【第34回日経ニューオフィス賞 経済産業大臣賞受賞記念 特別号】

オカムラのエキスパートたちが見た

"KADOKAWA所沢キャンパスができるまで"(後編)

【第34回日経ニューオフィス賞 経済産業大臣賞受賞記念 特別号】

オカムラのエキスパートたちが見た

"KADOKAWA所沢キャンパスができるまで"(後編)

この記事は2022年1月20日に公開されたものです

株式会社KADOKAWA 様

約9,000㎡
約1,000名
2020年7月

「素地仕上」という難題に
One Teamで挑んだ人々の物語

出版や映像など幅広い事業を展開する総合エンターテインメント企業、株式会社KADOKAWA。 

その文化の発信拠点として埼玉県所沢市に新たに創り出した文化複合施設が「ところざわサクラタウン」です。 ここにはミュージアムやイベントホール、工場や物流倉庫までが集結しています。 

2020年8月、この場所に飯田橋本社と並ぶ規模のワンフロア約9,000㎡に及ぶ広大なオフィス「KADOKAWA 所沢キャンパス」が誕生しました。 コンセプトは「シームレス」。 切れ目なくつながる多様な空間があり、心地よく自然な環境が生み出されています。 同オフィスはその創意と工夫が評価され、応募総数152件の中からたった1社だけが選ばれる2021年の「第34回日経ニューオフィス賞 経済産業大臣賞」を受賞しました。 

オカムラはこのプロジェクトで、設計業務と家具納品を担当。 そこに携わったエキスパートたちに話を聞くと、これまで公に語られることのなかった"KADOKAWA 所沢キャンパスができるまで"が見えてきました。 

INDEX

【総力ルポ:前編】

  1. はじまりは1台のロビーチェア
  2. 創造に「伸びしろ」のあるキャンパス
  3. 設計の先に見えた新たな「MORI」の世界
  4. 「ルール」がないことが「ルール」
  5. 不均質がつながることの気持ちよさ

【総力ルポ:後編】

  1. 飯田橋でのチャレンジから所沢へ
  2. きれいに仕上げちゃダメなんだ
  3. 思考して試行してこうしてああして
  4. 山あり谷ありチームワークあり
  5. 「ところざわサクラタウン」に咲いた笑顔
KADOKAWAの『働き方改革~ABWとキャンパス構想~』についてはこちらから

今回の登場人物

(写真左から)
首都圏営業本部 赤坂支店 営業一課 第二係 係長 須永 太朗
生産本部 つくば事業所 製造管理部 原価管理課 課長 石黒 尚美
生産本部 つくば事業所 技術部 品質保証課 課長 澤田 和彦
生産本部 つくば事業所 製造管理部 部長 染谷 幸男
生産本部 つくば事業所 技術部 設計課 課長 内野 学
エンジニアリング部 首都圏センター オフィス施工2課 管理第一担当 平田 直弘
株式会社ヒル・インターナショナル セールス 谷田 圭子

飯田橋でのチャレンジから所沢へ

シーンは前編の所沢キャンパスから変わり、飯田橋オフィスから始まります。2018年から2年間、株式会社KADOKAWAは飯田橋にある自社拠点を改装し、所沢キャンパスにおける新しい働き方の検証と浸透の取り組みを行いました。フリーアドレスを導入したり、サテライトオフィスを借りて他の拠点で仕事をするなど、Anywhereワークプレイスの実証実験を行ったのです。このことについて、飯田橋オフィスの改装から所沢キャンパスまでを担当した営業の須永はこう語ります。

「コロナ禍になる前の話ですから、先見の明があったと思います。 2年間の改装工事をお手伝いする中でKADOKAWAさんについて感じたのは、働き方を考え、変えるということに関してとても能動的・主体的であることです。 自社の強みも活かしながら『こういう働き方にしますよ!』と漫画形式で紹介するコンテンツを作成されたり、効果的にワークショップを行いながらみんなの意見を取り入れていったりしたことにも、とても感銘を受けました」(営業:須永)

また、現場管理者として、現場の作業員手配や指示などを行っているエンジニアリング部の平田も、飯田橋から所沢まで伴走したメンバーの一人です。

「KADOKAWAさんとは飯田橋の時から関係を築いて、信頼していただけていたと思います。 長期にわたるプロジェクトだったので、オカムラメンバーだけでなく、現場で一緒になる引っ越し業者さんなども含めて、みんながOne Teamになっていました。 分からないことが出てきても『KADOKAWAさんにどっちから電話する?』みたいに話せる関係で、一体感がありましたね。 飯田橋の取り組みがあったからこそ、所沢でもスムーズに行けたというところはあると思います」(現場管理:平田)

平田は、さらにこう続けました。

「所沢キャンパスの納品が始まったときは驚きましたよ。 飯田橋で納品していた標準品はほとんどなく、特注品や輸入家具ばかりでしたから。 施工期間は、2020年6月から7月上旬までの1ヵ月半くらい。 スケールも大きく、作業人員数としてはトータルで150〜160人くらい入っていたでしょうか。 かなりのマンパワーを要する現場でした。 それに、これだけオフィスの面積が広いと、最初はどこに自分がいるのか、どこへ行けばいいのか、しばらくは感覚がつかめなかったですね」(現場管理:平田)

