「行かなくてもいい」時代に「行きたくなる」オフィスをつくる意味
――はたらき方の選択肢と空間の余白がもたらすもの
「行かなくてもいい」時代に「行きたくなる」オフィスをつくる意味
――はたらき方の選択肢と空間の余白がもたらすもの
新型コロナウイルスの流行により出社率1割程度の状況が続いていることで、わたしたちのオフィスでも雑談やプライベートでの関わり合いが減り、チーム内のコミュニケーション不足を実感しています。 それによって社員のワークエンゲージメントが低下し、マネージャー層もチーム管理の難しさを感じています。
そこで社員が自らオフィスに行きたくなる、社員同士の絆を強めるコミュニケーションをたくさん取れる場をつくろうと考えています。 2016年の会社設立以来、オフィスの運用は多くが固定席。 これではせっかく社員がオフィスに集まっても、部門を超えた活発なコミュニケーションが生まれにくいと思います。 そこで、空間とともにオフィスでの働き方も変化させたいと考えています。
具体的には、これまで営業部門のみ採用していたフリーアドレス運用を全部門に拡大し、社員全員がコミュニケーションをたくさん取れるオフィス空間を目指します。 社内外の面談が多いため、オンライン会議にも対応できる多様なワークスタイルも取り入れたいです。 一方で既存の壁を活かすなど、工事範囲を最小限にしてコストは出来るだけ抑えたいと思っています。
元々セルムさんには部活動というとても良い文化があったのに、コロナ禍になってほとんど活動できていないことを残念だとおっしゃっていました。
そこで、お客様のコーポレートスローガンである「Activate Your Potential」を象徴する「場」をつくることをご提案しました。 新しいオフィスでリアルにコミュニケーションをとることで、社員同士でどんどんアイデアをアウトプットし、「たまったモノから新しいモノが芽生えるように!」という想いを込めてコンセプトは「TAMARU-BA(溜まる場)」としています。
TAMARU-BAには、「ハコ・コト・ヨハク」の3つの要素があります。 「ハコ」とは新しいオフィス、入れ物のこと。 「コト」とは会社に行きたくなる仕掛け、そして「ヨハク」とは社員の活動を後押しし、自発を促すための要素――。 そんな3つの要素を基にオフィス構築をしていきます。
コンセプトの「TAMARU-BA」をそのまま表現する場として、オフィスのシンボルであるワークラウンジも「TAMARU BA」と名付け、どのようにすればこのラウンジを中心としてコミュニケーションが生まれるかを特に検討しました。 100%フリーアドレスへと大きく変化する執務エリアは、様々なワークスタイルが叶うABWを導入。 行きたくなるオフィスを設え、セルム様の良い文化・風土を継承できる空間をつくっています。
オフィスに入ると、木のぬくもりとあたたかみのあるソファスペースが出迎えてくれます。 ここは人と人とが交わりやすい出会いの場。 社員同士が一緒に出かけるときの待ち合わせポイントや、ちょっとした来訪者対応ができる空間です。
その先には、オフィスの中心といえるワークラウンジ「TAMARU BA」が。 既存の曲線壁がTAMARU BAの象徴となるように、自由に想いを表現できるホワイトボードとして活用されています。 オープンな打合せスペースとして、立ち会議でさっと使用したり、座って少し長めの会議をしたりと、目的や気分に応じてリラックスしながら感情共有ができる場です。 個人ロッカーはオフィスの奥にあり、出社した社員は自ずとTAMARU BAを通るように設計されています。 ここから四方へ広がる執務エリアとも一体感が出るよう、エリアをあえて区切らない工夫がされています。
コミュニケーションの中心であるTAMARU BAには、ハイチェアが置かれたおしゃれなキッチンカウンターがあります。 おいしいものがあると自然と人が集まってくる、そんな人間の心理をうまく利用し、飲食を介して親睦を深めることができるようにビールサーバーも設置されています。 木曜日と金曜日の夕方に解禁される「ビールの日」に合わせて出社するのもちょっとした楽しみです。 また、朝出社するとよくキッチンカウンターに座っている社長の姿を目にします。 そこには、社長も社員と同じ立場にたって、今日の顔色や様子を伺いたいという想いがあるようです。
時にはコーヒーを片手に、キッチンカウンターの隣のライブラリーで調べものや読書をする社員の姿も。 まるでブックカフェにいるかのようなライブラリーでは、社長と社員のお気に入りの本を自由に貸し借りできます。 本のセレクトを通して、社員も社長の頭の中やこれからの会社のビジョンを覗き見できるかもしれません。 飲食や読書の効果でリラックスした状態だからこそ生まれるコミュニケーションもあるのではないでしょうか。
