多面的なデザインが実現する多彩な働き方
――新聞社の新たな「面」が生み出す協働の文化
多面的なデザインが実現する多彩な働き方
――新聞社の新たな「面」が生み出す協働の文化
高知新聞は1904年に創刊し、地域に根差した報道機関として情報を発信してきました。 まもなく迎える創刊120周年を前に、新オフィスへの移転が決定。 これを機に、社員がより働きやすい環境の整備を推進したいと考えています。
旧社屋は部局が通路や壁で仕切られ独立しています。 社員は自分のデスクを中心に限られたスペースで働いており、働き方にメリハリが生まれていません。 また、基本的に部局内での業務に終始しており、部署間の交流があまり取れていない状況です。 新しいオフィスではこれらを改善し、執務スペースを充実させながら、部署を越えた活発な交流を促していきたいです。
メリハリのある働き方や、社員同士の共創を実現したいというお話を伺い、ワークショップ実施を通して、新オフィスのコンセプトは「であう、きづく、つくる」に設定しました。
例えば、リフレッシュスペースや共有スペースに社員が自然と集まり「であう」。 間仕切りの少ない空間で他部署との連携の可能性に「きづく」。 固定席だけでなくミーティングブースや作業スペースを設けることで効率的に「つくる」。 さまざまな才能が交わる中で、高知新聞の新しい価値を創造するオフィス環境を生み出します。
また、同社があらゆる情報をさまざまな角度から捉え発信し、新聞発行以外にも多彩な事業を展開していること、新聞のページを「1面、2面」と呼ぶことにかけて、デザインキーワードは「多面」に。 各フロアにキーカラーを設定したり、天井や床の貼りを工夫したりと、さまざまな「面」の要素を盛り込んでいます。 さらに、各所に高知らしさを散りばめ、歴史・伝統・地域文化も尊重する空間デザインを目指しました。
高知新聞社の新オフィスが入居するのは、8階建てテナントビルの4階から8階です。 8階にある扉を抜けると、あたたかな高知県産ヒノキのカウンターと、木目パネルが目を引くエントランスが広がります。 ここは取引先や取材先だけでなく、調べものや新聞を買いにくる方を迎える来客エリア。
受付の上に貼られた34枚の木目パネルは、高知県の市町村数を表しています。 33枚の木目パネルは防火の観点もあってメラミン材でつくられていますが、実は1枚だけ、高知県産の天然ヒノキが使われています。 この装飾には、「真実を見極める」という新聞社の信念が込められています。
受付の奥にはオープンな打ち合わせスペースと会議室を併設しており、来訪者をお出迎えしてからシームレスに打ち合わせへ移動できます。 オープンスペースの壁には、高知市内を一望する五台山からの景色が。 一見モザイクアートのような壁面装飾ですが、近づいて見てみると、ひらがな、カタカナ、新聞で使用される常用漢字で表現されていることがわかります。
高知らしさ、新聞社らしさが、あらゆる装飾の中に隠されているのが、新しいオフィスの特徴です。
8階には、広々としたラウンジもあります。 従来のオフィスイメージから離れたカジュアルな内装デザインは、休憩時の利用はもちろん、場所を変えて働きたいときの業務エリアとしても人気です。 窓からは高知城を眺めることができ、窓際の席を選んで景色を楽しむ人の姿も。
椅子や机を動かせる有機的なデザインなので、用途に合わせてレイアウトを変更することができます。 広い空間と大きなモニターを活かして、終業後に社員がスポーツ観戦を楽しんだり、時には取引先や関係団体と連携してイベントを催したりと、さまざまな人が集まる空間が実現しました。
カフェコーナーも併設し、お菓子を購入する社員やランチに訪れた社員が言葉を交わす気軽なコミュニケーションエリアとなっています。 お知らせを掲出できる大きなデジタルサイネージや展示スペースもあり、情報に「であい」、「きづく」工夫がされています。
4階から7階までは、社員が業務にあたる執務エリアです。 座席の配置を均一にし、人員の増減にも対応しやすいユニバーサルレイアウトを採用しています。
