働き方・働く場の研究と視点
KNOWLEDGE多様なキャリアを描ける社会に向けて
エシカルワークスタイルの1つの柱である
「利他・ダイバーシティ」を考える際に
オカムラでは、「キャリア」の柔軟性を
高めることも重要であると考え、
マルチトラックな働き方に関する調査を行いました。
マルチトラックな働き方を
実現するために
オカムラでは2012年から柔軟な働き方の効果検証に取り組み、「時間」「場所」「タスク」の3要素の柔軟性を高めた時に起こる変化を分析してきました。2022年となった現在、エシカルワークスタイルの一つの柱である「利他・ダイバーシティ」の観点から、互いに配慮し、多様な価値観を持つメンバーで構成された組織になるための方法に関心が集まっています。
そこでオカムラでは、先の3要素に加えワーカーの「キャリア」の柔軟性も高めることが重要であると考え(図1)、転職という大きな変化を伴わずに、図2のように、今の組織に所属しながらマルチトラックな働き方ができる社会を実現するための取り組みを開始しました。このような働き方をすると、今までは得にくかった経験を積むことができるようになります。
キャリアの
柔軟性と働き方
オカムラがキャリアの柔軟性を高めるために有効だと考える働き方に「副業」「リカレント教育」「サバティカル休暇」があります。オカムラは東京女子大学と共同でワーカー3,192名を対象に上記の働き方について調査しました。
まず、リカレント教育とサバティカル休暇は、理解している人の割合が低く、実践については、理解が進んでいる副業でも2割程度にとどまっています(図3)。次にどのような条件が揃うと具体的な行動に移すのか聞くと、リカレント教育とサバティカル休暇は知識量があることが関係していましたが、副業には関係性は見られませんでした。
また、現状の自分で実現可能かという実現可能性については、副業、リカレント教育には関係がありましたが、サバティカル休暇については影響がないことがわかりました。
副業によって
得られる効果
次に、それぞれの働き方の経験者にメリットを聞き、多く現れる単語を調べ、それぞれの単語の関係性についても明らかにしました。
はじめに副業について感じたメリットを見てみると、収入に関わる塊が大きく現れているのがわかります。金銭的な余裕といった塊も現れており、金銭面に関するメリットが大きな割合を占めていることがわかります(図4)。
また、本業と経験のつながり、違う世界に触れること、人脈の広がりに関する大きな塊も現れてきており、必ずしも金銭面のみがメリットではないことがわかります。仮に、金銭面を目的に副業を始めたとしても、金銭的に余裕ができることでプライベートの充実や人脈が広がることにメリットを感じ、結果として副業が豊かなキャリア形成に役立つのだと考えられます。
リカレント教育によって
得られる効果
同様にリカレント教育の経験者にそのメリットを尋ねました(図5)。最も多かったのは、学んだ知識と仕事に関する塊です。次に専門知識の学習という塊も現れており、仕事に関する知識の習得や専門分野の掘り下げにメリットを感じている人が多いことがわかります。知識や経験だけでなく、具体的な資格を得るために学び直すことで、仕事に活かせる機会を得たり、昇進や昇格に必要な条件を満たせた人もいるようです。
リカレント教育経験者の特徴は、他の二つの働き方と比較して、仕事を中心としたメリットを感じている人が多いことが挙げられます。
これは組織にとってもメリットであり、企業としてリカレント教育を希望する人を支援することや学び直しを促進することには意味がありそうです。
サバティカル休暇によって
得られる効果
最後にサバティカル休暇の経験者にメリットを尋ねました(図6)。一番大きな塊として現れているのが人生、視野の広がりに関する項目です。既存の組織から離れ、客観的な視点を持つことができたり、組織内では得られない経験やスキルを得ることができるのがサバティカル休暇のメリットといえるでしょう。次に大きく現れている塊は、組織で高まる専門性の項目です。多くの場合、外部の組織で働くことにより、専門的な知識が身につくと感じたようです。
また、違うことができるという塊も現れており、本業とは全く異なる分野にチャレンジしたり、本業とは異なる組織に身を置くチャンスになったと考えられます。ただし、副業やリカレント教育で表れていた仕事への直接的なフィードバックに関する項目はほとんど現れていません。
3つの働き方と
離職意識
最後に、マルチトラックな働き方を推進した時に経営者が危惧するかもしれない「離職」のリスクに触れておきます。
まず、副業とサバティカル休暇を希望する人については、離職の意図が高いことがわかっています。ただ、その理由は大きく異なり、副業を希望する場合は現状の仕事への満足度が低いためであり、サバティカル休暇を希望する場合は、それに加えてNPO などで社会的な課題に取り組みたいと考えていることが調査によりわかりました。
リカレント教育を希望する人については仕事の満足度が高く、かつ離職意図も低く、現状の仕事や組織に対してポジティブな印象を持っています。
3つの働き方について分析しましたが、それぞれ異なる特徴をもつことがわかりました。導入に際してはその特徴に配慮していく必要があります。
考察
多様性を意識し、
組織と個人がともに成長に向け
チャレンジしていく時代へ
組織の存続にとってメンバーの多様性が重要な役割を果たすことが、近年わかってきています。
そのためには、多様な価値観や視点、専門分野を持つ人をチームに加えることが重要です。今後、個人の豊かなキャリア形成や、新しい働き方へのチャレンジを支援して、そういった人を育成していく必要があるでしょう。オカムラが東京女子大学と行った調査では、「副業」に関する理解は広がっていても、「リカレント教育」「サバティカル休暇」についてはあまり知られていないことがわかりました。今回の調査では、それぞれの働き方のメリットとデメリットの一端を明らかにすることができましたが、さらに社内にロールモデルをつくることなどによって、より深く実践的な知見を獲得していくことが必要です。
新しい働き方を導入する際には、あわせてそれらを取り巻く制度も変えていくことが重要です。例えば、副業を導入する場合には、労災や健康管理面、情報の漏洩など、従来行ってきた仕事では起こらなかった問題が顕著になります。こうした課題については事前に会社側と副業を希望するワーカーとの間でしっかり取り決めをしておく必要があります。
経営層や人事担当者から見ると、離職意図が高い副業やサバティカル休暇を許可すると人材流出につながるのではという心配もあるでしょう。しかし、見方を変えると、副業やサバティカル休暇を取って他の組織で働きたいと思っている人を自社で雇用し、メンバーに加えるチャンスともいえます。特に、新規事業を開拓したり、イノベーションを起こそうと考えている企業にとっては、社内では育成できない経験や知識を組織にもたらしてくれるメンバーを迎え入れる機会として役立つはずです。
今まさに、企業が率先して新しい働き方を推進し、人材の流動性を上げることで、生産性だけでなく創造性や革新性を高めていく時代を迎えようとしているのです。
Research: 池田晃一、森田舞(オカムラ)、正木郁太郎(東京女子大学 現代教養学部 心理・コミュニケーション学科)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 藤田翔
Production: Plus81 inc.