倉庫改装から生まれた社員のための秘密基地
――自然と人が集まる、居心地の良い空間のつくり方
倉庫改装から生まれた社員のための秘密基地
――自然と人が集まる、居心地の良い空間のつくり方
わたしたちは三菱ビルの5~7階にオフィスを構えており、かねてからフロアが分かれていることによるコミュニケーションの取りづらさを感じていました。 しかし、限られたオフィス空間のなかにコミュニケーションエリアを新設することは、現実的に難しいものがあります。 そこで、倉庫やサーバー室として利用していたB1階スペースを改装し、新たに社員同士のコミュニケーションを誘引するマルチスペースを構築します。
新たに構築するスペースは、固定席運用のオフィスフロアとは異なり、従業員が好きな場所を選んで働くフリーワークスペースにしたいと考えています。 また、昨今主流となってきたオンライン会議に対応し、周囲の環境を気にせず会議に集中できるミーティングエリアを確保します。 社内イベントを開催したり、ちょっとした運動もできたりするような活気ある空間も設けたいですね。 東京駅にも近い立地特性を活かして、他拠点社員にもタッチダウンスペースとして気軽に利用してもらいたいと思っています。 次の世代に向けて、新しい働き方にトライしたいですね。
今回のプロジェクトの大きな目的は、コミュニケーションの活性化。 オフィスフロアから距離のあるB1階に人が集まり、部門を超えてコミュニケーションをとってもらうためには、機能面とデザイン面の両方から“人が集まる仕掛け”をちりばめる必要があると考えました。 機能面では、偶発的な出会いを生み出し、人がつながるための結節点「HUB(ハブ)」を中心にデザインしました。 HUBの役割を果たすカフェカウンターは、コーヒーメーカーなどを置くことで自然と人が集まる憩いの場となります。 同様に、柱を利用して作ったライブラリーも、共通の興味からコミュニケーションを広げられるHUBスポットです。 デザイン面では、人が集まり会話がはじけ合うような空間にしたいという想いを込め、「Sparkling Office(スパークリングオフィス)」というコンセプトで内装やインテリアを決めていきました。 みずみずしいブルーをベースに、ホワイトや明るい木目、ゴールドをバランスよく組み合わせることで、気分がリフレッシュでき、また訪れたくなるさわやかな空間を目指しています。
お客様と打ち合わせを進める中で、「化学メーカーとして環境への意識を社内から高めていきたい」との要望もお伺いしました。 そこで、使用する内装材や家具はできるだけ環境に配慮した製品を中心に選定しています。
エレベーターで地下1階へ降りると、等間隔に設置されたスチール扉のなかにひとつだけ、鮮やかなブルーのサインが施された扉があります。 ここが今回改装したスペース「Multi Base One(マルチベースワン)」の入り口です。 扉を開けると、少し薄暗かった廊下から一気に別世界へと瞬間移動。 すっきりとしたホワイトに清々しいブルーがはじける、明るく爽快な空間が広がります。 空間全体の半分を占めるカフェエリアは、明るい木目やグリーンを多く使用したリフレッシュエリア。 利用する社員の方々は、一人で落ち着いて仕事をするもよし、複数人でリラックスしながらコミュニケーションを取るもよし、それぞれのペースで健やかに過ごすことができます。
カフェエリアの中心に据えるのは、大きな柱を利用した「持ち寄りライブラリー」。 従業員が好きな本を自由に共有できるひとつめのHUBスポットです。 持ち寄る本はビジネス書や技術書だけでなく、マナー本や小説などなんでもOK。 「みんなにもぜひ読んで欲しい!」と思う本を自由に持ち寄ります。 今まで全く興味のなかった分野の本に触れてみたり、共通の趣味が見つかって思わぬ人と関係性が深まったり、人が集いコミュニケーションの起点となるシンボル的存在です。
チームメンバーとの打ち合わせは、洞窟のようなファミレスブースで。 音と視線を和らげるちょうど良いこもり感なので、周囲を気にせず安心して議論を進めることができます。 内部はあえてダークな仕上げとなっているため、集中スペースにもぴったり。 トンネルや洞窟を見つけると思わず中に入ってみたくなる、そんなこども心を思い出します。
