流し以外の活動
──現在、流し以外に取り組んでいる活動は?
師匠が第二日曜日の15時から17時まで荒木町のお隣町にあるかふぇオハナさんで「流しカフェ」をやっているので、私も時間が許す限りサポートに行っています。お客さんが歌わないときの穴埋めに歌ったり、似顔絵を描いたりしています。
個人的な活動としては、たまにビジネス用のイラストや漫画を描いています。それも流しで出会ったお客さんから依頼をいただくことが多いんです。例えば名刺に掲載するカットから、1ページもののイラスト、数ページの漫画までさまざまですね。会社のキャタクターデザインを頼まれることもあります。これまでカフェなどでイラストの個展をやったこともあるんですよ。
でもイラスト・漫画の仕事は趣味に近いですね。縁があって依頼が来たもの以外は描くつもりはなくて、これから絵の仕事を増やしていこうとも思っていません。あくまでも本業は流しなので、絵に時間を取られて流しがおそろかになったら元も子もありませんからね。
あとは、これも趣味の範疇ですが、メンバー全員が猫耳をつけてライブをやる「猫バッカス」という音楽バンドを組んでボーカルを担当しています。ライブでは流しではやらないような曲、例えば昭和歌謡の中でも新しいものや、ジャズ、シャンソンなどを歌っています。基本的に不定期で、お店からライブをやってほしいという要望があったときにメンバーと日程を調整して出演しています。メンバーは全員プログラマーや大工など本職をもっていて、ライブのときだけ集まります。「大人の部活動」のようなコンセプトでやっているんです。今は好きなことをやれているので精神的なストレスは全くないですね。
師匠の漫画を描きたい
──今後の夢や目標は?
可能なかぎり新太郎師匠と一緒に流しを続けたいと思っています。でも親しい人からは、「師匠は74歳だから今後そんなに長く流しを続けるのは難しい。年齢や体力的な問題で流しができなくなった時どうするか、身の振り方を考えておきなさい」と言われてるんですよね。まだ真剣には考えていないのですが、もし本当にそうなったら師匠の後を継いで1人でも流しを続けたいと思っています。芸の幅を増やすために三味線も習い始めました。本当にできるかどうかはわかりませんが挑戦したいんです。
──流しを後世に遺していかなきゃという使命感はあるのですか?
それは全くないです。本当に流しが好きだから、もっとやりたいという気持ちだけです。この世界に入る前は、こんなに好きになるとは思っていませんでした。それに、「遺していかなきゃ」というような大上段に構えた偉そうな心持ちでいると誰も寄り付かなくなるので、変な使命感なんてもたない方がいいと思うんです。師匠のように生きていくためには流しをするしかなかった、それで気がついたら60年近く経っていた、というのが理想で、そうしてみんなに愛されるといいなぁと思います。
もう1つの夢は師匠の漫画を描くことです。戦争孤児から始まって、戦後の動乱期をギター1本で独りで生き抜いてきた激動の人生を漫画にしたら絶対おもしろいと思うんですよね。それができるのは、長い間師匠の一番近くで話を聞いている私しかいません。師匠が元気なうちに絶対描きたいですね。
歌う漫画家 ちえ[本名:宮本千愛(みやもと ちあい)]
愛知県生まれ。流し
大学時代から昭和歌謡のバンドを組んで歌い始める。集英社「YOU」で初めて描いた漫画が期待新人賞を受賞。プロの漫画家を目指し、小池一夫塾に1期生として入塾。漫画制作の技術を学ぶ。修了後、名古屋造形芸術大学短大に入学。24歳の時漫画家デビュー。地元名古屋の情報誌で連載しつつ、広告漫画などを描いていたが、漫画家としてのステップアップを求め、2010年上京。漫画を使った結婚式ムービーや企業紹介ムービーを作る会社で営業を1年経験した後、同業他社へ営業兼登録漫画家イラストレーターとして移籍。ちょうどその頃、ガロ系漫画家・東陽片岡氏に出会い、四谷荒木町で国内の最高齢流しの新太郎氏を紹介される。2012年7月、東陽氏の勧めで新太郎氏に弟子入りし、「しんちゃんちえちゃん」を結成。新太郎氏のマネージャー兼歌う漫画家ちえとして新太郎師匠と一緒に荒木町を流し歩き、演歌歌謡曲を歌ったり、お客の似顔絵を描いたりしている。その他にも「歌」「漫画」「イラスト」「切り紙」など多方面でアーティストとして活動中。ちえさんが作成したLINEスタンプ「流し新ちゃん&ちえちゃん」「流し新ちゃん&ちえちゃんその2」好評発売中。
流し紹介ムービー
- 『荒木町の新太郎』
- 『荒木町の夜』
- 流し以外のバンド活動記録
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初出日:2016.05.16 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの