明治電機工業株式会社 様 皆が「自分ごと」として改善し、進化を続ける持続発展型オフィス ――明治電機工業の新オフィス誕生とフリーアドレス導入への道のり
日本の「ものづくり」を強くする──。電機材料の販売とモーターの修理から事業を展開し、現在では「製造支援」と「製品開発支援」の両面から、製造業の「ものづくり」を100年以上の長きにわたり支援してきた明治電機工業株式会社。創業100周年記念事業のひとつとして、日本の製造業の中心地である愛知県西三河地区を担当し、全社最大の売上をあげる豊田支店の新社屋プロジェクトを発足させました。フリーアドレス導入にも挑戦しながら、豊田支店で働くすべての人の声を"聞き続ける"オフィスが、2022年8月より稼働しています。
Interview
明治電機工業豊田支店の旧社屋は築50年を超え、老朽化と人員増による面積不足、社用車駐車場の不足といったさまざまな課題を抱えていました。そこで同社は、企業体の視点からも、地球環境の視点からも、持続的発展・成長可能な新社屋の建設を決定。電力消費を抑える工夫を建築デザインに取り入れ、太陽光発電やその余剰電力から生み出された水素による燃料電池発電機の実証実験を行うなど、自社のサービスを活用したサステナブルな取り組みを行っています。
5階建ての社屋の中心となるのは、2つのフロアを貫く中央の大階段が象徴的な3・4階の執務フロア。一部フリーアドレス運用を導入し、年齢・性別・役職関係なく皆が「自分ごと」として改善し続けるオフィスを運用しています。
しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったようです。果たして明治電機工業はどのようにして「持続的発展・成長可能」なオフィスをつくりあげたのでしょうか。苦難の先にあった解決策とは? 今回は、新社屋構築に尽力した担当役員である佐合俊治取締役と総務担当の馬渕大志さんにお話を伺いました。
新オフィスのテーマは“交流”。その切り札となるフリーアドレスという手段
当社のスローガンに“Mission for Smile”というものがあるのですが、新しいオフィスをつくるにあたって、まずは働く従業員を我々が笑顔にしないとな、と。そのためには何が必要だろうかと考え抜いた末にたどり着いたのが”交流“というテーマでした。以前のオフィスでは、各フロアにセキュリティ扉があってフロアの行き来が物理的にも心理的にも大きなハードルになっていたんです。まずはそれを少しでも払拭したいなと思って、2フロアを自由に行き来できる中央の大階段をつくることにしました。
以前は、お互い忙しい日には馬渕さんの顔も一日中見られないこともあったりしてね。働く場所が固定化するとどうしても顔を合わせる人間も固定化してしまうので、この建物は全体をワークスペースと捉えてどこでも働ける環境にしています。3・4階を貫く大階段は2フロアをさながら1フロアに見立てた「oneフロア構想」の要となっていて、とにかく「どこにいってもいいよ、簡単に動けるよ」という働きかけをしています。
―なるほど。それで“フリーアドレス”という新たな運用にも挑戦してみることになったのですね。
はい。実はプロジェクト始動時はまだコロナ禍前だったこともあって、固定席の運用を継続するつもりでした。でもコロナ禍に突入したことによって、座席がぎゅうぎゅう詰めはまずいぞ、となり…。そんなときにちょうどオカムラのデザイナーさんが、”交流“の仕組みとしてフリーアドレスを提案してくれたのも大きかった。「建物の構造と”交流“というコンセプトには絶対フリーアドレスが合いますよ」と後押ししてくれて、私自身も会社に提案してみる勇気が湧きました。
仲間を「共犯者」に!?社内を巻き込みプロジェクトを推進する意外なポイントとは
― しかし、フリーアドレス導入は全社的にも初めての試みですよね。従業員から反対や不安の声はなかったんでしょうか?
もちろんありました(笑)。でも我々も、従業員が具体的にどんなことを不安に感じているのかを知りたかったので、社内アンケートを取ってとにかく従業員の声を聞くように心がけました。フリーアドレス自体は新しい考え方ではないので、私自身もインターネットで失敗例や対策を可能な限り拾ってきて、「こうすれば大丈夫だよね?」と提示してみたりして。固定電話がなくなるなら新しいシステムを導入して解決しようとか、具体的な対策を示してあげるとみんな安心してくれたようでした。
人間心理的には、どうしても「今のままがいい」と思ってしまうのでね。なのでなおさら、一回固定席で決めたらもうしばらく変更できないなと思い、決断しました。すべてをフリーアドレスにするわけではなく、色々な意見を取り入れて、最終的には固定席とフリーアドレスの折衷案で進めたのが成功したのかなという感じですね。
― 従業員の声を集めながら、とても丁寧に推進していったのですね。ほかにも何か大変だったことはありましたか?
