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2017.02.15  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

木育の課題

角田 近影07

──現状で木育に関して抱えている問題意識はありますか?

角田 何が本当の木育なのかというのがすごく難しいですよね。現状で行われている「勉強」としての木育と本当に実施してもらいたい木育は乖離してるのかなと。つまり単に木について説明されたところでそんなのに興味のある子はなかなかいないし、間伐材で作った家具を見たり触ったとしても愛着が湧くわけじゃない。もちろん効果としてゼロではないですが、違うんじゃないかなと。

佐藤 じゃあ角田さんの考える真の木育とはどういうものなの?

角田 木育っていろんなものがあるのかもしれないけど、自ら木を使ってものづくりをするなど愛着がわくような体験を通して木に触れ合えないものは本当の木育じゃないのかなと。だから講義だけでなく私がこれまで行ってきた、参加者が家具を実際に作るプログラムなりワークショップが木育というのならわかるんです。もっと言えば赤ちゃんの頃から回りに木製の家具に囲まれて育った人とそうじゃない人は違う。

浅野 どういうこと?

角田 木製の家具は子どもの成長や家族の暮らしの日々を積み重ねる中で傷や染みがついたり、反ったりしますが、それらが家族の思い出や歴史となり、やっぱり木はいいなあと愛着が湧くと思うんですよね。そういう文化が昔から日本にはあった。しかし、そういった文化も木造の家が減り、木製の家具が使われなくなった現代ではなくなっています。それをなんとか復活させてできるだけ木を使おうという動きが国主導で始まっていて、木育もその一環なのですが、現代人の多くは身の回りに木がない生活を送ってきたので、木の特性が全然わかってないんですね。だから国や会社に言われて急に木製の家具を買ったとしても年月を経て反ったり割れたり傷がついたら、なんだやっぱり木はダメじゃないかということになる。

座談会近影 08

浅野 確かにそうなんだよね。

角田 そうならないように、赤ちゃんの頃から木製のおもちゃなど、いろんな木製品に触れさせておく必要がある。興味をもつには自分の物じゃないとなかなか難しいですからね。それによって木に対する興味が生まれて好きになり、木はどんなものがあるのかなと自分で調べ始める。そういう体験をしていれば、大人になって家具を買う立場になった時、愛着をもって木製品を買って使うと思うんですね。だから体験型ではない木育を一所懸命学んでもらったところでそこから興味をもつ子はなかなかいないんじゃないかなと。勉強が先じゃなくて、まず自分の体験から育てるのが本当の木育なんじゃないかと思うわけです。

──今の角田さんの意見に対して学校で環境出前授業をしている森田さんはどう思いますか?

森田 近影09

森田 角田さんが言っている本来の木育は私もその通りだと思います。でも私がやってる環境出前授業では勉強のところしかお手伝いできなくて、それは多分、私含めて社内で携わっている人たちも多少のジレンマをもっているだろうなと。

先ほどお話に出た早稲田大学の古谷先生が主催している、自然とともにある学びについて考える研究会「森が学校計画産学共同研究会」に参加しているのですが、その中で古谷先生がおっしゃった言葉ですごく印象に残ってるものがあります。それは「森に行くことはかけがえのない体験になるし木育にもなるから、行ける人は絶対行った方がいい。でも森に行けない状況の子どもたちもいる。近くに森がない都会の子どもたちは、森からできた椅子や机、おもちゃなどの木製品が学校や家の中にあることで、一瞬かもしれないけど木や森に興味をもつかもしれない。だから、木育家具は森のものが生活空間の中に入ってきたというイメージがいいと思う」という趣旨で、確かにそうだなと思いました。出来た製品を触るだけではあまり木育として効果はないのかもしれないけれど、全くないよりは全然いいと思うんですよね。実際に木材を製品にするのは課題がたくさんあって、浅野さんも悩んでいると思いますが。

浅野 確かにいざ木製品を売るとなると割れちゃったり反っちゃったり、汚れやすかったり傷つきやすかったりするので難しいんですよね。ずっと大事に使ってくれる人に供給したいなという思いはありますけどね。親や先生が木製品は傷つくものだと子どもに教えるところから木育かなとは思うのですが、それもなかなか難しいですよね。

佐藤政満(さとう まさみつ)

佐藤政満(さとう まさみつ)
1956年東京都出身。株式会社岡村製作所 マーケティング本部 企画部長

大学でプロダクトデザインを専攻後、岡村製作所に入社。オフィス製品やホームインテリア製品のデザイン、パブリック製品やオフィス製品の企画開発などを経て、現在はマーケティング本部にてプロジェクト単位の製品開発支援、また個別営業物件の製作調整、支援などに従事している。


角田知一(かくた ともかず)

角田知一(かくた ともかず)
1964年神奈川県出身。株式会社岡村製作所 きづくりラボ チーフデザイナー

大学でインダストリアルデザインを専攻後、岡村製作所に入社。ホームインテリア家具やオフィス家具のプロダクトデザインを担当。現在は木に関する研究や木製家具の開発と地域創生に繋がる産学官研究などに従事している。


浅野裕一(あさの ゆういち)

浅野裕一(あさの ゆういち)
1968年東京都出身。株式会社岡村製作所 マーケティング本部 パブリック製品部

大学で機械工学を専攻後、岡村製作所に入社。製品設計や特注製品のデザイン業務を経て、現在は教育施設向け家具の企画開発を担当している。


森田舞(もりた まい)

森田舞(もりた まい)
1978年東京都出身。株式会社岡村製作所 マーケティング本部 オフィス研究所 主任研究員

大学、大学院で建築学を専攻後、岡村製作所に入社。オフィス製品の企画開発を経て、現在は教育施設を中心として、よりよい空間・環境のあり方に関する調査・研究に従事。専門は建築計画。博士(工学)、一級建築士。

初出日:2017.02.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの