働き方・働く場の研究と視点

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はたらく距離感〈後編〉

2021.12.27
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このコロナ禍で、オフィスとの距離、
一緒に仕事をするメンバーとの距離、仕事との距離といった
働き方に関する距離の取り方はますます多様になってきました。
前編に続き、後編では「メンバーとの距離感」「組織との距離感」「仕事との距離感」の調査データについてご紹介します。
POINT:
・メンバーとの状況の確認は「雑談などの会話」で行うことが多い
・組織の壁を超えることについて重要だと感じながらも、困難を感じている人が多い
・「在宅勤務制度」「時間単位有給休暇制度」は今後活用したいと回答した人は半数以上


メンバーとの距離感:
状況をどのように共有しているか

コロナ禍により、以前から同じオフィスで仕事をしていたメンバーとの距離感も大きく変化をしたのではないでしょうか。リモートで働くことが多くなっているなか、部下や上司、同じチームのメンバー、仕事を一緒にしている他のチームのメンバーとの状況の共有方法* について、共有している内容別* に調査をしました。

いずれの相手に対しても業務時間や出社状況、業務の進捗の状態の把握や報告については、「メール・チャット」での把握・報告が多く、生活面や心身の状態については「雑談などの会話」での把握・報告が多いことがわかりました(図5,6)。
*共有方法は、雑談などの会話、電話、メール・チャット、スケジューラー、面談・1on1、会議、朝礼・終礼、書類・報告書とした。
*自部門以外のメンバーには、自分の業務や生活面の状態に絞って聞いた(図6)。

コロナ禍においても、状態の共有については、メール・チャットなどを使いつつも雑談などの会話で把握する機会が多く、とりわけ生活面の状態や心身の状態については、何気ない会話の中での方が共有しやすいようです。
リモートワークが続く時期は、定期的に1on1*を実施したり、雑談タイムを休憩時や会議前後にはさむことで、メールやチャットだけでは共有しにくい生活面や心身の状態を共有しやすくなるはずです。
さらに出社をする際は、出社日をチームで揃えたり、何気ない会話がしやすいようにするなど、コロナ禍によるさまざまな変化に対応するように働く環境を変えていく必要があります。
*1on1
上司と部下が1対1で行う面談。
*リモートでのコミュニケーションの工夫については「オンライン会議の新しい作法」に掲載しています。


組織との距離感:
組織の壁を超えるには

リモートで働いていると、コロナ禍前と比べて決まりきったメンバーと仕事をする場面が増えたと感じる人もいるのではないでしょうか。オカムラでは、このコロナ禍を経て、様々な人と協力して組織や集団の境界を超えて働くことが、成果を生みだすために今後ますます重要になっていくと考えています。ここからは働く上での組織との距離感について、「組織の壁を超える」という視点から考えていきます。

まず、組織の壁を超えることについて、ワーカー自身が「組織」として認識している集団はどれくらいの規模なのかを聞いたところ、「部」と回答した人の割合が最も高く、次に「課や係」との回答がありました(図7)。

次に組織の壁を超えることの重要度、困難度についても調査をしました。組織の壁を超えることの重要度については、回答者のうち7割弱が「重要だと思う」と考えていました。組織の壁を超えることの困難度については回答者の半数以上から「困難だと思う」と回答がありました。この結果から、組織の壁を超えることについて重要だと感じながらも、困難を感じている人が多いと考えられます(図8)。

さらに、組織の壁を超えることの重要度・困難度について職種別に見てみました。経営層は8割から「重要だと思う」と回答がありましたが、「困難だと思う」と回答した人は4割程度でした。経営者以外の職種を見ていくと、重要度と困難度ともに上位にあがっている職種に大きな違いはありませんでした。経営層以外の職種は、組織の壁を超えることの重要性を感じながらも困難に感じている人が多いようです(図9)。
以上の結果から、重要度と困難度が双方とも高い職種については、まずは働く上で身近な「課や係」、「部」の壁を超えられるような工夫として働く環境やルールを整備したり、ワーカーの意識づくりなども含めた多角的な取り組みが必要なのではないでしょうか。


仕事との距離感:
今後望む働き方の制度

このコロナ禍で、働く場所や時間が柔軟になり、自分の生活と仕事との距離感を改めて考える人もいたのではないでしょうか。柔軟な働き方を実現するためには、時間や場所の柔軟性を高めるための制度を整える必要があります。そこで、今後活用したいと思う働き方の制度について聞いてみました。

まず、働く場所や時間に関する制度を見ていくと、現状最も活用されている制度は、「在宅勤務制度」で、6割以上の回答者が活用していました。
さらに今後も活用したいと考えられている制度を見ていくと、「在宅勤務制度」「時間単位有給休暇制度」については、現状制度を活用している人としていない人を合わせると半数以上の回答者から今後活用したいと回答がありました。「時間単位有給休暇制度」については、コロナ禍後に出社率が引き上げられても活用しやすい制度であると考えられているのかもしれません。
一方で、現在「在宅勤務制度」を活用していても今後は活用したくないと回答する人も1割以上いることがわかりました(図10上段)。
自分の生活と仕事との距離感を考える上では、働く場所や時間だけではなく、雇用契約に関する制度や、学び直しなどのキャリア支援に対する制度の整備も重要になります。
雇用契約やキャリア支援に関する制度を見ていくと、「裁量労働制度」については、現状活用している人は3割弱いましたが、その他の制度については、現状活用している人の割合はどの制度も2割未満でした(図10中段・下段)。
コロナ禍によるオフィスへの出社制限もあり、在宅勤務制度の理解や活用は進んだと考えられます。しかし、在宅勤務制度以外の制度については、制度を活用していない人の割合は各制度3〜4割以上、制度についてわからないと回答している人の割合も各制度3〜4割以上となっています。
今後、より柔軟な働き方を実現するためには、在宅勤務制度以外の制度についても、認知度の向上や理解を広めることが必要と言えそうです。
そして、制度の導入を行うだけでなく、ワーカー自身が状況に応じて制度を選択して活用できる職場の風土づくりもあわせて行うことが重要になります。


「はたらく距離感」のまとめ

ワーカーの多くは、今後も一定程度の頻度でオフィスに出社しながら働きたいと考えているようです。ちょっとした相談や偶然発生する雑談はオフィスの方がしやすく、チームのメンバーとの状況の共有においても何気ない会話は重要な役割を担っていることがわかりました。
何気ない会話を促すための工夫として、気軽にコミュニケーションがとりやすい空間づくりや、出社日をチームで揃えるなど、リモートワークを取り入れながらも雑談の機会を設ける工夫が必要でしょう。また、在宅勤務以外の働き方の制度についても状況に応じた導入の検討が必要といえます。


前編では、「これからのオフィスとの距離感」に関するデータをご紹介しています。
この記事の掲載誌「KNOWLEDGE WORK DESIGN REVIEW 2021」はこちらからダウンロードいただけます。(P10-15をご覧ください)

Research: 嶺野あゆみ、池田晃一、森田舞(オカムラ)
Edit: 大野菜々子
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 米村知倫
Production: Plus81 inc.