Real Voice 1

仲 隆介(京都工芸繊維大学名誉教授)

職員の皆さんが
ハッピーになることから
市のクオリティが高まります。

仲 隆介(京都工芸繊維大学名誉教授)
Collaboration

新しい働き方やこれからの執務環境について、多くの自治体のアドバイザーを務める仲隆介氏にお話を伺いました。

Interview
Collaboration

チェンジマネジメントで
“空間”と“働き方”の両輪を動かす

守山市の新庁舎づくりのプロジェクトに、いろいろなアドバイスをされたと伺っています。率直なご感想を教えてください。

守山市のプロジェクトは、“座組み”がよかったと思います。建築家、デザイナー、家具メーカーなどの組み合わせががっちりとはまり、みんなで協力しながら、それぞれの力を発揮できていました。また守山市では、理解のある上層部と、やる気のある担当者の方々が、きちんとタッグを組めていました。働く場づくりのために、市の担当者が3回ほど相談に来られましたが、僕がお話ししたことを期待以上に受け止めて具体化された、なかなかこんな市役所はありません。

庁舎の環境づくりを行う意義は、どんなところにあるのでしょうか?

新しい庁舎を創るのは、ただきれいにするためや、職員の居心地をよくするためだけではなく、組織のパワーアップを行うことが一番の目的です。もっと良いやり方や働き方に変えることで、アウトプットのクオリティを上げることが大切。そして、市民サービスや市のクオリティを高めることにつなげるのです。けれども、働き方を変えるのは大変なこと。長年やり続けて積み上げてきた今までの働き方にプライドを持っている人もいます。加えて時代の変化も早く、市民の皆さんの価値観もどんどん変わってきている。課題も多様化して難しくなってきますし、思いもよらない災害もある。それで今までと同じやり方をしていたら、時間も人も足りないのです。そこで、いかに短い時間で答えを出すかが、日本中で問われています。もっと上手いやり方をしなければなりませんが、一方では、失敗してはいけないという文化もある。特に自治体の場合はプレッシャーもあって、“問題を起こせない”という意識がどうしても強く働いてしまいます。

Well-being

自分で決められることが
多くの人の幸せにつながる

働き方を変えないといけない、けれどそれを変えるのは大変ですね。

このままの働き方を続け、職員の皆さんが疲弊してしまったらアウトですからね。みんなが楽しく幸せに働けるようにしなくてはいけません。最近では、幸せな人ほど創造性が3倍高く、生産性が1.3倍高いという研究結果もあるようです。“ウェルビーイング”ということも、当たり前の価値観になってきています。仕事で幸せになることが大事であり、経済産業省が謳う“健康経営”の中でも一番大事なのは“社会的健康”だと思っています。つまり、働くことで生きがいを感じたり、仲間の役に立っていると思えることなどです。職員を幸せにすることが生産性の向上につながり、それは経営戦略なのです。経営戦略として、いかに市の職員を幸せにするか。そして、市のクオリティやアウトプットを上げるにはどうしたらよいか。一つの方向性として考えられるのは、職員が勤める環境を豊かにすること、中でも自分で働く場を選べるようにすることです。なぜなら、幸せになるための主要な要因の一つが“自己決定度”だから。自分で決められることが、人を幸せにすることにつながるのです。

だからそのような執務環境に変えていくことが必要なのですね。

新しいオフィスを創造することは、オフィス改革であると同時に、働き方改革です。それは組織改革や、人事改革にもつながっていきます。こうしたことには、やる気になって面白がっていないとなかなか取り組めないですよね。そのためにも、まずは職員の皆さんが自由な場所で働き、ハッピーになること。そこから、みんながハッピーになる仕組みに変えていってほしいと思います。

Work Environment

自治体と市民が交差し
お互いに高め合う未来へ

それでは、これからの自治体に求められることとは?

もっと自治体が経済活動や市民の活動の陣頭指揮を取るべきだと思います。海外に目を向けると、フィンランドのエスポー市というところでは、サステナビリティを最大化しようとしています。地球環境の視点もありますが、きちんとお金が回って新たな産業が生まれ続けるように、市としてサポートしているのです。新しい事業の起こし方をレクチャーしたり、いろんなアイデアを持っている人が混じり合うことをとても大切にしていて、市庁舎はそういった活動に特化した場所になっています。「みんな来てね。いろいろな新しいことをサポートするし、私たちも一緒に考えるから」という方向性ですから、自治体の役割が、住むためのサービス提供だけではなく、市民がまちを活性化していくことを助けるサービスに重点を置いているのです。それを日本でもこれからやって行かないと、まちの魅力がどんどん貧弱化していくように思います。

自治体にもっと積極的な取り組みが求められるわけですね。

そうなのですが、取り組もうとしても、今のままだとどうしても時間が足りないのです。ですから今の仕事は上手くDX化して、ハンコリレーをやめて電子決裁にしてもっと効率化し、定型業務の時間を圧縮して、クリエイティブでかつ楽しい仕事の時間を増やしていくのが大きな方向性だと思います。それで、もっと市民と一緒になって何かをやる。そうすると市民の皆さんも市役所の価値が分かり出し、「こういう方々が頑張ってくれて、今の状況があるのだな」と体感するようになります。そういった意味では、場所にとらわれない働き方を目指す守山市の取り組みは、大きく一歩を踏み出 したと言えるでしょう。

PROFILE

仲 隆介 Ryusuke Naka
1957年生まれ。合同会社ナカラボ代表、京都工芸繊維大学名誉教授。
働く場の可能性を広げることを目的とした社会実験プロジェクト「生きる場プロジェクト」代表。