拠点統合によるシナジーの最大化への挑戦
── カギは"カルチャーの活かし方"
拠点統合によるシナジーの最大化への挑戦
── カギは"カルチャーの活かし方"
プロジェクトの起点は、飯能工場老朽化に伴う新事業所の建設計画です。 これまで、開発部門は飯能工場、販売部門は大手町本社にあり、物理的な距離がありました。 朝霞事業所の新築を機に本社の主要機能も統合させることで、部門連携による生産性の向上を狙います。
新事業所のテーマは、ブランドプロポジション『声を聞き、先を読み、価値ある未来を創る』の実現。 この朝霞の地から、70年以上に渡り培った技術と文化を未来への挑戦へとつなげていきたい、新事業所にはそんな想いを込めています。
はじめは開発部門と販売部門の交流を持たせようと、トレンドのABWを最大限取り入れたバリエーション豊かな設えをご提案しておりました。 しかし働く社員の三分の二以上は、元々飯能工場勤務の方々。 工場勤務を通して時間通りに行動することや、通路には荷物を置かないことなど、整理整頓が自然と実行されていました。 一方で、ABWはさまざまな空間の中から働く場所を主体的に選ぶという考え方で、これまでとは大きく異なる働き方になります。 お客様の働き方を伺っていくうちに、「いきなり空間の境界線が曖昧になりすぎると、文化に馴染まず活用されなくなるのでは」と思い直し、オフィスの設えは必要最低限の機能に限定するシンプルな考え方にシフトチェンジ。 会社に根付いた良い文化を活かしながら、社員の生産性を最大化することを第一に考え、執務フロアはオーソドックスなユニバーサルプランにしました。
統合した部門間の交流については、中央の吹き抜けエリアに設けた4つのアトリウムとキャンティーン(食堂)で実現。 建物自体の構造を最大に活かし、風通しの良い交流エリアと集中ができる執務エリアにメリハリを持たせるよう意識しました。
まずは新オフィスのポイントとなる、中央のアトリウム空間からご紹介します。
エントランスから階段で2階へ上がると、高い天井から光が差し込む吹き抜け空間が出現します。 ここで訪れた人々を迎え入れるのが、1つ目のアトリウム『ライブラリーエリア』。
こちらは開発の支えとなる専門図書を閲覧できるだけでなく、他拠点で働く方々のタッチダウンスペースとしても利用できます。 ワークブースが設置されている階段下は、一人で集中して調べものをしたり作業をしたりできる、秘密基地のような空間です。
また、このエリアは退勤するときにも必ず通る導線にあります。 駅までの通勤バスを待つための待合室としても利用できるよう、デジタルサイネージにはバスの時刻表が表示されています。 バスを待ちながら今日の出来事を振り返ったり、偶然居合わせた社員同士で雑談をしたり。 明日へのパワーをチャージする、そんな空間でもあります。
2階のアトリウムから中階段で3階に上がると、今日もいよいよ業務スタート。 右手に執務フロア、左手には研究開発室、そして中央には人々が交わる2つのアトリウムがあります。
吹き抜けにせり出した中央の『コラボレーションエリア』は、建物のどこからでも様子が伺える空間。 ブレインストーミング中に近くを通りがかった人から思わぬアイデアをもらえたり、仲間のプロジェクトの進捗を把握したりと、偶発的な出会いを促します。 使用する用途に合わせて柔軟に変更できるよう、家具もキャスター付きのものが選定されています。
コラボレーションエリアから階段を数段上がると、カフェのような空間が。 こちらは4階アトリウムの真下に位置し、少し天井高が低く籠り感のある『カフェエリア』。 やわらかい間接照明の明かりが、周囲と雰囲気の異なる落ち着いた空間を演出しています。 少人数での打ち合わせや、落ち着いて個人作業をするなど、アトリウムの中でも稼働率が高いエリアです。
さて、優しい自然光に導かれて上へ進んでいくと、建物の中にありながら、まるで屋外にいるかのような明るい雰囲気のアトリウム『ガーデンエリア』にたどり着きます。