きれいに仕上げちゃダメなんだ

一番苦労したことについて聞いてみると、営業の須永はこんなエピソードを話しました。

「今回オカムラが納入したモバイルロッカーと『TELECUBE by OKAMURA』というワークブースの筐体表面は、今までオカムラでは実績のなかった『素地仕上(そじしあげ)』と呼ばれるナチュラルな仕上げに挑戦しました。 スチール面に有色塗装をせず透明なクリア塗装を施す、という特注品です。 素地仕上にするのは、私たちのデザイン・コンソーシアムからのご提案ではありましたが、実はこれがとてもチャレンジングで、本当にたいへんな仕事でした」(営業:須永)

この「素地仕上」について、つくば事業所設計課の内野はこう語ります。

「特注モバイルロッカーの検討依頼を営業から最初にもらったのは2018年7月のことです。 通常の標準品では、まずスチール面に施す前処理で化学変化が起き、表面にランダムな模様ができてきます。 ここに、ホワイトやシルバー、ブラックなど、皆さんが目にする製品本体の色となる有色塗装を施し、サビ防止とともに均質な色に仕上げます。 もちろん、出荷前には明確な品質基準で色ムラがないかなどの検品を行います。 ところが今回リクエストされたように、前処理で出てくるランダムな模様を一切塗装でカバーせずにそのまま出荷するなんてことは、工場としては前代未聞でした。 設計に取りかかる前に、いろいろな問題をどう解決したらよいだろうかと考えたのがスタートでした」(製品設計:内野)

ひとまず、ランダムな模様が浮き出ているままクリア塗装を施してみるも、「どうなっているのが正解か」の基準と、合格のラインが分からない。営業担当者と製造担当者が思い描くイメージにもズレが生じます。営業の須永はこう語ります。

「オカムラの工場では、高品質なモノづくりのために品質管理をしているので、どうしてもきれいな塗装仕上にしようとします。 私たちが欲していたのは、ムラをそのまま残した自然な仕上げでした。 しかし、透明でツヤのあるものを塗ってしまうと、光の反射で標準塗装色のシルバーみたいに均質なものに見えてしまうんですよね。 ですから、つくばの工場には私も10回以上足を運び、議論を重ねました」(営業:須永)

製造管理部の染谷は、塗ってはサンプルを出し、また塗ってはサンプルを出し、という悪戦苦闘の連続だったと語ります。

「これはいろいろな知恵が必要だと感じ、他の塗装業者さんや塗料メーカーさんからも、とにかく情報を集めました。 いくつかサンプルを見せてもらったりもしましたが、どうしても自然なものが見つからない。 これまで経験したことのない、今までの常識を覆すようなものですから、非常に難しい取り組みになりました」(製造管理:染谷)

思考して試行してこうしてああして

ムラを出さなければいけない。でも、ムラを出し過ぎてもいけない。品質保証課の澤田は、みんなが本当に悩み抜いたと言います。

「同じに見えるものにしてはいけない。 でも、使う人が不平等に感じてはいけない。 その狭間で、『これで粗悪品だと思われないだろうか、お客様に納得していただけるのだろうか』と常に不安でした。 アート作品のように独立した一点ものであればまだよいのですが、今回は4人用モバイルロッカーだけでも800台以上ありましたし、扉1枚ごとにもムラの具合が異なるので合格の品質基準が定められません。 それに、クリア塗装なのでスチール面に付いた傷もすぐに分かります。 塗り直しもできない一発勝負。 失敗は許されませんでした」(品質保証:澤田)

2020年に入り、ようやくイメージに近づいた試作品を飯田橋オフィスに納品する頃、今度は環境保護への取り組みの関係で、工場で用いる前処理液を今までのリン酸鉄からアルミ系の液に変えるという大々的な変更が生じてしまいました。塗装材との相性が変わってしまったのです。そこからはまたさらに試行錯誤の日々が続きました。

「ちょっとした変化でも仕上がりは大きく変わります。 最終的には、オカムラのスチールパーティションを製作している富士事業所からヒントをもらって、完全なクリアではなく塗料に少しだけ赤味を混ぜることで、いい仕上がりになりました。 所沢には2020年の5月に無事に納品でき、今後の製品開発にも活かせる、素地仕上に関するノウハウを得ることができました」(製造管理:染谷)

山あり谷ありチームワークあり

レアなケースだと感じていたのは、納品完了後に製品に傷や汚れがないかチェックする、現場管理の平田も同じでした。

「初めて素地仕上の現物を見たときには『これでいいの?』と素朴な疑問を感じましたね。 引き渡しに向けて品質をチェックしようにも、その基準が分からないんです。 それで営業にも現場に来てもらって、何度も確認しました。 お客様にも確認していただくと、『これでOKです』とのこと。 ホッとしましたね」(現場管理:平田)

