ある空間です。
2階は、多彩なデスクにカラフルなチェアが遊び心を添える明るい執務フロア。 ビッグテーブル、ファミレス席、カウンター席、一人用のブースなど、さまざまな席が揃っています。
デスクやシェルフはあえて規則正しく並べず、それによりさまざまな場所に斜めの通路や交差点が生まれています。 たまたますれ違った社員同士で立ち話をしたり、同僚のそばを通りがかったついでに話しかけたりと、何気なく交流する声があちこちから聞こえます。
社員が健やかに過ごせるための配慮が随所に感じられるのも、このオフィスの魅力。 ハイテーブルでは、あえてチェアを使わず立って作業することで座りすぎを防止しながら、姿勢を変えて作業効率を上げる社員の姿も。 窓やシェルフ、デスクの中央にまであふれるように配置されたグリーンは、PC作業で疲れた目を癒してくれます。 いろいろなカタチのチェアがありますが、どれも座り心地のよいものばかり。 「今日はどこで作業しようかな」そんなわくわく感をもたらしてくれる、毎日来るのが楽しみになるオフィス。 良いアイデアも次々にひらめきそうです。
4階の執務フロアは、2階とはまた異なるシックで落ち着いた雰囲気です。 光が差し込む吹き抜け周辺のスペースは「ほとり」と称され、ビッグテーブルやファミレス席など、複数人で使える多彩な席が用意されています。 まさに水辺に生き物が引き寄せられるように、自然と人が集まる場所です。
窓辺の大きな植栽は、社員の癒やしになるだけでなく、隣接するマンションからの視界を遮ってくれる効果も。 執務用のデスクはパソコンを使いながら資料を広げられるゆとりがあり、仕事が捗ります。 集中したいときはパーティションのあるブース席に、コミュニケーションをとりたいときはビッグテーブルに。 席数が多くフロア全体にゆとりがあるため、働く場所を自由に選べて心にも余裕が生まれます。
フロア内をあちこち移動していると、どこにいても体感温度が均一であることに気づきます。 これはNearly ZEB(※)による床からのしみ出し空調がなせる技。 エアコンが効きすぎるエリアや、逆に届かないエリアは不人気になりがちですが、同社では床から均一に空調が効いているため、どの席も同じ室温で過ごせます。 天井を見上げてもダクトやエアコンがなく、すっきりとした空間になっています。
2階と4階の執務フロアに挟まれた3階には、「3Cafe(サンカフェ)」と名付けられた空間が広がります。 このフロアは“仕事禁止”のリフレッシュスペース。 足を踏み入れた瞬間から森の中にいるような良い香りが漂い、自分の中のスイッチがオフモードに切り替わるのを感じます。 遊び心あふれるさまざまな形状のソファやチェアは、座ってみるとどれも快適。 社員たちには、仕事中だけでなく休憩中も心地よく過ごしてほしい――そんな同社のあたたかな思いやりが垣間見えてきます。
ひときわ目を引くのは、本格的なアウトドアチェアがあり、緑に囲まれた解放的なエリア。 まるで自然の中でキャンプを楽しんでいるような気分にさせてくれます。
お昼時には、たくさんの社員がリフレッシュスペースに集まります。 お弁当を広げたり、飲み物を片手に談笑したり、静かに心と体を休めたり。 それぞれが思い思いの時間を過ごせる寛ぎの空間は、社員のモチベーションアップに寄与することでしょう。
3階にある会議エリアは、社外の関係者やお客様を招いての打ち合わせなどに活用できます。 一般的な会議室のほか、ソファを置いた応接室もありバラエティ豊か。 広々としたプレゼンテーションルームは大人数での勉強会などに便利です。
最上階にあたる5階は、VIP向けの会議室とラウンジで構成された、ラグジュアリーな雰囲気のフロアです。 バーカウンターを兼ねたアイランドキッチンも備えられており、立食パーティーが盛り上がりそうです。
太陽光がたっぷり降り注ぐ大きな窓の向こうには、リゾートホテルのガーデンのようなテラスが広がります。 テラスのグリーンや博多の空に目を癒しながら、仲間たちやお客様と語り合う時間。 この環境と人と人とが調和して紡ぎ出される、明るい未来が感じられます。
今回は、物理的にも心理的にもゆとりを創出するオフィスづくりの事例でした。 フリーアドレスを導入し、チェアやデスクの種類を増やして社内での過ごし方にバリエーションを与え、吹き抜けを効果的に活用して空間のつながりを生み出しています。 さらに、ふんだんに用いられたグリーンは、良い意味でオフィスらしくない空間づくりと社員の癒やしに一役買っています。
集中力を高めながらも自由なコミュニケーションが活性化される。 そんな場所でこそ、社員それぞれのポテンシャルが最大限に発揮され、結果として生み出される製品の質や生産性も向上していくのではないでしょうか。
Project’s Data
- 企業名
- 末松九機株式会社(現 安川メカトレック末松九機)様
- WEBサイト
- https://www.ym-c.co.jp/
- 編集
- モリヤワオン(ノオト)、オカムラ編集部
- 執筆
- 北村朱里