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ハイブリッドワークと地球環境

2022.12.20
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ハイブリッドワークは地球環境にとっていいことなのでしょうか。行動様式が変化することによりエネルギー消費をはじめ様々な影響が現れると考えられます。
仕事の効率やコミュニケーションの問題に注目が集まる中で、環境への影響を明らかにしました。

POINT:

  • 都市部においてハイブリッドワークはCO2排出量の増加を伴い、環境負荷を上げる
  • オフィス面積と機能の最適化、在宅勤務では、外気の導入や太陽光の利用などを積極的に行い、照明や冷暖房を使う時間を減らすことで環境負荷を低減できる



ハイブリッドワークで環境への影響は変化するか

1998年に成立した地球温暖化対策推進法が2021年に改正され、2050年までに脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現することが目標とされています。実際には経済活動などに伴うCO2排出量と森林などによって吸収されるCO2の量の合計をゼロにすることが求められています。

工場での環境対策など企業が努力することで削減する部分だけでなく、ワーカー個人が行動を変えることによって環境負荷を下げることはできないでしょうか。

一方で、コロナ禍によりハイブリッドワークが普及しましたが、この働き方の変化にともなうCO2排出量の増減については未だわかっていない状況です。

そこでオカムラと国立環境研究所は、ハイブリッドワークを行う際のCO2排出の主な要因を「オフィス勤務」「在宅勤務」「移動」「諸活動」の4つに分類し、現在ハイブリッドワークをしている都市部のワーカー4,000名を対象にコロナ禍前と現在(2022年2月)の働き方について回答してもらった結果から、CO2排出量の変化を算出しました。


オフィスでのCO2排出量の変化

コロナ禍前と現在の週当たりの出社日数を見ると、コロナ禍前は平均4.5日、調査時点は平均2.9日となっていました(下左図)。

この日数からPC、モニター、照明、冷暖房使用時のCO2排出量変化を算出しました。オフィスにおいてCO2排出量に占める割合が一番大きいのは冷暖房であり、下右図のようにCO2削減量にも大きな影響を与えています。

ただし、これは一人当たりの理想的な削減量(理想値)から算出した結果で、冷暖房、照明が一括管理のオープンオフィスの場合には当てはまりません。理想値とは、出社している人、一人ひとりが8㎡程度の個室で働いており、出社していない時はその面積分のエネルギー消費が起こらないと仮定して算出した値です。現実的な値としてはCO2排出量は微減にとどまると考えられます。


在宅勤務に伴う家庭でのCO2排出量の変化

在宅勤務時におけるCO2排出量に大きな影響を与えるのが冷暖房などの空調の稼働状況です。調査の結果から冷暖房については必要に応じてON/OFF するという人が多いですが、一方で照明は常にON にしている人が4割以上います。こうした結果から、CO2排出量は増加する傾向にあるといえそうです(下左図)。

実際に在宅勤務によるCO2排出量の変化を算出したところ一人当たり70.5kgCO2の増加があることがわかりました。世帯ごとの年間のCO2排出量* と比較するとそれほど大きな数字ではありませんが、カーボンニュートラルを目指すうえでCO2排出量が増加傾向にあることには注意が必要です(下右図)。

*環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」によると2020年の1世帯当たりの年間CO2排出量は2.88tCO2となっている。


通勤におけるCO2排出量の変化

調査結果からは、ハイブリッドワークに移行しても多くの人が鉄道を使って通勤しており、バスと合わせると8割以上の人が公共交通機関を利用していることがわかりました(下左図)。

CO2の排出量に大きな影響があるのは自家用車を利用しての通勤です。下左図の結果から自家用車の利用者数が増えてはいるものの、出勤の頻度が下がったため、双方の影響を合わせて考えると、CO2の排出量は大幅に減少すると試算することができます(下右図)。

ガソリンを燃焼させて動力を得る自家用車による通勤が減ることは利用者の割合が低い中でも、大きなインパクトを生むと考えられます。最も利用者の多い鉄道は、乗車率が下がってもそのままのダイヤで運行されるため、多くの場合、CO2排出量には変化がないといえます。


諸活動とCO2排出量の変化

通勤の回数が減ることで週4時間程度時間の余裕が生じると考えられ、それを他のどのような活動に割り振るかで環境への影響が変化すると考えました。リモートワークで生じた余暇時間のうち、エネルギー消費が発生する6つの活動を見てみると、エネルギー消費の多い趣味の活動内容によりCO2排出量が大きく異なることがわかりました。増えた余暇時間の過ごし方によって環境へ影響が大きく異なるため注意が必要です(下図)。

*1 自家用車を利用して時速30kmでドライブを想定。
*2 1/4の人が2.5km 先の目的地まで自家用車を利用と想定。
*3 半数の人が2.5km 先の目的地まで自家用車を利用と想定。
*4 行っている時間の1/4で500Whのエネルギー消費を想定。
*5 半数の人がPCを使用していると想定。
*6 1200Wのオーブンを使った調理を想定。


4つの環境負荷の増減まとめ

本調査の結果として、オフィスの出社日数が減った分ほどCO2排出量が減っておらず、在宅勤務の増加により、家庭でのCO2排出量が増加することがわかりました。さらに通勤の減少については、公共交通機関を利用する場合にはほとんど変化がなく、自家用車を使って通勤をしている場合のみCO2排出量が減少することがわかりました。

通勤時間が無くなったことによる諸活動の変化ではエネルギー消費が発生する行動をとった場合、CO2排出量が増加していました。理想値で算出をしている項目もあるため、単純に合算はできませんが最終的には削減分を増加分が上回るため、ハイブリッドワークを行うことによってCO2の排出量が増加するものと推測されます。

*下図の削減効果は理想値であり、実際はもっと削減効果は低いと考えられます。


考察
働き方が変わることで環境への影響は変わる
変化の内容を知るところから始めよう

本調査の結果から、都市部においてハイブリッドワークはCO2排出量の増加を伴い、環境負荷を上げることがわかりました。しかし、ハイブリッドワークがCO2排出量を増加させるとはいえ、以前のようにワーカー全員が同じ時間に同じ場所に集まって働くという状態に戻ることは難しく、ハイブリッドワークを続けながら、環境に良い方向に工夫を積み上げていく取り組みが必要だと言えます。

現状、出社日数が減少し、オフィスの人口密度が下がっている会社も多くあると思います。しかしまだ、ハイブリッドワークに合わせてオフィスの規模を最適化できていない会社も多いはずです。オカムラの調査では、ハイブリッドワークが普及することにより、オフィスに自席を求めず、フリーアドレスやグループアドレスで働くことを望む声が増えてきていることもわかっています(関連記事)。

経営者としても、オフィスの面積を適正化してコストを下げたいと考えるでしょう。そうしたオフィス面積と機能の最適化が進むことによってハイブリッドワークを行いながらも環境への負荷を下げられます。在宅勤務においても、外気の導入や太陽光の利用などを積極的に行い、照明や冷暖房を使う時間を減らすことでCO2の排出量を抑えることができます。

今まで「働く」にまつわる環境配慮は企業が行うことが多かったと思います。しかし、在宅勤務時は個人も環境に配慮して働くことが重要です。企業と個人が協力することにより、ハイブリッドワークを快適に行うとともに、CO2の排出量を抑える方向に歩んでいく時代になったと言えます。

*本文中の「諸活動による年間CO2排出量」の値は2022年11月の冊子発行後に精査をした値に更新しています

Research: 池田晃一、森田舞(オカムラ)、金森有子(国立研究開発法人国立環境研究所)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 藤田翔
Production: Plus81 inc.