働き方・働く場の研究と視点
KNOWLEDGE健康、利他・ダイバーシティ、地球環境に対する取り組み状況は?
企業はいま、大きな変化を求められています。
自社の利益を最優先にする時代から、地球環境や人を大切にしながら経済活動を行う時代となりました。実際に経営者やワーカーはこの変化をどのように捉え、どんな工夫を行っているのか、その調査結果をご紹介します。
POINT:
- エシカルワークスタイルの3つの柱「健康」「利他・ダイバーシティ」「地球環境」について、多くの人が関心を持っているが、実践している人の割合との間には差がある。
- 「健康」「利他・ダイバーシティ」「地球環境」に対して取り組んでいる工夫が多い企業やワーカーほど、状態やパフォーマンスが良い。
これからの働き方「エシカルワークスタイル」とは?
2012年より柔軟な働き方について研究してきたオカムラでは、これからは働き方を「エシカル」に変えていく必要があると考えています。
「エシカル」という英語の直訳は「倫理的な」という意味です。「健康」「利他・ダイバーシティ」「地球環境」の3つを柱とし、その働き方や働く場が「エシカルであるかどうか」を判断していくことが、「効率的」や「経済的」に基づく判断よりも重要視される社会になると思うからです。
エシカルワークスタイルの詳細はこちら
良い状態にある企業、パフォーマンスの高いワーカーはエシカルな取り組みに関心があり、実践しているのではないか、その仮説を検証するためにエシカルワークスタイルの3つの柱について、経営者とワーカーを対象に、そもそもこれらに関心があるか、そして実践しているかを聞き、企業が良い状態にあることと、ワーカーのパフォーマンスが発揮されていることとの関係を明らかにする調査を行いました。
経営者の関心と取り組み状況
まず、経営者にエシカルワークスタイルの3つの柱について、関心度を聞いたところ、「健康」については9割を超える人が関心があると答えました。「利他・ダイバーシティ」については86%、「地球環境」については83% 以上の人が関心があると答えており、3項目とも高い関心が寄せられていることがわかります。
では、関心があるだけでなく、自社にて実践しているかを聞くと、「健康」については「柔軟な勤務時間に関する制度の導入」が52%、「利他・ダイバーシティ」では「育児や介護に携わる従業員への配慮」が57%、「地球環境」では「オフィス内のエネルギー削減(照明)」が51% となっており、関心と実践の間に開きがあることがわかります。関心はあるが、なかなか実践にまで至っていないというのが現状のようです。
ワーカーの関心と取り組み状況
次に、ワーカーについても同様に関心を聞いたところ、「健康」については92%、「利他・ダイバーシティ」については79%、「地球環境」については約70%の人が関心があると答えています。経営者の回答と比較して「利他・ダイバーシティ」は7%、「地球環境」については14%程度低くなりました。
では、それらを実現するために工夫をしているか聞いたところ、「健康」では「身体的に健康な状態で働くための工夫」をしている人が約70%、「利他・ダイバーシティ」では「一緒に働くメンバーを思いやって働くための工夫」をしている人が72%、「地球環境」では「ペーパレスなど省資源に配慮して働く工夫」をしている人が68%という結果になりました。「健康」に対する関心が高いものの、工夫を行っている割合との間には経営者同様、数値に開きあることがわかります。
企業の状態の差と、実践の関係
次に企業の状態を表す項目*の回答をスコア化し、スコアが平均以上と、平均未満という基準で2つのグループに分け、エシカルワークスタイルに対する実践状況を比較しました。
健康については、「人間工学に配慮した椅子・机の設置」以外の各項目で実践度が高い傾向にありますが、2つのグループの間には明らかに差がみられました。利他・ダイバーシティについては、「育児や介護に携わる従業員への配慮」はどちらのグループでも実践している企業が多く、「多様なキャリア形成のための支援」についてはどちらのグループも割合が低くなっています。地球環境については、省エネや省資源などについての実践割合が高くなっています。
結果として、2グループに分けてみるといずれの項目も企業の状態のスコアが平均以上のグループの方が実践度が高いことがわかりました。
*自社の経営が安定している、風通しが良い組織である、などの10項目を4段階で評価
ワーカーのパフォーマンスの差と、勤務先で実践されている工夫の関係
ワーカーについても、ワーカーの状態を示す項目*に関するスコアが平均以上と、平均未満という2つのグループに分け、自身の所属する企業で実践されている工夫について尋ねました。
いずれの項目でもパフォーマンスが高いグループの人が所属する企業の方が実践度が高くなっていますが、特に高かったのは柔軟な勤務時間や場所の選択に関する2つの項目や、「育児や介護に携わる従業員への配慮」でした。これらの項目は平均未満のグループでも他項目と比較して実践割合が高くなっており、社会的に取り組んでいる企業が多い項目だと考えられます。
2つのグループ間で大きな差が見られたのは「オフィスへの休憩・休息がしやすいスペースの設置」、「社員の相互理解を深める活動の実施」で、ワーカーが働きやすくなる工夫に差が出ています。この結果から、従業員を大切に思ったり、結束を図ったりする取り組みをしている企業にはパフォーマンスの高いワーカーが働いているのかもしれません。
*効率的に仕事を進められている、自分に期待された役割を十分に果たせている、などの8項目を4段階で評価
今後、力を入れていきたい取り組み・働きたい企業の取組
最後に、経営者には企業として今後力を入れていきたい取り組みを聞き、ワーカーにはどんな取り組みをしている企業で働きたいかを尋ねました。
経営者は多くの項目で高い割合になりましたが、精神面、身体面での健康に対する取り組みが上位に現れました。メンバーへの配慮、個性の尊重など「利他・ダイバーシティ」に関する項目も割合が高くなっています。
ワーカーの回答も同様に健康に対する項目が上位に来ています。経営者、ワーカーともに3つの柱で見ると「健康」「利他・ダイバーシティ」「地球環境」の順に重要だと感じていることがわかりました。「地球環境」に対する取り組みが下位になっているのは一企業や個人ではなかなか変えられるものではないという意識があるのではないかと考えられます。
考察
健康、利他・ダイバーシティ、地球環境への
関心や取り組みが個人や企業の状態に影響を与える?
オカムラが新たに提唱する「エシカルワークスタイル」について、企業やワーカーの現状を示すアンケート調査とともにご紹介しました。自社の利益を最優先にして企業活動を行う時代から、従業員を大切にし、ステークホルダーとともに発展していく時代に移り変わってきています。さらに、豊かな地球環境を次世代に引き継いでいくことも考えていく必要があります。
オカムラがエシカルワークスタイルの3つの柱として定義した「健康」「利他・ダイバーシティ」「地球環境」については、多くの人が関心を持っていることがわかりました。しかし、実践している人の割合との間には差がありました。また実践している内容を問う項目についても、多くの項目に対して、経営者は「今後力を入れていきたい」という意識をもっている結果となり、いよいよ実践に移していくフェーズに差し掛かっていると想定されます。
エシカルワークスタイルの内容や取り組みについては理解できたり、実践しようとしたりしているけれど、それが企業やワーカーにとってどのようなメリットを生むのかわからない。そんな疑問に対して、本章では取り組んでいる工夫が多い企業やワーカーほど、状態やパフォーマンスが良いことを明らかにしました。
Research: 池田晃一、嶺野あゆみ、鯨井康志、森田舞(オカムラ)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 藤田翔
Production: Plus81 inc.