ただ集まるのではなく「仲間を近くに感じられる」空間のつくり方
――社員同士が最適な距離感で働けるコミュニケーションを設計する
ただ集まるのではなく「仲間を近くに感じられる」空間のつくり方
――社員同士が最適な距離感で働けるコミュニケーションを設計する
わたしたちは2001年の設立以来、多様な社員が働きやすい環境づくりを目指し、在宅勤務や時差出勤などの様々な制度を取り入れてきました。 しかしその反面で、長期化するコロナ禍においてオフィス内では物理的に社員同士の距離が遠くなり、交流の機会が少なくなってしまいました。 そこで、新しい働き方に対応したよりよい環境を実現すべく、大阪本社オフィスを再構築します。
新しい大阪本社は、仲間をもっと身近に感じるオフィスでありたいと考えています。 在宅勤務には在宅勤務の良さがあり、オフィスにはオフィスの良さがあります。 そして、最適な働く環境は人によって、日によって異なります。 オフィスに来ることを促すのではなく、様々な理由でオフィスに集まった社員たちが、その瞬間そこにいる仲間と自然に交わり、繋がり、刺激しあう、「仲間を近くに感じる」オフィスを目指します。
お客様の求めるオフィス像を徹底的に考えた末、私たちが辿り着いた答えは「わ」というコンセプトでした。 「わ」はイルグルム様のロゴのモチーフである「輪ゴム」から着想を得ています。 輪ゴムは、それ自体では意味は持たないけれど、使う人によって様々な意味を持ち、無限の可能性を象徴しています。 また、一人ひとりの個性と多様性の意味が込められており、それらを発揮できるオフィスをつくることで、社員同士の和を強める狙いがあります。 そして社員同士の輪、すなわちコミュニケーションの輪を生み出すことで、ただ集まるだけでなく「仲間を近くに感じられる」空間の実現を目指しました。
仲間を近くに感じられる「距離感」にこだわり、執務エリアにはほとんど壁を設けていません。 また、限られた空間の中で交流と集中を両立するために、家具の選定・配置はもちろん、電源や座席の運用の部分までサポートさせていただきました。 オフィスのつくり方次第で、働く社員がそれぞれの最適な「距離感」で仲間と接することができる、デザインにはそんな力があると信じています。
はじめにお客様を迎えるのは、どことなく粗さの残る素材の壁とコーポレートカラーのオレンジが印象的なエントランスです。 実はこの壁、一般的には壁や天井の下地材として使われるものをそのまま見せており、あえて表面をきれいに仕上げていません。 この壁には「未完成さ」が表現されており、これから何にでもなり得るという可能性が秘められています。 企業ロゴの「5つの輪ゴム」が意味する「無限の可能性」をエントランスデザインに落とし込むことで、イルグルム「らしさ」を感じられるエントランスになっています。
エントランスから直接繋がる来客用会議室の扉を開くと、思わず見入ってしまうような壁一面のウォールアートが目に飛び込んできます。 このウォールアートは、イルグルムのミッションである「IMPACT ON THE WORLD」を描いたもの。 来訪者に企業の想いを伝えるだけでなく、場を和ます会話のきっかけにもなっています。
皆が集まる執務エリアは、コーポレートカラーのオレンジを基調としたあたたかみのある明るい雰囲気。 イスやデスクは丸みを帯びたものが多く採用されており、空間全体から柔らかい印象を感じ取ることができます。 仲間を近くに感じるためには、物理的な距離だけではなく、心の距離も近づく必要があります。 このような明るくて柔らかいインテリアデザインはその場にいる人達に安心感を与え、仲間との心理的距離を自然に近づける役割を果たしています。 オフィスの内装の一つ一つがコミュニケーションの「わ」を生み出す仕掛けになっているのです。
あたたかい色が多い執務エリアで、ひときわ目立つのが本棚の後ろにある青い壁。 あえてオレンジ色の補色(色相環における反対色)である青色を取り入れることで、オレンジ色を引き立たせ、執務エリアの明るさを強調しています。