こちらはキャンティーン(食堂)の入り口付近に位置し、ガラス張りの建物天井から直接光が入り込む空間。 空が近く感じられ、気分的にもリフレッシュできます。 お昼時には持参したお弁当や売店で購入したパンなどを食べることもできる場所です。 お腹も心も満たされることは、健康への一番の近道です。
アトリウムの両側には執務エリアが広がっています。 壁はなく、通路で空間が区切られているので、自然な人の流れが生まれています。 通路側に集約した図面キャビネットを利用して、突然立ち会議が始まることも。
デスクは部署変更や人事異動にも対応できるよう、ワゴンの移動だけで座席移動可能なベンチデスクを導入しました。 個人の荷物は天板下に設置したカバンフックへ。 整理整頓の文化は、移転してもきちんと維持されています。
プロジェクト当初は、1200名を全席固定席で収容する計画でしたが、新型コロナウイルスの流行を受け、感染対策として一部フリーアドレスを導入した人員の75%の座席数へとプランを変更しました。 窓際には自由に使える上下昇降デスクやミーティングブースを設置するなど、ABWの要素も取り入れられています。
キャンティーン(食堂)の入り口付近にある売店は、心地よい雰囲気だけでなく、使いやすさにもこだわっています。 カウンターは電子機器の配置や店員の使い勝手を反映できるオーダーメイドの造作家具。 商品棚は、街中の店舗でもよく使われるオカムラの商環境什器から選定しました。
売店前のラウンド型のカフェスペースには、昼食を食べ終えた社員の方々がコーヒー片手に自然と集結。 職種や世代にかかわらず、和やかに談笑されているシーンが印象的です。 撮影中も、最初は2~3名だったところに次々と人が集まり、昼休みが終わると「じゃあ、またね」と別々のエリアへと散っていく、そんな様子を見ることができました。
コミュニケーションの中心となるキャンティーン(食堂)には、正午になると続々と社員の方が集まってきます。 多くの人が集まる空間だからこそ、利用者が安心できる機能的な配慮も。 床と天井の素材をエリアによって変えることで、注文に並ぶ人とテーブルで食事をとる人の動線を自然と分けることができます。 座席は前後左右と間隔を空けた千鳥配置とすることで、感染リスクを低減しています。
昼食時間帯以外は、個人作業や打ち合わせにも利用することができます。 奥の広いスペースには大きなスクリーンを二面設置。 大人数での会議や、発表会、セミナーといった用途にも対応可能です。
キャンティーンはできるだけ居心地の良い空間にするために、内装や家具のデザインには特にこだわっています。 ファミレスブースはコストメリットを重視して既製品という選択肢もありましたが、今回は全体の空間イメージとサイズがぴったり収まることを優先して造作家具で設計。 注文カウンターのメニューサインも、お客様の文化や空間の目的・背景をいちばんよく理解している担当デザイナーが自らデザイン案を作成しました。 プロジェクトの最初から最後まで、お客様とともに空間を創り上げていくパートナーでありたい、そんな想いが込められた空間です。
今回は建物の構造を最大限活かした設計でしたが、テナントビルのオフィスでも取り入れられる空間演出の工夫は随所に見られました。 例えば、内装で下がり天井を作ったり床を一段上げたりすることで、視線や光の入り方が変わり、同じフロア内でも雰囲気の異なる空間を演出できます。
また、人々の交流を促すエリアを空間の中心に持ってくることも効果的なゾーニングでした。 ユニバーサルセッティングのレイアウトが基本となっている場合でも、業務の内容に合わせて必要な分だけABW要素を取り入れるだけで十分働き方は変わります。 全面的なABWだけが正解というわけではなく、企業の文化や働き方によって場づくりの最適解は変わってくる、ということがよく分かる事例でした。
Project’s Data
- 業種
- 電気機器メーカー
- 企業名
- 新電元工業株式会社 様
- プロジェクト名
- 朝霞事業所 新築移転
- Webサイト
- https://www.shindengen.co.jp/