アンケートでも意見は出るのですが、具体的にどうしてほしいというのが別にあるわけじゃないのが難しくて…。だったらみんなに考えてもらおうということで、従業員を巻き込んでワーキングチームを立ち上げることにしました。最初はオカムラさんのオフィスを見学させてもらうところからはじめて。そこから検討を重ねるうちにどんどん分科会が派生していって、細かい議論はそれぞれのタスクチームで行っていきました。タスクチームは 「ICT」「レイアウト」「ペーパーレス」「5S」「ルール」の5つ。メンバーはリーダーとサブリーダーを決めたら、あとは自薦他薦問わず、興味がありそうな人を募集しました。初期のルール設定だけでなく、稼働後の運用も含まれるので、積極的に取り組んでもらえることが一番かなと。
プロジェクトの明確な役割分担ができたことで、解決策が曖昧な課題にも具体的な対策案が組まれるようになりました。佐合と私は以前日経ニューオフィス賞も受賞している研究施設の見学に行かせてもらったことがあるんですが、そこの担当者さんが「ほかの人たちを共犯者にするんだ」とおっしゃっていて。言葉はあまりよくないですけど、まさにこれだなと思いました(笑)。自分も当事者だっていう意識が芽生えると、自然と「やらなきゃな」という責任がうまれるし、そうやって取り組んでいるうちに本人たちもだんだん楽しくなってきて積極的になってくれるんですよね。なので、稼働後半年を経過した現在もタスクチームは継続していて、定期的にミーティングが行われています。
あげられた意見にはひとつひとつ丁寧に応え続ける。従業員アンケートを通して、進化し続けるオフィスに
―新しいオフィスが稼働して半年以上が経過しましたが、実際にフリーアドレスを導入してみて、どんな効果があったと感じますか?
会話は増えたように感じますね。オフィスの中を歩き回る途中で色んな人と話すことが増えました。たぶんみなさん平均歩数も上がっているんじゃないでしょうか。通勤時間も含まれていますけど、私は毎日一万歩以上歩いていて(笑)。恐らく建物の中を結構歩き回っているからというのが大きいのかなと思います。
固定席だったときと比べて、オフィスの綺麗さが保たれるようになりました。机の上には何も置いて帰れないですし、外出のときもロッカーに入れるというルールにしましたから、必然的に綺麗が保たれるようになりましたね。
― 明治電機工業さんでは、移転後も従業員のみなさんにアンケートを取られているんですよね。その結果はいかがでしたか?
良くも悪くも、率直な意見をもらえたなと(笑)。「フリーアドレスを実施してどうですか」という質問に対して、正直私はもうすこし「やって良かった」という意見が多くなるかと予想していたのですが、結果は「やって良かった」が4割程度で、「どちらでもない」が6割程度でした。責任者としては少し残念ですが、逆にもっと良くしたいという意思の表れだなと捉えています。
私は逆に、「これは成功だ」と思いましたね。フリーアドレス導入前はあれだけ不安がっていた従業員がいたのに、「やらない方が良かった」と答えた人が回答者全体の僅か5%弱しかいなかったんです。もちろんこれで完成ではないので、年初に取ったアンケートの結果を受けて、3月末にはおおむねの対策を打ち終えました。ひとつひとつの意見に対してできることからやっていくというのが大事かなと。今回アンケートをやってみて、逆に固定席の人たちはどう感じているんだろうという疑問も湧いてきましたし、今度はその人たち向けにアンケートを取ってみてもいいかな、と思っています。
― なるほど。フリーアドレス実施後に実際どうだったかを知る機会はなかなかないので、参考になります。アンケートのつくり方では何を意識されましたか?
ツールはWEBアンケートツールを利用したんですが、完全に匿名にしました。結構辛口な意見も出てきますが、そのおかげでみなさん生の意見を出しやすいと思うので。あとは、「すごく良い・良い・ちょっと悪い・とても悪い」のうち、「とても悪い」のを選択したときだけ、どうすれば良いですかという自由回答欄が出てくるようにしています。良い意見も気になりますが、うまくいっているというアピールのためのアンケートではないので、どうしたら良くなると思うかの方が重要だなと思っています。個人的にはできることは全部やるので「これからもどんどん意見してほしい」という気持ちです(笑)。
いつも最高の状態であるために、変化に柔軟に対応する文化へ
今が終わりではなく、常に新しいことにブラッシュアップしている新オフィス。最後に、今後計画している新たな取り組みや目指す姿について伺いました。
今が良くても、半年後、1年後も常に最高の状態かと言われるとおそらくノーだと思います。当初フリーアドレス反対派が多くても今はしっくりきているというように、人の考え方は変わりますから。その都度気持ちを確認して、運用とミスマッチがあるのであれば、方法を検討していくことはずっとやっていかなければならないと思っています。あとは、現在は固定席とフリーアドレスを併用していますが、個人的にはゆくゆくは完全フリーアドレスにも挑戦したいと思っています。紙も可能な限り減らして、収納も減らして、本当の意味でどこでも仕事ができるという環境が構築できるといいですね。
タスクのチームの運用はこれからも未来永劫続けていこうと思いますね。今が全てというわけじゃない。必ず課題があってそれに向けて改善するということは必要ですから。また、社内と社外の交流を深めるための催し物の発信もしていきたい。豊田支店が良い手本となって、働きやすい環境をつくろうという意思と行動が全社的にも広がっていくといいなと思っています。
編集後記
フリーアドレスを導入したいと検討する企業は多くありますが、社内からの抵抗がありなかなか実現できないという場合もあるのではないでしょうか。導入後もアンケートをとって目に見える形で改善を続けていくのは大変なことです。しかし今回のインタビューからは、全員が納得できる形を探して常に従業員の声を“聞き続ける”ことで、その真摯な姿勢が伝わり仲間が増えていったのだろうと感じることができました。普段はなかなか聞けないアンケートの作成ポイントや社内チームのつくり方も、ぜひ今後プロジェクトがある方は参考にしてみてください。
Data
- 企業名
- 明治電機工業株式会社
- 所在地
- 愛知県知立市西町宮腰45 明治電機工業豊田支店
- 納入時期
- 2022年8月