どのフロアも背の高い棚や壁で仕切らず、部屋の奥まで見通せる開放的な空間です。 各部局の距離が縮まり、「この前話していた件、今いい感じなんだってね!」「その情報、うちの部にも教えてくれない?」といった会話も日常的に。 また、これまでは部署ごとにあったプリンターもフロアで共有するなど、レイアウトを工夫することで偶発的な出会いを創出しています。
執務エリアには、ABW(Activity Based Working)スペースも併設。 これは、働く内容に合わせて自由に選べる業務スペースのことです。 執務デスクからほど近い場所に設置されたテーブルでは、チームメンバーが資料を広げてディスカッションすることも。 そのほかにも、個人作業に打ち込める集中ブースや、気軽に使える半個室のミーティングブースなど、作業内容や人数、気分に合わせて働く場所を選べます。
また、「高知らしさ」を込めた空間デザインはABWスペースにも。 4階は龍河洞や竜串海岸をイメージしたブラウンやイエロー、5階は名産であるサンゴのレッド、6階は仁淀川や四万十川を思わせるライトブルー、7階は豊かな自然を表現するグリーン――高知にちなんだ色合いが目を楽しませてくれます。 長年、地域とのつながりを大切にしてきた高知新聞社の想いを反映したデザインだといえるでしょう。
4階には、執務スペースのほか、役員室や応接室が設置されています。 役員が使用する会議室はプライバシーを守りつつガラス張りを採用し、空間の隔たりを減らしています。
社内で重要な来客対応や取材対応をすることも多い新聞社にとって、応接エリアはまさに会社の顔。 ステークホルダーや取材先との会議にはとっておきの空間を用意しました。 待合スペースに一歩足を踏み入れると、ここがオフィスであることを忘れてしまうようなシックな空間が広がります。 高知県出身作家らの作品が飾られ、まるで美術館のよう。 自社主催の高知県美術展覧会で殿堂入りした作家も紹介し、高知らしさの表現に一役買っています。
5階と6階は新聞を制作する編集局のエリア。 このフロアの大きな特徴は、中央にある中階段です。 各部のメンバーが連携しやすいよう、中階段が5階と6階をつなぐ役割を果たします。 さらに2つのフロアをつなぐものとして、原稿をやりとりする中継棚があります。 この棚は、校閲班がチェックした原稿のやりとりなどに利用され、原稿を出した記者やレイアウト担当記者らとの間でコミュニケーションのすれ違いを防ぐことに役立っています。 前オフィスでも同様の役割を果たす棚がありましたが、オフィス移転するにあたり新しくつくり直し、より使いやすくなりました。
紙面のレイアウトや見出しの作成を行う編集部では、その日に担当する紙面によって席が変わります。 そのため、モバイルロッカーを活用しスムーズに席を変えられるように工夫しています。 社員がそれぞれどんな作業をしているのかが一目でわかる、開放的な作業環境が印象的です。
また、編集局エリアの一角には広い書庫スペースがあります。 地域にまつわる幅広い文献を網羅していて、今ではもう手に入らない貴重な資料も。 「社説」を担当する論説委員の題材探しや、記事のエビデンスとして活用され、さまざまな編集メンバーが行き交います。
壁をなくし、心理的な壁も取り払った新オフィス。 協働を叶える環境は、きっと同社の魅力をますます磨き上げることにつながるでしょう。
今回は、空間の使い方を工夫することで、他部署との交流や、多彩な働き方を実現した事例でした。 また、新聞社らしさ・高知らしさを散りばめたデザインにより、社内の一体感が生まれています。
オフィスでは、地元で歴史ある新聞社として伝統を守りつつ、新しい風を取り入れ変化していく様子が感じられます。 「新しい環境へ」と言っても、それぞれの会社で求められる要素・残していくべき要素は異なります。 自社が目指す姿をしっかりと言語化し、本当に働きやすい空間とは何なのかを考えることで、新しい価値を創造するオフィス環境を実現している好事例です。
Project’s Data
- 企業名
- 株式会社高知新聞社
- プロジェクト名
- 高知新聞社 本社移転プロジェクト
- WEBサイト
- https://corporate.kochinews.co.jp/
- 編集
- モリヤワオン(ノオト)、オカムラ編集部
- 執筆
- ことのは舎