働き方・働く場の研究と視点
KNOWLEDGEオフィスでの座席の「固定化」
フリーアドレスやグループアドレスを導入しているオフィスにおいても、
いつも同じ席に決まった人が座っていたり、
同じ部署で固まって座る場面も多いのではないでしょうか。
座席の運用がワーカーにどのような影響を与えるのか調査しました。
POINT:
- フリーアドレスにおいて、個人で席が固定化することは仕事にあまり良い影響を与えない。
- フリーアドレスにおいて、部署を意識して座ることは「私たちのオフィスと感じる」感覚を増加させ、さらに「部署内での雑談や仕事の会話」「部署を超えた仕事の会話」を増加させる。
- フリーアドレスにおいて、部署で席が固定化する背景は、「仕事を円滑に進めるために習慣的に集まっている」など業務の効率化が目的であり、かつ、ワーカーが自ら望んで集まっている。
オフィスでの座席の「固定化」とは?
オフィスにおける座席運用には、固定席の他に、自由に席を選択できる「フリーアドレス」や、部署ごとに働くエリアが与えられ、そのなかから席を選択できる「グループアドレス」がありますが、いつも同じ席に決まった人が座っていたり、同じ部署で固まって座る場面も見られます。本研究では、これらの現象は個人で行うもの(個人の固定化)と部署やチームで行うもの(チームの固定化)の2種類があると設定しました。固定化を容認してよいのか、それとも毎日席を変えるようワーカーに促すべきか、オフィスでの座席の固定化がワーカーに与える影響についてオカムラは東京女子大学と共同でアンケート調査を行いました。
個人の固定化の効果
まずは、「個人の固定化」が仕事に与える影響について調べました。すると、毎日同じ席に座る傾向にある人は、フリーアドレス、グループアドレスともに6割程度いました。
その人たちに、どのようなことを感じるか聞いたところ、フリーアドレスの人は「私たちのオフィスと感じる」「部署内での雑談」、「部署を超えた仕事の会話」に対してマイナスの影響があることがわかりました。
一方で、グループアドレスで毎日同じ席に座っていることは、「部署内での仕事の会話」にプラスの影響がありましたが、それ以外には顕著な結果は見られませんでした。以上より、フリーアドレスの場合、「個人の固定化」は、仕事にあまり良い影響を与えないことがわかりました。
チームの固定化の効果
次に、部署やチームを意識して座る「チームの固定化」について見ていきます。フリーアドレスで働いている人に同じ部署やチームで集まって座っているか尋ねたところ、「座っている」と答えた割合は半数以上になりました。
部署やチームで集まって座ることが仕事に与える影響を調査したところ、フリーアドレスにおいて部署やチームを意識して座ることは「私たちのオフィスと感じる」、「部署内での雑談」、「部署内での仕事の会話」「部署を超えた仕事の会話」という項目にプラスの影響があることがわかりました。
この結果から、フリーアドレスにおける「チームの固定化」は、業務にプラスの影響を生み出すと考えられます。部署やチームを意識して座ることを禁止するルールは、良い効果を生み出さないかもしれません。
チームの固定化の理由
なぜ、自由に席を選択できる環境においても、半数以上のワーカーが部署やチームで集まって座るのでしょうか。
フリーアドレスで部署やチームで集まって働いている人にその理由を尋ねたところ、「仕事を円滑に進めるために習慣的に集まっている」という回答が最も多く、次いで「その方が自分にとって仕事を進めやすいため」といった、業務の進めやすさに関する項目が上位にあがりました。「上司からの指示や命令で集まっている」のような外的な要因よりも、ワーカーが自ら望んで集まっていることがわかります。
フリーアドレスにおいてチームでの座席の固定化は
業務にプラスの影響を生み出す
フリーアドレスの座席運用を導入する際、毎日必ず異なる席に座るルールを徹底すると、同じ部署やチームのメンバーと離ればなれになってしまうと感じるワーカーもいるのではないでしょうか。また、個人の好みに合った席が決まってしまい、最終的に固定席に戻ってしまうのではないかという懸念もあります。本研究ではフリーアドレスで働くなかで個人で毎日同じ席に座ること(個人の固定化)、部署やチームを意識して集まって座ること(チームの固定化)の影響を明らかにしました。
結果としては、部署やチームで集まって座ることは部署内外のコミュニケーションを活性化するほか、オフィスに対して「自分たちのもの」という感覚を増加させることがわかりました。フリーアドレスの場合も、部署やチームを意識して集まって座ることを排除しない方が良さそうです。また、部署やチームでゆるやかに集まっている理由は業務を行いやすくするためであり、習慣でなんとなく座っているわけではない(目的があってその座り方をしている)こともわかりました。
ハイブリッドワークの普及が進む中でフリーアドレス、グループアドレスが導入されるケースが増えてきていますが、フリーアドレスの運用において部署やチームで集まって座ることを禁止することは、必ずしも効果的ではない可能性が示されました。
Research: 池田晃一、森田舞(オカムラ)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): カワイハルナ
Production: Plus81