中央にある円形のカウンターは、このオフィスの主役ともいえる社員同士の交流拠点です。 壁がほとんどなくオープンな執務エリアでは、オフィスのどこにいてもこのカウンターを見ることができます。 ここでコーヒーを入れたり仕事をしたりしていると、通りがかりや外出先から帰って来た人と自然と目が合って、「おつかれ、今日はどうだった?」なんて会話が生まれる、まさにコミュニケーションの「わ」を生みだすカウンターです。 このカウンターに数人が集まっていると、知らない間に周りから人がどんどん集まっていることも。 社員からは「以前より他の仲間と話す機会が増えた!」という声もきこえてきます。
カウンターを照らすペンダントライトは、企業ロゴの「5つの輪ゴム」をモチーフにした特別な照明になっています。 会社のシンボルをオフィスのデザインの一部として昇華させることで、そこに込められた可能性や多様性といった会社の想いが社員へと伝わっていきます。
一部の席を除きほとんどの席には電源がなく、ポータブルバッテリー「OC(オーシー)」から電源を取るようになっています。 「OC」を導入したことで、社員一人ひとりが電源に縛られずに働く場所と周りとの距離を柔軟に選択できるようになりました。 特にソファ周りの席は、働くシーンに応じてイスやテーブルを自由に動かすことができるとてもフレキシブルな席です。 「OC」を電源とするモニターと組み合わせることで、配線を気にすることなくオープンなミーティングスペースを作ることもできます。
執務エリアの明るい雰囲気をより際立たせているのが、ソファ席の壁に描かれたウォールアート。 一人ひとりの多様性をテーマに、柔軟に変化する強さとしなやかさをイメージする花束が描かれています。 電源による場所の制約がなくウォールアートが明るく照らすソファ周りの席は、飲食とWEB会議も可能な自由度の高い席。 その自由で気軽な雰囲気ゆえに社員同士の距離が近くなり、自然なコミュニケーションが生まれる人気の席です。
社員同士のコミュニケーションが重視されているオフィスですが、集中して作業できるエリアもしっかり確保しています。 二つの集中エリアのうち、程よい距離感で集中作業を行えるエリアが、カフェエリアに隣接している窓側集中エリアです。 このエリアでは、窓向きの席に座る人が背後からの視線を気にしなくて済むように、その少し手前に上下昇降デスクやシェルフを置いてちょっとした壁を作る工夫が施されています。 さらに、飲食とWEB会議を禁止することで、周囲の空間と近い距離感を保ちながらも、集中しやすい環境を整えています。
執務エリアから目の届かない、来客会議室の裏側に位置する奥まった空間に作られた高集中エリアは、遠い距離感を意識してつくられた空間です。 でこぼこした躯体の特徴を生かしてわざと入口を狭くし、内部の空間を広くすることで、扉がなくても周囲の視線や音を遮ることができています。 高集中エリアは、このオフィスの中で最も周りとの距離感が遠い空間で、一人で黙々と作業したいときやWEB会議を行うときに重宝されています。
今回は、社員同士のコミュニケーションを軸に据えて新しいオフィスづくりに取り組んだ事例でした。 円滑なコミュニケーションを実現するためには、仲間との物理的な距離だけではなく、心理的な距離を縮めることも大事です。 リラックスする場所と集中する場所を分けたり、気軽に話しかけやすい明るい内装にしたりとオフィスの設えと運用を工夫すれば、社員同士のコミュニケーションを促すとともに、働き心地の良いオフィスを作ることができます。 仲間を心身ともに近くに感じられ、気軽にコミュニケーションができるオフィスこそ、「行きたくなるオフィス」なのではないでしょうか。
Project’s Data
- 業種
- 情報・通信業
- 企業名
- 株式会社イルグルム
- プロジェクト名
- イルグルム 大阪本社移転プロジェクト
- WEBサイト
- https://www.yrglm.co.jp/