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2016.08.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ドローンの運用方法

2016年2月に行った実証実験の模様

2016年2月に行った実証実験の模様


──実際に運用する際にはどんな感じになるのでしょうか?

まず着地点の確保が大事なので、お客様と最初にドローン宅配の契約をした時に届け先の着地点を登録したり、着地点に衝撃吸収用のマットをセットする必要があります。それさえ完了していれば近い将来、パソコンで「○○町の○○さん家」と選択してクリックすれば、あとは自動的に飛んでいき、担当者は遠隔操作で飛行状況を監視するだけという完全オートパイロットになります。


──ドローンを商店から飛ばすことも可能になるのでしょうか?

現時点では、ドローンはメンテナンスと万が一の事故対応のため、新聞配達店などに常備して販売店スタッフが管理・運営するのが適切ではと考えています。シニアからお買い物を頼まれた場合は、新聞販売店のスタッフが商店に買いに行き、販売店に戻ってきてからドローンに商品をセットして飛ばすということや、新聞販売店からドローンを商店に飛ばし、商店のスタッフが商品をドローンに乗せてシニア宅まで飛ばすことも十分可能だと思っています。

今後、携帯電波の空中利用が可能になると、例えばドローンが商店に到着し、商店のスタッフが荷物をコンテナに入れたのをドローンに搭載したカメラからの映像で確認し、遠隔で出発させるということが可能になります。また、ドローンがお客さんの家に到着した後も、同じように数キロ離れた操作室にいながらにして、依頼者が商品を受け取って安全が確認でき次第遠隔操作でドローンを上昇、飛行させて出発地点まで帰ってこさせることが可能となります。何かトラブルがあった時もこちらからドローンに信号が送れるようになるので安全性も向上します。そうなればドローン操作のオペレーターは基本的に遠隔でモニタリングだけしていればよくなり、異常が発生した時にだけ操作するというふうになるでしょう。


──そうなればすごく便利になりますね。実用化はいつ頃をメドに考えているのですか?

これは、官民一体となっての取り組みが重要となってきますので、政府発表の2018年を目指しています。これまでの実証実験で得られた課題を元に、今後もサービスの開発に努めていきたいと思っています。

ドローン宅配の料金

──ドローン宅配の料金はいくらくらいを設定しているのですか?

鯉渕美穂-近影13

まだ機体や環境も日進月歩で変化しているため、現時点で○○円とは言えませんが、まごころサービスの利用者へのアンケート結果などから、1回500~1000円くらいが適切かなと考えています。利用者の方が、今はご自宅から買い物先までバスで往復されるのに500円くらいかかっています。この分をドローン宅配で代替できると考えると、それぐらいの価格帯に抑えられればと思っています。


──実用化されたらドローンは新聞販売店が購入して店内に常備するのですか?

安価なものでも産業用ドローンは1機100万円から数百万円します。必ずしも新聞販売店が購入しなくても、ドローンメーカーからのリースなども可能だと思っています。ドローンの運用費はお客様からいただく宅配料の中から捻出するというやり方になるでしょうね。


──でも500円~1000円という低料金で果たしてペイできるのですか?

確かにその料金ではドローンの機体代やメンテナンス代、人件費を考えるととてもペイできません。そこでこのドローンを宅配サービスだけではなく、日々のメンテナンスを含めて、災害時に現場の被災状況の確認に使用する目的で、自治体や企業などとシェアできればと考えています。自治体はそのような災害対応の1つとしてドローンを保有していますが、災害が起こらなければずっと眠ったままになり、メンテナンスもされなくなってしまうことが想定されます。ですので、使用しない間は宅配や農薬散布など他の用途でレンタルするような形も可能ではないかと考えているんです。


──ドローン宅配に対する新聞販売店や自治体の反応は?

新聞販売店だけでなく、大企業や地域の商店など多くの方々に興味をもっていただいています。また、自治体からもたくさんのお問い合わせをいただいています。現在、日本の6分の1の市町村が限界集落で高齢化率も50%を超えて、このままではいわゆる買い物弱者の高齢者がどんどん増えてしまいます。自治体は彼らを何とかして守らなければという使命感をもっていて、その解決策の一つとしてドローン宅配に興味をもたれているケースが多いですね。ドローンを生活圏で飛行させるためには、自治体の許可や協力が欠かせないので、今後も多くの自治体や地域密着企業の方々と良好な関係を築いていきたいと思っています。

ドローン宅配の実現自体が目的ではない

鯉渕美穂-近影14

ただ、実用化に向けて開発を進めているドローン宅配事業はそれ単体がメインではなく、あくまでもまごころサポートの中の1つのサービスと考えています。このインタビューの冒頭でもお話しましたが、我々が目指しているのは宅配事業そのものではなく、いわゆるシェアリングエコノミー、地域の中でお互いが共存していくための仕組みづくりで、その中の1つとしてドローンが活用できそうなので開発を推進しています。だから、何がなんでもドローンで荷物を運ぶというのではなく、人が運んだ方がいいという地域なら人で宅配すればよいですし、自動走行の車が実用化になればそれでもよいと思っています。それらの手段を組み合わせればもっと可能性は広がります。例えばここまでは人かバイクか車で運ぶけれど、ここから先はたいへんなのでドローンで運ぶとか、離島へ届ける場合は、ここまではボートで行くけど海が荒れたらドローンで運び、ここから先は自動走行という感じが実現できるのではと思ったりしています。


──鯉渕さんを突き動かしているのはどんな思いなのでしょうか。

「社会にインパクトを与えることで、よりよい世界を創りたい」という思いですね。解決策を見出すまではあれこれ悩むのですが、それが1本に繋がって答えが見出だせた瞬間がすごくおもしろいんです。そもそもは高校時代に経験した出来事がその原体験になっていると思います。


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鯉渕美穂(こいぶち みほ)

鯉渕美穂(こいぶち みほ)
1977年東京都生まれ。MIKAWAYA21代表取締役社長

雙葉学園中学・高校卒業後、東京理科大学経営工学部へ。卒業後、外資系大手コンサルティング会社入社。 国内大手製薬会社や公団民営化に伴うプロジェクトに会計コンサルタントとして参画。外資系ソフトウェア会社を経て、人材育成コンサルティングに入社し、法人向けの教育研修事業部のマネジャーとして部署を統括後、シンガポール現地法人のディレクターとして海外拠点を立ち上げ、新規事業推進に従事。2014年10月、シンガポール駐在時代に知り合った友人に請われ、地域密着で子供からシニアまで安心して暮らせる社会の実現に取り組むベンチャー企業「MIKAWAYA21」株式会社の代表取締役社長兼COOに就任。2014年12月に長女を出産。現在は経営者、一児の母として仕事と育児の両立に励む日々。趣味はテニス、ゴルフ、車、茶道。

初出日:2016.08.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの