「変わらない」老舗企業の挑戦
――会社のハードを変え、社員のハートを変える
「変わらない」老舗企業の挑戦
――会社のハードを変え、社員のハートを変える
わたしたち特殊電極は、1933年に創業した特殊溶接の会社です。 特殊な金属を対象とした溶接棒の製造をはじめ、溶接分野に特化した製品や技術を提供しています。
兵庫県尼崎市にある本社社屋の老朽化に伴い、加古川市の新しい建物へ移転することにしました。 これを機に、尼崎市内に点在していた工場や倉庫も、新社屋へ集約します。
移転に伴い、実現したいことが2つあります。 1つ目は、社員同士のコミュニケーション活性化。 今後はさまざまな部署の社員が新社屋で業務にあたることになるため、部署や役職を超えた交流を促し、シナジーを生み出したいです。
2つ目は、社員の働き方に変革をもたらすこと。 現在の社屋では、社員は固定席で業務に当たっていますが、将来的には座席をフリーアドレス化し、より自由度の高い働き方を推進したいと考えています。 また、現在は書類が各社員のデスクに溜まっている状況のため、移転をきっかけ書類や紙類を整理し、ペーパーレスな環境の構築を目指します。
お客様は当初、部署ごとに仕切られたフロア設計を計画されていましたが、「社員同士の交流を活性化したい」というご要望を叶えるため、社員が集うワンフロアの執務エリアをご提案させていただきました。 部署間の物理的な壁をなくし、フロアを広く見渡せることで、業務や役職などの垣根を越えた交流が起こりやすい空間を目指しました。
また、交流の要として導入したのが、執務エリアの中央に配置したABWエリア「ジョインエリア(Join area)」。 仕事の内容に合った環境を自由に選んではたらくことで、業務の効率化も期待できます。
さらに「フリーアドレスでの座席運用」をご要望でしたが、オープンな職場環境への変化は、社員にとって戸惑いにつながる可能性も。 まずは従来の固定席にABWエリアを導入することをご提案しました。 自席に縛られない働き方を段階的に推進し、将来的にフリーアドレスでの運用を目指します。
長年慣れ親しんできた働き方や、これまでの風習を変えるのは難しいもの。 今導入できる現実的なラインを探りながら、働く社員のみなさんにとって良い刺激になるようなオフィスを設計しました。
オフィスと工場が一体となっている特殊電極本社は、四角い白壁の建屋に、大きく刻まれた会社ロゴが印象的です。 1階エントランスで天井を見上げると、LEDが会社のロゴマークである赤い太陽をモチーフに、半円形と放射状に伸びた光線を表すように配置されています。
2〜3階にある執務エリアへ足を踏み入れると、広々とした明るい空間が広がります。 デスクが縦・横・斜めとバランスよく並べられ、一人ひとりの執務スペースにもゆとりが。 部署を仕切る壁や背の高い什器が使われていないので、オフィスの奥まで見通すことができ、空間が広々と感じられます。
壁を建てない代わりに、床材の張り分けによってゆるやかにエリアを分け、動線を明確にしました。
いずれはフリーアドレスでの運用を目指す同社。 オフィスの移転を機に、固定電話の廃止やデスクトップPCからノートPCへの切り替え、ABWエリアの活用など、自席に縛られないワークスタイルへの意識改革を推進する真っ最中です。 また、共同キャビネットを活用し、資料を一元管理にすることで紙の削減にも取り組んでいます。
執務エリアの中心には、さまざまなワークスペースが配置されています。 多様なスタイルで社員が自由に業務を行い、社内コミュニケーションを促進する「ジョインエリア(Join area)」です。
モニターを中心に机が並べられたスペースでは、社員の発表に耳を傾けるメンバーたちの姿が。 会議室を利用せずとも、気軽に勉強会や説明会を開催することができます。 その他にも、ハイテーブルでの簡単な打ち合わせや、円形テーブルで隣り合っての話し合いなど、みんなが思い思いに空間を活用しています。
木目の床、カジュアルな色調の什器などを用いた温かみのある空間で、気分も程よくリラックス。 会話や議論も弾みます。
オンラインミーティングや打ち合わせには、1人用の集中ブースや、複数人が入れるブースが好評です。 扉はありませんが、吸音壁のため中の音が漏れにくく、外の音も気にならないのが特徴。 中に入ると包み込まれるような安心感があります。
ジョインエリアは執務席からひと続きになっており、部署を越えてさまざまな社員が集います。 社員同士の自然な交流を育み、そこからさまざまな交流が活性化することで、会社の未来につながるアイデアの創出が期待できます。
3階の執務エリアの奥へ進むと、グレーの床材やダークブラウンのデスクなど、シックな色調でまとめられたエリアがあります。 ここは、社長と役員の執務スペースです。
驚くべきは、社長・役員の働く空間が、他の社員の執務エリアやジョインエリアとシームレスにつながっていること。 社員の執務席やジョインエリアと一体の空間で、社長や役員も社員とともに業務に当たっています。 この空間設計は、社長の「社員とコミュニケーションをとりながら働きたい」という熱い想いから生まれたもの。 役職に関係なくともに働く風土を醸成し、会社の新たな未来を築いていこうという意気込みが感じられます。
一方、役員が揃っての重要な会議は、3階に設けられた役員会議室にて実施。 落ち着いたカラーの設えで、良い緊張感を持って会議に臨めます。
以前の社屋では、社員はランチ時になると外へ食べに行くか、持参したお弁当を自席で食べていました。 「食事や休憩の時間こそ、社員同士での交流を楽しんでほしい」。 そんな社長の想いから、新社屋の2階に誕生したのが「ジョインルーム(食堂)」です。
ジョインルームと外の廊下とを仕切る壁はガラス窓になっており、廊下から中の様子を伺うことができます。 白や水色を基調とした明るい執務エリアとは対象的に、落ち着いた色調の設えにポップなイエローを差し色として配置し、誰もが安らげるカジュアルな空間に。 自然な会話が生まれる憩いの場となっています。 テーブル席やソファ席、カウンター席とバリエーション豊かな席で、その日の気分に合わせて座る場所を選べるのもポイントです。 食事や休憩だけでなく、ABWエリアの一部としても活用されています。
執務エリアの窓際に配置されたカフェスペースにも、社員が羽を伸ばしに訪れます。 時には、先輩社員と若手社員が缶コーヒーを片手に談笑していることも。 リビングライクなローソファ席も、ちょっとした休憩に人気です。
移転後は、ランチや休憩は自席でなく、2階の「ジョインルーム」か、3階の「ジョインエリア」で楽しむという新たな企業文化が生まれました。
フラットな空間に社員が集い、互いに刺激し合いながら働く。 新しい社屋では、旧来の働き方から脱し、新たな文化が築かれていくことでしょう。
積み上げてきた自社文化の根強い老舗企業では、働き方や社内体質を変えていくのは難しいもの。 しかし、本事例では社屋やオフィス内装といったハードを大きく変化させ、社員の働き方に変革をもたらしました。
社員の気持ちや行動を変えるには時間がかかります。 本事例では、フリーアドレスでの運用をゴールに設定しつつ、まずはABWエリアを固定席運用に加えることで、自席に縛られない空間活用を推進していました。 現状から大きく乖離した執務環境へ一気に変化させるのではなく、自社のリアルな姿を見つめながら、長期的なビジョンを持って改革を進めていく。 社員に受け入れてもらいながら、一歩ずつ歩みを進めることが、新しい働き方を推進する上で大切な要素なのかもしれません。
Project’s Data
- 企業名
- 特殊電極株式会社
- WEBサイト
- https://www.tokuden.co.jp/
- 編集
- モリヤワオン(ノオト)、オカムラ編集部
- 執筆
- 國松珠実