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KNOWLEDGE

オンライン会議の新しい作法

2021.11.10
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コロナ禍をきっかけに、ぐっと身近になったオンライン会議。
私たちはどのようにオンライン会議に参加し、使いこなしているのか、見てみましょう。
POINT:
・オンライン会議を使う側もさまざまな工夫をしている
・常にカメラをONにしている人の方が一体感を覚えながら会議に参加できている
・コミュニケーションの工夫を意識的に行う人ほど会議の達成感を覚えやすい傾向に


リアルとオンライン、
会議に対する感覚はどう違う?

500名のワーカーを対象に、会議中のメンバーとの「一体感」や「集中」などの項目について、リアルで行う会議とオンライン会議でのそれぞれの感じ方を聞いたところ、すべての項目で「リアルの方が感じやすい」という結果が出ました(図1)。オンライン会議はリアルで行うよりもさまざまな感覚が伝わりにくくなる傾向があるようです。また、この結果は、オンライン会議が良いか悪いかではなく、便利なツールを私たちがまだ十分に使いこなせていない可能性も示しています。


オンライン会議のために
どのような工夫をしているか

リアルな会議と比較してコミュニケーションがとれている感覚が薄いオンライン会議ですが、そのような環境で私たちはどのような工夫をしているのでしょうか。例えば電話の場合には、日常会話で用いない「もしもし」という呼びかけから通話がスタートします。同様にオンライン会議においても、私たちは何らかの工夫や話法を駆使してコミュニケーションを円滑にしようとしているはずです。

前出のオカムラと東北大学の共同研究では、オンライン会議で行っている工夫を20項目(視覚的工夫6項目、聴覚的工夫7項目、コミュニケーションの工夫7項目)挙げ、それらにどれくらい意識が向けられているのかについても調査しました(図2)。その結果は、一人当たり平均で9項目ほどを意識して参加していることがわかりました。オンライン会議に臨むにあたり、複数の工夫をしていることがわかります。一方で、1割半の人たちは、オンライン会議であっても特別な意識を持たずに臨んでいることがわかりました。
では、図2に挙げた20の工夫のうち、半数以上の人たちが「意識している」と答えた項目について詳しく見ていきましょう。


半数以上の人が
意識的に行っている工夫

視覚的な工夫については「資料を画面共有する」のみでした。対面の会議では資料を印刷して配布していましたが、オンラインでは画面を共有して相手に伝えているようです。次に聴覚的工夫で行われていたのは、「声の大きさ」「話す速さ」「話し方」「独り言を言わない」といった項目です。一番多かったのはコミュニケーションの工夫で、「相手の名前を呼ぶ」「相手に合わせた説明をする」「相手の意思を確認する」「相手の発言を促す」「発話のタイミング」について配慮しています。


カメラのON/OFFによる
違いはあるか

視覚的工夫の多くは、カメラがONになっていないとできません。では、オンライン会議を行う際、カメラのON/OFFで伝わりやすさに差は生まれるのでしょうか。

まず、オンライン会議時のカメラの状態を尋ねたところ、一番多かったのは「自分も相手も必要に応じてON」という回答でした(図4)。次に「自分も相手も常にOFF」が2割、「自分も相手も常にON」は1割半でした。この結果から、互いにカメラを同じ状態にすることを良しとする意識があるのではないかと考えられます。

それでは、自分のカメラのONとOFFによって会議における心境は変化するのでしょうか(図5)。まず、「集中」の感じ方を見てみると、常にON の人が一番集中して会議に臨めていることがわかります。一方、常にOFFの人で、「集中を感じる」という人は3割以下でした。
このことから、OFFの人は会議に呼ばれたものの、積極的には参加しない「ながら参加」が多いのではないかと考えられます。
回線の状況にもよりますが、より積極的な参加が望まれるメンバーは、カメラをONにしてオンライン会議に参加した方がいいでしょう。


カメラをONにすることによる
効果の検証

同様に、会議に参加しているメンバーとの一体感について尋ねると、常にカメラをONにしている人の方が一体感を覚えながら会議に参加できていることがわかりました(図6)。表情やジェスチャーによって相手の考えていることをとらえやすくなり、感情の共有なども行いやすいためではないかと考えられます。

また、カメラをONにしている方が、会議の結論を出すことや、会議に参加することへの責任感を覚えやすいという結果になりました(図7)。これら3項目を見ると、常にカメラONの状態で行う方が有意義な会議になるはずです。しかし、実際は移動中に視聴するだけの会議もあるでしょうし、相手に無理にカメラONを要求するのは望ましくありません。カメラONの有効性を伝え、互いに納得したうえで決めていくとよいでしょう。
カメラのON/OFFについては、会社や部門で基本的なルールが決められている場合もあります。いずれの場合においても「誰に」「何を」「どの程度」伝えたいかによってON/OFFを決定するのが良いということです。相手に配慮し、気持ちよくコミュニケーションを取れるようにしたいものです。


会議の達成感と
工夫への意識

ここまで、さまざまなオンライン会議の工夫や、カメラのON/OFFの効果について見てきましたが、次に、オンライン会議の工夫と会議の達成度の関係に着目してみます。

図8は、会議の達成感の度合いごとに、意識的な工夫を行っている人の割合を見たグラフです。会議の達成感を「強く覚える」人のうち、伝えるための工夫を意識的に行っている人の割合は約8割という高い数値になっています。
一方で「あまり覚えない」と答えた人では4割、「まったく覚えない」では1割ほどしか工夫をしていないようです。「ニワトリとタマゴ」ではないですが、コミュニケーションの工夫を意識的に行う人ほど会議の達成感を覚えやすく、また、会議の達成感を覚えている人ほど積極的に工夫しようと心がけている、と言えるのではないでしょうか。
こうした傾向は、図1に挙げた、一体感など、達成感以外の感覚についても共通してみられました。上手にコミュニケーションを行おうと工夫することによって、オンラインで失われがちな要素を補うことができるようです。
今はまだ、オンライン会議を使いこなす最適な作法を身につけている人はごくわずかなのではないかと考えられます。そのような背景があるなかで、今回の調査結果からは、積極的にオンライン会議の際に工夫を行おうとする人が多くいることや、工夫を行う努力により、オンライン会議のデメリットの一部が回避されていることがわかりました。
最後に、コロナ禍でのオンライン会議の推奨度と習熟度について見ていきましょう。


コロナ禍のシンボルとなった
「オンライン会議」

コロナ禍において、約8割の企業がオンライン会議の実施を推奨しています。また、オンライン会議の機会がぐっと増えてから1年以上経ち、多くの人がオンライン会議に慣れたと回答しています(図9,10)。これはコロナ禍以前と比較すると、象徴的な変化と言えます。
ただし、慣れてきたとはいえ、私たちは「オンライン会議」という新たなコミュニケーションツールを十分に使いこなすまでには至っていないようです。今後は、オンライン会議のメリットを伸ばし、デメリットを回避する、そんな経験やノウハウを蓄積していくことが必要です。

「オンライン会議」のまとめ

調査から、オンライン会議が普及し、使う側もさまざまな工夫をしてコミュニケーションを取ろうとしていることがわかりました。それではオフィス環境として支援できることはどんなことでしょうか。オンライン会議をしやすい環境を作るための方法として、ブースや個室、ウェビナーのためのスタジオといった設備を整えるほか、照明や空調音などにも配慮が必要と考えられます。

Research: 池田晃一(オカムラ)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Illustration (Top Banner): 米村知倫
Production: Plus81 inc.