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ワークポイントから考えるオフィスの座席のとらえ方

2023.1.16
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オカムラでは、オフィスづくりの指標となる先進オフィスを対象とし、レイアウトに関する基礎データを継続的に収集しています。ABWへの対応など、オフィスがますます多様化しつつある今、ワーカー1人当たり面積の算出方法の変化と新たな座席のとらえ方である「ワークポイント」についてご紹介します。

POINT

  • ABWに対応するオフィスの割合は年々増加しており、2022年時点では約3割のオフィスが該当する
  • ABWに対応したオフィスの場合、従来のデスク席を数える方法では正確な座席数を算出できないため、席数の設定は「ワークポイント」で行う必要がある
  • 「集中」「交流」「共創」3つのタイプのワークポイントの配分比率から、オフィスの特徴を判別することができる



ABWに対応したオフィスの普及

近年、ABW(Activity Based Working) と呼ばれる仕事の内容に合わせて場所を選ぶ働き方が浸透してきています。調査対象オフィスに占めるABW対応オフィスの割合を見ると増加傾向にあり、特に2017年以降は、その傾向が顕著です。


ABW では、その日の仕事の内容や体調、気分に合わせて場所を選び、例えば一人で集中作業をしたい時やオンライン会議をしたい時にはパネルで囲われた集中席を、逆に話しかけられても良いリラックスした状況であれば、カフェテリアの席や誰も使用していないミーティング用の席を選びます。このように、個人作業はデスク席で行うというこれまでの前提が変わり、オフィス内のあらゆる席が、個人で働ける場所になりつつあります。


ワークポイントの定義

オカムラでは、デスク席はもちろん、デスク席以外でもワーカーが一定時間、快適に個人作業ができる座席のことを「ワークポイント」(以下、WP)とし、そのカウント方法を下図のように定義しています。快適に個人作業ができるという点で重要なポイントとなるのが、他者との距離感です。そばに人がいると、集中して仕事ができなくなるため、適切な距離をとる必要があります。

そこで、エドワード・ホールが提唱したパーソナルスペースの理論*をベースに、検証を行い1.2mを距離感の基準としました。下図では、4席が配置されていますが、例1では4WP、例2では2WP、例3では1WPと、異なるWP数で算定されます。

*参考文献:かくれた次元/エドワード・ホール/1970年
ブース席などのように、物理的にパーソナルスペースが確保できる場合は、席間が1.2m 未満であってもWPと算出します。


ワークポイントで見る一人当たりの面積の推移

これまでの多くのオフィスは、下左図のように、在籍者1人に対して、1台のデスクが割り当てられていました。そのため、1人当たり面積を算出する場合、<オフィス面積÷デスク席数(図緑丸)>という式で計算することができました。ところが、下右図のようなABW に対応したオフィスの場合、黄枠内の席は、個人作業も可能な席になりますが、デスク席としては数えられないことになり20席以上少ない席数となります。


オフィスの1人当たり面積の推移を、デスク席数とWP 数に基づく場合で比較します。デスク席数を基準に1人当たり面積を算定した場合、長年減少傾向が続いてきましたが、2017年以降上昇しています。一方、WP 数を基準に1人当たり面積を算出すると減少傾向が続いています(下図)。この差は、ABW を採用するオフィスが増加し、席数の考え方が変化したためだと考えられます。


代表的なワークポイント3種類

先進的なオフィスレイアウトを調べてみると、WP には大きく3つのタイプがあることが分かってきました。それは、「デスク席」「集中席」からなる集中のためのWP、「ミーティング席」などの交流のためのWP、「共創席」からなる共創のためのWPです。そのほかにもオフィスによっては、カフェスペースやリフレッシュスペースにある席を、個人作業が一定時間作業できる席として設計している場合がありますが、それらは個別の事例として除外しています。

ABW に対応しているオフィスか、そうでないオフィスかで、WP の構成にどれくらい違いがあるのかを示したものが下図です。デスク席の比率の差が最も大きく、ABWに対応し色々な席を使い分けながら働くか、ABWに対応せずデスク席を基点として働くかという、働き方の違いが確認できます。


ワークポイントを用いたオフィスの分析

コロナ禍を経て、ハイブリッドワークが普及することにより、各社の経営戦略見直しとともに働き方の変化も起こってきています。今後、オフィスについても、働き方の多様化に合わせて、一般解がなくなってくると考えられます。まさに、経営戦略を実現するためにはどんなオフィスが必要なのかを考える時代になってきたと言えるでしょう。

前述のWP とその種類を分析すると、配分比率からオフィスの方向性を分類することができます。下図のレーダーチャートは、対象オフィスの各WP の配分比率とオカムラのデータベースに基づく標準的な配分比率を比較したものです。例えば、対象オフィスの集中のためのWP の配分が標準的な配分より多ければ、その項目の値が大きくなります。表示された三角形の形状から、オフィスの特徴を判別することができます。


「ワークポイント」から見るオフィスの分類

下図はレーダーチャートの形状によりオフィスを、オペレーション型、チームビルド型、イノベーション型、バランス型に分類したものです。オフィスづくりの指標となる先進オフィス184件について、分析したところ、約8割がオペレーション型に分類されました。これはこれまで経営戦略が違っても、みな同じようなオフィスづくりをしてきたことの表れかもしれません。

どの型のオフィスに該当するかどうかは、前述の3種類のWPの配分によって決まります。なお、オペレーション型はデスク席・集中席から構成される集中のためのWP、チームビルド型は交流のためのWP、イノベーション型は共創のためのWP の割合の影響をそれぞれ強く受けます。したがって、オフィスでの個人作業を重視する場合にはオペレーション型、チーム作業を重視する場合にはチームビルド型やイノベーション型、多様な作業に対応するためにはバランス型が適切なオフィスの型となります。

柔軟な働き方が可能になった今、組織によって経営戦略や働き方が異なることや、テレワークを含めたABW が普及していくにつれて、今後はオペレーション型から他の型に移行し、オフィスのバリエーションが増えるでしょう。
経営戦略を達成するためにオフィスはどうあるべきか。各型ごとのWPの構成比率を参考にオフィスの方向性をご検討下さい。

Research: 牧島満、秋永凌(オカムラ)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 藤田翔
Production: Plus81 inc