七転八倒のプロジェクトでしたが、つくば事業所で塗装材の調達に関わった石黒は、目の前のことだけではなく、みんなで全体像をつかもうとしていたことも成功につながった要因ではないかと語ります。

「アメリカ西海岸の生き生きとしたベンチャー企業のような『ガレージ感』を求めているのかなという話を工場内でもしていました。 コンクリートむき出しの雰囲気とか、自然で素朴な感じを求めているイメージは、工場側でも共有していたと思います。 単に技術的なことだけではなく、お客様の想いの根底にあるものは何なのかを、製販一体となりみんなで考え続けてきた時間でもありました」(原価管理:石黒)

実際に所沢へ足を運んで納品された現場を見た、品質保証課の澤田はこんな感想を抱いたと言います。

「今までにない、壮大なスケールのリビングオフィスだと感じました。 『未来風』なエリアでしたね。 そこに、クリア塗装のロッカーがとてもマッチしていました。 これからも品質に妥協しないモノづくりを行い、オカムラの『よい品は結局おトクです』というDNAを、みんなで守り続けたいと思いました」(品質保証:澤田)

また、今回のプロジェクトで学んだこととして、製造管理の染谷はこう語っています。

「おかげさまでこうした実績もでき、お金には換えられない経験をさせていただきました。 自社工場を持ち、開発からの製品づくりを行い、ハンドメイドの部分も大切にしているオカムラだからこそ経験できたことだとも感じます」(製造管理:染谷)

「ところざわサクラタウン」に咲いた笑顔

スイスからの輸入家具が海を越えて大量に日本へやってきたのは、2020年の春でした。オカムラの100%子会社、ヒル・インターナショナルで輸入家具や国内家具を扱うセールスの谷田は、プロジェクトに参加した当時、輸入家具の依頼規模に驚いたと言います。

「私たちが今回納入したのはスイスのVitra(ヴィトラ)と、デンマークの+Halle(プラスハレ)、同じくデンマークのFRITZ HANSEN(フリッツハンセン)。 これら以外の輸入家具ブランドは、他社さんからの納入という分担でした。 今回はVitraだけでも椅子やソファ、テーブル、ブースなど、20アイテムほどあったと思います。 KADOKAWAさんが元々Vitraを気に入っていて、スイスの本社にも足を運ばれていたことがあるとも聞きました。 Vitraは働き方から家具をデザインしているブランドなので、KADOKAWAさんのコンセプトにもマッチしていたのだと思います。 また今回、一部のエリアはVitraの家具で揃えていただいたので空間が引き締まり、色の選択もカラフルにせず、『素』のイメージでカッコいいオフィスに仕上がっていると思います」(輸入家具担当:谷田)

プロジェクトの期間はちょうどコロナ禍であったことも、いろいろな苦労を生じさせました。

「コロナ禍でも輸入家具を納期に間に合わせるために、時間のない中でしっかり色の確認を行うなど、綿密なやり取りを心掛けました。 デンマークのものは遅れてしまいましたが、Vitraの家具はなんとか引き渡しまでには間に合わせることができました。 所沢キャンパスに何度も足を運んで詳細を確認できたこともよかったと思います」(輸入家具担当:谷田)

また、現場管理の平田も、こう語ります。

「新型コロナウイルス感染症への徹底した対策が必要でした。 今までに経験したことのない状況でしたが、消毒や検温といった基本的なことはもちろん、職人や作業員の体調管理は入念に行うようにしました」(現場管理:平田)

改めて仕事において大切にしていることを平田に聞くと

「結局はお客様とのコミュニケーションだと思います。 管理することは、仕事としてできて当たり前。 ですから、最後はお客様の笑顔を見られたら、それでいいというところはありますね」(現場管理:平田)

と自然な答えが返ってきました。

オカムラには「オカムラウェイ」という理念があり、その大切な価値観として「私たちの基本姿勢 -SMILE- 私たちにかかわる、全ての人の笑顔のために」というものがあります。そんな企業の想いは、エキスパート一人ひとりの想いとつながっています。

編集後記

不易流行。 それがKADOKAWAの経営理念です。 常に新しさを極め続けることで、いつまでも変わらない本質的なものが見えてくる。 今回のキャンパスづくりも、そんな想いと取り組みの連続であり、インタビューした10名の顔の輝きは「やり切った」という挑戦の証のように見えました。 

Project’s Data

業種
出版、映像などの総合エンターテイメント事業
企業名
株式会社KADOKAWA
プロジェクト名
KADOKAWA所沢キャンパス 構築プロジェクト
WEBサイト
https://group.kadokawa.co.jp/
受賞等
第34回日経ニューオフィス賞 経済産業大臣賞
デザイン企画
SUPPOSE DESIGN OFFICE
デザイン
FLOOAT
設計
オカムラ
プロジェクトマネジメント
ディー・サイン
施工
鹿島建設(建築・設備)/J.フロント建装(内装)

Relative Projects

キリンホールディングス株式会社 グループ本社オフィス 様
アステラス製薬株式会社 本社オフィス 様
三井住友DSアセットマネジメント株式会社 本社オフィス 様
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株式会社KADOKAWA 様
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