「風通しの良さ」を強みとする、垣根のないワンフロアオフィス
――ペーパーレスな働き方に挑戦する新しい新聞社のカタチ
「風通しの良さ」を強みとする、垣根のないワンフロアオフィス
――ペーパーレスな働き方に挑戦する新しい新聞社のカタチ
朝日新聞名古屋本社では、10年以上大規模なオフィスリニューアルができておらず、3〜5階に分かれたフロア構成も現在の要員や組織形態に合っているとは言えない状態です。 また、執務スペースは部署ごとに仕切られているため、社員同士の交流が生まれにくいという課題もあります。
そこで、今回のオフィス改革ではすべての部署をワンフロアに集約し、部署間の垣根を超えた自由で活発なコミュニケーションの機会を生み出したいと考えます。
また、現在は各部署・各局でそれぞれ新聞を保管しており、あらゆる場所に資料や掲載紙が山積みとなっています。 今回のリニューアルを機にこのような状況を打開し、ペーパーレス化によって環境に配慮した空間を実現したい――持続可能な社会づくりに取り組む姿勢を世の中に向けて示していきたいです。
課題であった「部署間のコミュニケーション」を活性化させるため、フリーアドレス制を導入し、フロア全体を見渡せるオープンな空間設計を提案しました。 具体的には、壁や背の高い什器をできるだけ設置せず、物理的に部署間の垣根がないオフィスを生み出します。 また、フロア中央にはコミュニケーションの中心となるラウンジスペースを設け、カジュアルな交流を促進します。
紙の削減には、社員の意識変革が欠かせません。 オカムラが主催する文書削減ワークショップを幾度も重ね、会社としての指針と方向性をすり合わせました。 このように社員を巻き込んだワークショップを多角的に開催したのも、当プロジェクトの大きなポイントです。 また、排出する紙の削減と環境に配慮した働き方を推進するために、新聞を1カ所に集約する空間を設計。 家具や内装材にもリサイクル資源を活用したものを選びました。
2025年に発刊90周年を迎える朝日新聞名古屋本社の、存在価値とブランドイメージを高めるオフィスを目指しました。
「朝日新聞社」のロゴが目に飛び込むエントランスの壁面は、再生材を利用した意匠的なデザインが印象的。 床や待ち合いスペースのイス、観葉植物のプランターポットなど、ありとあらゆる設備に環境配慮素材を使用しており、同社のSDGsに取り組む姿勢がうかがえます。
エントランスを抜けると、落ち着いた雰囲気のラウンジが広がります。 社員同士の交流や取材、イベントで利用されるこのスペースは、暖色のLED電球や小鳥のさえずりが聞こえるサウンドシステムによって、リラックスできる空間に。
廃棄された漁網を生地の原料として活用したソファは、リサイクル製品とは思えない柔らかな座り心地です。 また、ラウンジを含む社内には観葉植物がたくさん置かれていて、鮮やかなグリーンに心が癒やされます。 よく見ると、鉢や植物の種類が一つひとつ異なっており、さりげないこだわりを感じます。
ラウンジの中央には大きな時計台が。 時間や情報の鮮度が命ともいえる新聞社において、これはシンボリックな存在です。 時計台の四面に時計盤を設置し、フロアのどこにいても時間が見えるよう工夫されています。
ラウンジのソファに腰を掛けると、左右に執務エリアを見渡すことができます。 間仕切りがほとんどなく、見通しの良い空間が広がっているのが新しいオフィスの特徴です。
お互いの顔が見えることで他の社員が何をしているのかがわかり、気軽に声をかけやすくなりました。 従来のオフィスではすれ違うことすらなかった他部署のメンバーとも自然に会話が生まれ、情報やアイデアを得る機会が増えています。
フロアごとに分かれていた各部のマネージャー室は、マネージャー同士でも日常的に会話が生まれるよう1つの部屋に集約しました。 機密情報を扱うことがあるため個室にする必要がありましたが、壁を全面ガラス張りにすることでオープンな環境との両立が実現しています。
社員の座席はフリーアドレスを採用しています。 各社員は荷物を個人ロッカーで管理するので、仕事道具がデスクに置きっぱなしになることがなく、常に整頓された状態を保っています。 また、ポータブルバッテリーを36台導入しているため、電源の位置に縛られることなく好きな場所で働くことができるようになりました。
