正解やゴールがないからこそおもしろい
──村田さんにとって料理人という仕事はどういうものですか?
かっこよくいえば人生そのもの。それしかないから。天職でしょうね。自然とそうなったんですよね。料理人という仕事はいくらやっても飽きないですね。料理の道は奥が深い。正解がないというのがいいですよね。人それぞれいろんな味覚をもってるし、感性もあるし、うまい・まずいもみんなそれぞれなので。
料理の道は一生修業で、「こうなったら上がり」というゴールがありません。今でも自分は一人前の料理人だなんて自覚はないですし、そもそも一人前って何なのかって思いますよね。でも、だからこそおもしろいんでしょうね。
──働き方についておうかがいしたいのですが、現在はどんなスケジュールで動いているのですか?
起きるのは毎朝6時頃。河岸に電話してどんなものが入っているのか聞いたり、注文したりして、9時に河岸に行きます。仕入れをして11時半から12時くらいに店に帰って、そこから開店時間まで仕込みをやります。18時にお店をオープンして0時まで仕事。その後片付けなどをして1時過ぎくらいに帰宅します。家では風呂に入ったり読書したりテレビ見たりして寝るのは3時くらいですね。昔から睡眠時間は3、4時間くらいで全然大丈夫なんですよ。
店の定休日の日曜日と祝日もなんだかんだ仕事をしてることが多いです。取材やテレビの収録、地方の料理の品評会の審査員などの店以外の仕事を入れてます。それで地方に行くことも多いんですよ。そこで知った食材を使って郷土食を全面に出したメニューを作ることもよくあります。あと、連休は友達と飲みに行ったり、1日ぼーっとしたりする日もありますよ(笑)。
店以外の活動
──店の仕事以外にも、いろんな活動をしてるんですね。
農水省主導の「和食給食応援団」の一員としても活動してます。年々、給食で和食が減っているので1日のうちで米を全く食べないという子どもが増えてるらしいんですね。それを何とか食い止めようという目的で活動している団体です。具体的には、栄養士さんに出汁の取り方や和食の作り方を教えたり、子どもたちに和食の授業をしたりして和食を広めています。和食を食べる機会が減ると和食に興味がなくなって、そういう子たちが大人になったらお客として日本料理屋に来てくれなくなっちゃうじゃないですか。そういう危機感もあって。だから自分のためでもあるんです。
その他、いろんな食のイベントに出たり、和食の品評会の審査員をやったり、テレビや雑誌などの取材を受けているのも、このまま誰も何にもしなければ和食文化は廃れる一方なので、そうならないために日本料理の料理人の1人として何かしたいという思いからです。あとは「チームシェフ」という活動もしています。これは和食に限らず、全国各地のおいしい食材を使って商品を作って地方を活性化していこうという活動です。
国内だけじゃなくて、2015年には「ミラノ万博」に行って、現地の食科学大学で出汁の引き方や一汁三菜のメニューを教えました。それを食べてもらって、自分が使ったのと同じ食材で作ってもらって、それを品評するということもやりました。今後も機会があれば、世界にも日本の和食文化のすばらしさを伝えていきたいですね。
──今後の夢、目標は
昔からずっと変わらないんですが、自分で育てた野菜や釣った魚など、その土地のおいしい食材をその場で食べさせるのが1番いいと思っているので、将来的には横に畑があるような田舎で店をやりたいんですよ。50歳くらいでその夢を叶えたいと思っているんですが、お金が全然貯まらなくて(笑)。
あとはラーメン屋もやりたいんですよね。ラーメン屋ってスープと麺だけにこだわれるじゃないですか。和食屋って、毎回何百、何千種類の食材を使わなければいけないし、メニューも変えなきゃいけないけど、ラーメン屋は基本的に麺と汁だけで一杯を完成させられる。おいしい出汁や麺は和食と通じるものがありますしね。だから自分で店を出さなくても監修という立場でもいいからラーメンを極めたいなと。ラーメン好きだし(笑)。
──お子さんを料理人にしたいという気持ちは?
ありますよ。今高2の長女は時々店に手伝いに入ってるし、中2の長男は家が店をやってるからしょうがなく料理人になろうかなという感じっぽいです(笑)。1番料理に興味をもっているのが1番下の次男です。何にしてもこの先が楽しみですね。
村田明彦(むらた あきひこ)
1974年東京生まれ。料理人。「季旬 鈴なり」主人
幼少期から祖父が東京・門前仲町で営んでいたふぐ料理店で遊んでいたことから料理人を志す。千葉の商業学校卒業後、老舗日本料理店「なだ万」に入社。13年修業を積み、2005年「季旬 鈴なり」開店。2012年に初めてミシュランの1つ星を獲得。以降、2017年まで6年連続で獲得中。リーズナブルな値段で本格的な日本料理が食べられるとあって幅広い層から人気を博している。雑誌やWeb、テレビなど各種メディアでも活躍中。2015年にはミラノ万博に和食の料理人として参加。農林水産省「和食給食応援団」のメンバーとして和食文化の振興、「チームシェフ」の一員として地域活性化にも取り組んでいる。
初出日:2017.03.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの