オフィスづくりのコラム
COLUMNただ導入すればいいわけじゃない。フリーアドレスを成功させるポイントは?
新型コロナウィルスの影響によって、「社員全員が毎日オフィスに出社して働く」という前提が変わりつつあります。感染防止の観点からリモートワークが推奨され、自宅など「オフィス以外の場所」が仕事場として活用されるようになりました。
その結果、オフィス以外の場所でも十分に仕事ができることを、すでに多くの人たちが経験しています。リモートワークは、ウィルスの猛威が終息した後も一般的な働き方のひとつとして継続されるでしょう。
この大きな変化を受け、見直しが進むオフィス空間。必ずしも社員全員が出社する必要はなくなり、一人ひとりに自席が確保されている「固定席」から、席を固定しない「フリーアドレス」を導入する企業が増えていくことが予想されます。
単にフリーアドレスにするだけでは、満足度に大きな変化はない
では、固定席とフリーアドレスでは、働きやすさにどのような違いがあるのでしょうか。オカムラと東京大学稲水研究室は、自席の有無の違いで働きやすさがどのように変わるのか、オフィスワーカー6,592名を対象としたアンケートで調査しました。
まず働きやすさを評価するに当たって、オフィスで行われる仕事を、一人で集中して仕事をする「ソロワーク」と、複数人でコミュニケーションをとりながら仕事をする「チームワーク」の2つに分け、それぞれの仕事に対する満足度を働きやすさの指標としました。
この指標に基づいて、フリーアドレスのオフィスと固定席のオフィスで働いているワーカーの「ソロワーク」と「チームワーク」の満足度を比較した結果が下の図です。「ソロワーク」「チームワーク」ともに、満足度に大きな差はありませんでした。
空間の「多様性」が、働きやすさを左右する
この結果を踏まえ、さらにもうひとつ別の分析をしました。次に注目したのは「ABW」という近年のオフィスづくりのキーワード。以前のコラムで紹介した通り、オカムラでも取り入れているものです。
※「ABW(Activity Based Working)」とは......オフィスの内外を問わず、仕事の内容や目的に合わせて働く場所を選択する働き方を指す1)。この働き方をオフィスで実現するには、様々な仕事を想定した多様な場所・空間がオフィス内に必要となる。
この分析では、「オフィスにどの程度空間的な多様性が用意されているか」を基準にしました。ここで言う空間的な多様性とは、仕事の内容や目的によって、場所を選べるかどうかと密接に関係しています。たとえば一人で仕事をしたいときに、自分のデスクしか選択肢がないのか、それとも集中しやすいよう周囲から視線や音を遮る場所や、カフェのようににぎやかなスペースが選べるのか。ミーティングをする場合では、画一的な会議室しかないのか、それとも短時間の打ち合わせに適した場所や、ホワイトボードを使いながらワークショップや議論が行える場所、離れた場所にいる相手とオンライン会議ができるような設備が充実した場所が選べるのか。このように、選択肢の数が多くあれば、多様性が高いと言えます。
上の図の横軸は、「オフィスは、デザインや設備が異なる様々なスペースが用意されており、仕事の内容に合わせて仕事をする場所を選べる」という質問について「非常にそう思う」~「全くそう思わない」の6段階で回答してもらい、オフィス内の空間の「多様性」を評価したものです。縦軸が「ソロワーク」と「チームワーク」の満足度を表しています。
この結果を見ると明らかな右肩上がりのグラフになっており、オフィスの中に多様な場所・空間があればあるほど、「ソロワーク」と「チームワーク」のどちらの場合でも満足度が高いことがわかります。
フリーアドレスを導入する際は「多様性」を意識したオフィスづくりを
一つめの結果からは、「固定席」か「フリーアドレス席」という運用方法の違いだけで、オフィスの良し悪しが決まるわけではないことが分かりました。一方、二つめの結果からは、オフィス内に空間的な多様性があるかどうかが、オフィスでの働きやすさに大きく影響を与えることが読み取れました。
フリーアドレスの導入を検討しているなら、単に運用方法だけを変えるのではなく、レイアウトや内装にも手を加え、多様な空間を用意すると良さそうです。そうすることで仕事の効率が上がるだけでなく、働きやすく生産性の高いオフィスへとアップデートできるかもしれません。
また、すでにフリーアドレスで運用されているオフィスでも、組織に合った新しい働き方を実現するために、ワーカーが作業内容に合わせて場所を選べるような空間の多様性を取り入れられないか、継続的に検討していくことが重要です。
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1)本調査は、オフィス内の空間の多様性に限定して調査を実施した。
イラスト:ウラケン・ボルボックス