改装後は、執務エリアを開放して子ども向けのワークショップを開催するなど、新しい活用方法も生まれています。 資料があちこちに山積することのない空間設計、そして有機的なオフィスデザインを採用したからこそ、こういった新しい取り組みが実現したのです。
さまざまなワークスペースにも注目です。 程よい仕切りに囲まれ集中力を高めるワークブース、グリーンを配した窓際のソファ席……その日の気分や業務内容に合わせて使い分けることができるのです。
高さ違いのビッグテーブルでは、立ち話での軽い打ち合せや、記者がその場でメモを取る姿をよく見かけます。 そのほか、曲線的なテーブルやさまざまな形のイスなど、従来のオフィスイメージにとらわれない新しい環境は社員たちに好評です。 まるでカフェで働いているかのような開放的な気分で、それぞれお気に入りのスタイルで仕事に取り組んでいます。
ミーティングスペースにも一工夫が。 WEB会議や面談で利用するフルクローズ型のワークブースや、サッと使用できるオープンな会議スペースを完備し、打ち合わせの内容や人数、スタイルによって、適した場所を選ぶことができます。
一方、重要な来客対応は、重厚感のある設えの応接会議室を使用します。 こちらは遮音性の高い擦りガラスの壁を使用し、プライバシーを守りながら閉塞感を軽減しています。
以前はとにかく「打ち合わせは会議室で」という考え方でしたが、リニューアル後はオープンスペースで気軽に済ませる人が増え、時間短縮や生産性の向上につながっているといいます。
グループ会社の朝日新聞総合サービス業務サポート課は、リニューアル前と同じく固定メンバーが集まって働くスタイル。 しかし、空間を壁ではなく個人ロッカーで区切っているので、かつてのように部署が孤立するような雰囲気はありません。 業務の特徴に応じて働き方を柔軟に調整しながら、全体としての開放感は保たれています。
記者や映像報道のカメラマンが在籍する編集局は専門的な機材を使うことが多いため、一部はグループアドレスが採用されています。 編集局の「デスク職」が使用している特徴的な六角形のテーブルは、かつてパソコンもワープロもない時代に6人1チームで業務に当たっていたスタイルを継承。 ジャーナリズムを新しい時代にも引き継いでいく気概を表しています。
新聞社として積極的に紙の削減に取り組むため、コピー機はカード認証の複合機に替え、余計な印刷をしないよう心がけています。
各人や各部署のローカルルールで管理していた新聞のバックナンバーは、「掲載紙集約エリア」を設けて保管スペースを共有化しました。 掲載紙は直近の1カ月分のみを保管するルールとすることで、以前よりも印刷物を劇的に減らすことに成功しました。
掲載紙集約エリアには、カウンターとしても利用できる収納を設置。 カウンターがあることによって、掲載紙を読む社員やゴミを捨てに来た社員同士のちょっとした会話が生まれやすくなりました。 省スペース・ペーパーレス化にとどまらず、細やかな工夫が利用者同士の交流の機会を創出しています。
新聞社として、ここまでペーパーレス化やオフィス改革を実施した企業はまだ珍しいのではないでしょうか。 朝日新聞名古屋本社の革新的な取り組みは、業界全体の働き方改革を少しずつ推し進めていきそうです。
「紙を基盤とした業種において、フリーアドレスの採用とペーパーレス化を実現するのは難しい」と言われる中で、本事例からはさまざまな試行錯誤が見て取れました。 新たなオフィスでは、実際に紙が削減され、社員同士での新しい交流が生まれています。
業界によって変えにくい習慣や働き方はあるもの。 しかし、朝日新聞名古屋本社では、これまでの「当たり前」を疑いオフィス空間から変化を促すことで、常識を打ち破り新しい働き方を構築することができたのです。 変化しづらい業界で働き方を変えていくための、一つの指針となる事例だと言えるのではないでしょうか。
Project’s Data
- 業種
- 新聞・デジタルメディアによるコンテンツ事業
- 企業名
- 株式会社朝日新聞社
- プロジェクト名
- 名古屋本社改装プロジェクト
- WEBサイト
- https://www.asahi.com/corporate/
- 編集
- モリヤワオン(ノオト)、オカムラ編集部
- 執筆
- 笹田理恵