働き方・働く場の研究と視点

KNOWLEDGE

コミュニケーションのジレンマ

2025.3.10
  • Collaboration
  • Creativity
  • Research
  • Workstyle

多様なメンバーとのコミュニケーションが新しいアイデアの創出につながるのか。
ワーカーの会議データの分析からそのヒントを探っていきます。

POINT:

  • 会議データに基づいたコミュニティの実態とクリエイティビティの関係を調査したところ、「さまざまなメンバーとのコミュニケーションをとれば、クリエイティビティが向上する」という単純な結果とはならなかった。
  • クリエイティビティが向上するかどうかは、会議の相手(コミュニティの多様性)とともに、会議回数にも影響され、コミュニティの多様性が高い場合は、会議回数を少なくすることが鍵となる。

この記事では『KNOWLEDGE - WORK DESIGN REVIEW 2024 RESEARCH #02 コミュニケーションのジレンマ』より一部内容を抜粋してご紹介します。


「部門を超えたコミュニケーション」がオフィスで期待されている

オフィスを改善することで解決できる経営課題について経営者にアンケートをとったところ、最も回答が多かった項目は「部門を超えたコミュニケーション」でした。イノベーションの理論では、異なる分野の知識を組み合わせることで、新しいアイデアが生まれるといわれていることから、経営者は部門を超えたコミュニケーションを通じたアイデアの創出をオフィスに期待しているのかもしれません。

以上の背景をふまえ、東京大学大学院、ディスカバリーズ株式会社と共同で、コミュニケーションとクリエイティビティの関係について調査をしました。


調査の概要

調査では次の2つのデータを用いて分析しました。1つ目は会議データで、会議の回数や出席メンバーなどを分析しています。本研究では特に会議の参加者に着目し、既往研究に基づいて「コミュニティの多様性」をワーカーごとに数値化しています。

2つ目は、アンケート調査から算出した、新しいアイデアを生み出し、かつ実現するための行動ができているかという「クリエイティビティ」の自己評価のデータです。

本研究では、この「コミュニティの多様性」と「クリエイティビティ」の関係を調査しました。


会議の相手と回数がクリエイティビティと関係する

コミュニティの多様性と会議回数からワーカーを4タイプに分けて特徴を分析しました。クリエイティビティが高いのは、コミュニティの多様性が高く、会議回数が少ないAタイプと、コミュニティの多様性が低く、会議回数が多いDタイプでした。一方、クリエイティビティが低いのは、コミュニティの多様性が高く、会議回数が多いBタイプと、コミュニティの多様性が低く、会議回数が少ないCタイプでした。


多様なコミュニティとのつながりだけではなく
ベースとなるコミュニティとのつながりも重要

今回の結果からは、Bタイプに該当する状態のように、多様なコミュニティと会議をしすぎることによる負の影響が示唆されました。なぜ、このような状況が生まれたのでしょうか。

一つの要因として人の情報処理能力の問題が考えられます。いつもと同じメンバーの会議で内容が想定内のものであれば情報処理に時間はかからないかもしれませんが、多様なコミュニティに属するメンバーとの会議で交わされる新奇性の高い内容であれば、情報を処理する時間が多く必要になると考えられます。そのような会議を多く行っていると、情報処理が追い付かず、会議から得た有益な情報が抜け落ちてしまうことになるかもしれません。

上記の問題に対して、まずは会議をマネジメントすることが必要と考えられます。会議を開催する側の配慮はもちろん、会議に招集された側も、招集された会議に参加すべきかどうかは慎重に判断するべきでしょう。

また、ベースとなるコミュニティの存在も重要です。自分の考えを「壁打ち」できるコミュニティがあれば、情報を効率よく整理することができ、自分ひとりの限界を超えることができるかもしれません。コミュニティの多様性が低く、会議回数が多いDタイプの人はタイプの人は、ベースとなるコミュニティがあることにメリットがあることを示していると考えられます。

詳細な情報を掲載したPDF版(掲載ページP43〜)は、下記バナーからダウンロードしてご活用ください。

Research: 牧島満
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次(Beach)、堀内宏臣(Kanaalstraat Studio)
Production: Plus81