大きなロゴマークの前にあるのは、ふたつめのHUBスポットであるカフェカウンター。 コーヒーを入れる待ち時間やお弁当を温める時間に、ちょっとした会話を生み出してくれる空間です。 味覚や嗅覚など、五感を刺激することも大事な役割のひとつ。 業務中とは少し異なる柔らかなコミュニケーションが場に賑わいをもたらします。
カフェカウンターのすぐ横は、大きな壁掛けモニターを中心に集まれるソファスペース。 チェアよりも座ったときの目線が低くなるソファには、自然と気持ちをリラックスさせる効果があります。 コーヒーを飲みながら近況を報告しあったり、モニターを見ながら意見を出し合ったり、時間帯によって表情を変える多目的な空間です。 ソファセットや床に敷かれたラグには、環境に配慮した素材が使用されています。 単一素材で作られた張地はリサイクルに適しており、製品としての役目を全うした場合も、また新しい製品に生まれ変わることができます。 通路に面したソロワーク用ベンチソファの張地も、100%リサイクル素材から製造したポリエステル素材。 リサイクルや微生物分解が可能です。
ソロワークスペースを抜けると、開放感抜群のフリーエリアが出現します。 靴を脱いであがる小上がりスペースは、ちょっとした運動ができるエクササイズ空間。 身体を動かしながら日々の疲れを癒すなど、インフォーマルなコミュニケーションを実現できます。 身体を丸ごと包み込む大きなクッションで、くつろぎながら仕事をできることもこの空間の特権。 天井が抜けているので、床が上がっていても圧迫感を感じさせません。
フロア部分にはひとりでも複数人でも利用できるテーブルセットを配置。 壁面の大きなホワイトボードを利用して、お互いの考えやアイデアを整理できます。 実はここにも環境への思いやりが。 丸みを帯びたフレームが可愛らしいチェアの背座は、100%リサイクルペットボトルから作られたフェルト素材でできています。 製造過程の廃棄物もできるだけ削減された製品です。 グレーに仕上げられたフロア部分には、リノリウムという天然素材から生まれた床材を使用。 環境にやさしいだけでなく、抗ウイルス効果や脱臭効果もあり、人にもやさしい素材です。
フリーエリアの奥には、スチールパーティションで区切られたオンライン会議専用ルームがあります。 中には、4人用のワークブースと2人用のワークブースが2台ずつ設置されています。 この空間は「周囲の音を気にせずにオンライン会議に集中したい」という社員からの要望に応えるべく設置されました。 始業直後から入れ替わり立ち替わり人が訪れ、ほぼすべての時間帯でブースが使用されています。
このエリアの床材は、漁網をリサイクルした再生糸を使用したタイルカーペット。 廃漁網は放置されるとウミガメやアザラシなどが絡まって傷つくこともあるため、回収して新たな製品に生まれ変わらせる取り組みが日本各地で行われています。 三菱ガス化学でも、CO₂を化学原料として有効活用する技術やクリーンエネルギーシステムの構築に貢献することで、「地球規模での気候変動課題の解決」を目指しています。 サステナブルな取り組みをまずは社内から、そんな姿勢がいたるところに感じられる空間です。
今回は、執務フロアの全面的な改装を行わず、機能変更が可能な一部空間を利用して課題の解決に挑んだ事例でした。 コミュニケーションの充実を実現する場所は、いつも働いている場所に限定して検討する必要はありません。 倉庫や食堂、屋上や階段なども、工夫次第で十分なコミュニケーションスペースとなります。 執務エリアとは少し距離があることで、気分をリフレッシュしたり偶発的なコミュニケーションを生み出せたりする利点もあります。 地下空間や窓のない部屋であっても、設計や工夫次第で居心地の良い空間を構築することは可能です。 働き方や場の変革に挑戦する際は、まずできる場所や施策からトライしてみることが成功の秘訣かもしれません。
Project’s Data
- 業種
- 化学メーカー
- 企業名
- 三菱ガス化学株式会社
- プロジェクト名
- 三菱ガス化学 B1階改装プロジェクト
- WEBサイト
- https://www.mgc.co.jp/