新オフィスは、ワンフロアをほぼ壁で仕切らないオープンで開放的なワークスペースになっています。 100%フリーアドレス運用で、ビッグテーブルやファミレスブース、集中ブースなどシーンに応じてワークスタイルを選べる、ABWを取り入れたオフィスです。 TAMARU BA付近には気軽にミーティングを行える雰囲気がありますが、そこから奥に行くにつれて、段々と集中空間に移っていく設計です。
また、ビーコンを使って社外からも今誰がオフィスにいるのか確認できる「Beacapp HERE(座席位置検知システム)」を導入しています。 これはスマートフォンやPCの画面上から、現在オフィスにいる社員名や位置情報を検索できるシステムです。 「出社しているAさんと打合せしたいから今日は出社しよう」といったワークスタイルも選ぶことができます。 話したい仲間がどこにいるのかを事前に確認したうえで働く場所を選択できると、個人作業がはかどりやすいリモートワークとリアルコミュニケーションを効率的に使い分けられ、社員同士のアウトプットもより捗りそうです。
オープンな執務エリアのなかにも、クローズドな個室ブースエリアが2か所設けられています。 WEB会議や社内外のオンライン面談などが主流となり、少人数での個室利用のニーズが高まったことから、4人用フルクローズ型ワークブースを6台設置しました。 6台すべてがいつも埋まるほど、人気の高いエリアです。 そのうち2台は、オンライン研修などにて長時間ひとりでこもっても居心地が良いように、1~2名で使う広めのブースになっています。
このブースもただ整然と並べるのではなく、住宅の街区ごと開発するときの発想からヒントを得て、街並みのようにずらして配置することで空間の余白を作り出しています。 ブース3台の角度を変えて並べ、中心にできた三角形の空間にグリーンを飾り、中庭のようにブース内からも緑を楽しめるスペースとなっています。 実際にブース内に入ってみると、外の喧騒から離れ静かな空間の中で集中して作業を行えます。 さらに、各ブースにはそれぞれ香りの異なるアロマを用意。 “視覚”と“嗅覚”の両方から癒しを与えてリラックス効果も抜群です。 また、ブースをずらして並べ出来た外側の余白も有効活用。 可動式のホワイトボードを設置することで、ぱっとミーティングを行えるスペースになっています。
窓側の個室エリアは既存の部屋を利用してつくられた、社内会議やリラックスができる環境です。 3つの部屋はそれぞれ異なる用途と特徴を持った「〇〇ニワ」という名前が付けられています。 社長もフリーアドレスにしたことで不要となった社長室は、装いを新たに「ナカニワ」に生まれ変わりました。 芝生を模したタイルカーペットとアウトドアチェアが、まるでピクニックにでも来たかのような雰囲気を演出しています。 リアルグリーンも多く開放的な部屋になっています。 隣の「ハコニワ」は、土足厳禁で靴を脱いでくつろげるスペース。 仕事で疲れた体をストレッチしたり、ビーズクッションでゴロンとリラックスしたりしながら会話を楽しめます。 一方、「ウラニワ」は照明の明るさを抑え、ムーディーで落ち着いたカラオケルームのような会議室。 来客会議室としても使用でき、社内で好評です。
3つのニワに隣接する「スタジオ」とよばれる部屋は、もともとあった部活動文化のひとつの音楽活動ができる防音室仕様のハコとなっています。 楽器を持ち込み、音を奏でることが可能なオフィスでは珍しい空間です。 社員のニーズに合わせて、様々なハコ=入れ物をつくる――ここでも面白い仕掛けを発見できました。
今回は社員に自発的にオフィスに来てもらうために様々なアイデアや仕掛けを採用した事例でした。 テレワークが定着するなかで、社員がオフィスに行きたくなるオフィスにしたいとの声を聞くことも多くなりました。 オンラインでは実現できていないリアルでのコミュニケーションを促し、社員のエンゲージメントを再び向上させることを目指せば、オフィスに求められるものは自然と見えてくるのかもしれません。 フリーアドレス運用への移行と、空間の余白を大事にした“ゆったりとした”オフィスづくり。 色々な仕掛けに基づいて空間を設計することが、行きたくなるオフィスづくりには必要なのではないでしょうか。
Project’s Data
- 業種
- 人事組織系コンサルティング業
- 企業名
- 株式会社セルム
- プロジェクト名
- セルム東京本社改装プロジェクト
- WEBサイト
- https://www.celm.co.jp/