オフィスづくりのコラム
COLUMN座りすぎは死亡リスクを高める?
時々立って仕事するメリットと実践例
人的資本経営(※1)や、従業員の心身健康に配慮したウェルビーイングなオフィスづくりに注目が集まっている昨今、ワーカーの作業姿勢が見直されています。座り姿勢に加えて立ち姿勢を取り入れると、健康面はもちろん、仕事へのモチベーションアップなどの業務面のプラスの効果も期待できるためです。
この記事では、座りすぎによるリスクと立ち姿勢を取り入れることによるメリット、立ち姿勢を取り入れた企業のワークシーンなどについて解説します。
※1 人材を資本と捉え、価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値を向上させようとする経営のあり方。
目次
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座り時々立ち姿勢で生まれる効果
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座りすぎによるリスクと健康への注目度
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立ち姿勢を取り入れた企業のワークシーンの紹介
- まとめ
1. 座り時々立ち姿勢で生まれる効果
多くの企業が立ち姿勢を取り入れる理由の一つは、業務効率化です。
オカムラが、座り時々立ち姿勢を実践したワーカーに対して行った調査でも、「効率性」や「機動性」「気分転換」など、業務効率化につながるメリットを挙げた方が少なくありません。
また、立ち姿勢を取り入れることにより、健康リスクの軽減も期待できます。
オカムラは大原記念労働科学研究所と共同で、2時間のパソコン作業を「立ち仕事だけ」「座り仕事だけ」「立ち/座りを繰り返して行った」、それぞれの健康に及ぼす影響について検証しました。その結果、立ち仕事と座り仕事を組み合わせて働いた人は、立ち仕事や座り仕事だけを行った人と比べて疲労度が低くなりました。
座り姿勢のオフィスワークで、1時間のうち10~20分程度の立ち姿勢を取り入れると、身体への負荷が分散され、疲れにくくなるためと考えられています。このほか、足がむくみにくくなる、腰の痛みが軽減するといった効果も確認されています。
また、姿勢を変えることにより、眠気が抑えられることもわかりました。これらの結果から、オフィスワークに立ち姿勢を取り入れることで健康上の問題が改善され、結果的に業務効率化につながると言えるでしょう。
2. 座りすぎによるリスクとは?
ワーカーの作業姿勢は、座り姿勢が基本。しかし、長時間座りっぱなしでいると身体への負担が大きく、腰痛を引き起こしたり、運動不足・肥満の原因になったりすることもあります。
厚生労働省が2012年に発表した「職場における腰痛予防対策指針」では、職場における腰痛の発生が多い5つの作業の1つとして「座り作業」が挙げられています。重量物取扱作業や介護・看護作業に並ぶ腰痛の発生原因であることを考えると、座り作業が意外にも腰に負担がかかる作業であることがわかります。
また、座り作業は、腰痛以外にも健康上のリスクを高めることがわかっています。1996年から2011年に報告された座位行動と健康リスクに関する前向き研究のシステマティックレビュー(※2)によれば、座位時間が長くなればなるほど、肥満や体重増加、糖尿病、がん、冠動脈疾患のリスクが高まるという結果が出ています。
オーストラリアで45歳以上の約22万人を対象に3年間追跡した調査(※3)では、1日の座位時間が4時間未満の人に比べて8時間以上の人は1.15倍、11時間以上の人は1.4倍も総死亡リスクが高まることがわかりました。
これらのことから、座位時間の長期化による健康上のデメリットはたくさんあると言えるでしょう。
※2 Thorp AA, et al. Sedentary behaviors and subsequent health outcomes in adluts a systematic reviewof longitudinal studies,1996-2011. Am J Prev Med. Aug 2011;41(2):207-215.
※3 Van der Ploeg HP,Chey T,Korda RJ, et al.Sitting time and all-cause mortality risk in 222,497 Austrarian adults. Arch Intern Med 2012;172:494-500.
■世界的に見ても、日本人の座位時間は長い
先ほど、オフィスワークの基本姿勢は座位だとお伝えしましたが、日本はとくに座位時間が長い国の一つと言えます。
世界20か国における平日の座位時間を比較した研究(※4)では、日本の平日の座位時間は400分以上と、1日に約7時間も座っていることがわかりました。これは調査対象とされた全20か国の中でも最も長く、世界的に見ても日本人は座りすぎていると言えるでしょう。
※4 Bauman AE, Ainsworth B.,Sallis j, et al.The descriptive epidemiology of sitting: A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ).Am J Prev Med 2011; 41: 228-235.
3. 立ち仕事を取り入れた企業のワークシーンの紹介
ここまでに日本人の座位時間が長く、座位時間の長期化が健康にも悪影響を及ぼすリスクがあることをお伝えしました。
こうした中で、人的資本経営を意識し、ウェルビーイングという言葉に注目する企業が増えています。ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること。
従業員一人ひとりのウェルビーイングが実現されると、働きやすさや仕事のやりがいを感じられ、仕事へのモチベーションや生産性の向上につながります。このことからオフィスづくりにおいても、ウェルビーイングの要素を取り入れる企業が増えてきているのです。
以下では、社員の健康を考えて、立ち仕事を取り入れた企業の実例をご紹介します。
(1)安川メカトレック末松九機株式会社(旧 末松九機株式会社) 様
安川メカトレック末松九機様は、社員みんなが快適に働けて、かつ偶発的なコミュニケーションが生まれるようにしたいという想いのもとにオフィスづくりをスタート。執務スペースにはハイテーブルを導入し、あえてチェアを減らすことで立って働く環境を整えました。これは座りすぎを防止するだけでなく、姿勢の変化も促しています。
(2)株式会社イルグルム 様
イルグルム様は、コロナ禍を経て多様化した働き方に対応すべく、大阪本社オフィスの再構築に取り組みました。オフィス全体としては社員同士のコミュニケーションが重視されていますが、各々が集中して作業できる2つの集中エリアも設けられています。
上下昇降デスクやシェルフなどのちょっとした壁を作ったことで、背後からの視線が気にならない設計に。また、上下昇降デスクで作業する人は自ずと立ち姿勢を取り入れることができ、姿勢に変化がもたらされることで、集中して仕事に取り組みやすくなります。
(3)特殊電極株式会社 様
社員同士のコミュニケーション活性化と働き方の変革を目指して、新オフィスづくりに臨んだ特殊電極様。「役職に関係なく、ともに働く意識を醸成したい」という想いから、社長と役員の執務スペースをほかの社員の執務スペースとシームレスにつなげました。
執務スペースに設置された上下昇降デスクも、フラットなコミュニケーションの活性化をサポート。天板の高さを上げ、腰掛けで作業することで横を通る人と目線が同一になり、コミュニケーションがとりやすくなります。また、ミーティング時に立ち姿勢をとることで前のめりになり、議論が捗る効果も。
まとめ
健康経営や人的資本経営、ウェルビーイングを意識したオフィスづくりに取り組む企業が増えている昨今。オフィスでの作業時に立ち姿勢を取り入れられるよう、上下昇降デスクを導入することも、社員が快適に働くための工夫の一つです。
ウェルビーイングなオフィスを作るためのヒントはまだまだたくさんあります。オカムラでは、ウェルビーイングを意識したオフィスづくりの重要性について解説している「働きがいを高めるウェルビーイングなオフィスづくり」という資料を配布しています。導入事例もあわせて紹介しているため、これからオフィスづくりに取り組もうとしている企業担当者の方にもおすすめです。
イラスト:Masaki