非現実のエンターテインメント
──流しの料金は?
歌が3曲1000円から。お心づけ大歓迎です(笑)。だいたいみなさん3曲でも1000円以上は払ってくださっています。似顔絵はお一人1000円です。
──流しだけで生計は立てられているのですか?
今のところはギリギリ生活していけてます。師匠のおかげですね。流しが好きなので最低限食べられる分だけ稼げればいいので今は幸せです。
──流しをする上で心がけている点は
流しはその時々に合った着物を選んで着て髪も日本髪を結って行う「非現実のエンターテインメント」です。芸を披露することでお客様からお代をいただく商売なので、自分自身が商品と言っても過言ではありません。特に私は女性なので、芸と同じくらい見た目も重要です。同じ1曲歌うにしても見た目でその価値が全く違ってくると思うんですね。ですからプロ意識をもって、お客様に私を応援したいと思っていただけるように容姿や身なりを整えることを心がけています。自分がお客様からどう見えるか、つまり、セルフプロデュースに一番力を入れているんです。
そのために日本髪の結い髪の会に参加して勉強したり、自分でうまく結えるように練習したりしています。また、流し2年目から本格的にダイエットに取り組み、15キロの減量に成功しました。あとは日頃からカゼを引かないように体調管理に気を配ったり、適度な運動をしたり食生活に気をつけたりしてます。
こういうことも師匠から学んだんです。流しはスターだから身だしなみが大事で、かっこよく見えるように自己演出できないとだめなんだといつも言っています。見た目には強いこだわりをもっていて、着物や髪の毛もいつもしっかり整えてますからね。これらのことを通して、自分がやりたいようにするだけじゃなくて、他人のアドバイスを素直に受け取って頑張れば失敗しないということを学びました。
──流しの世界に入ってよかったと思うことは?
流しをしていなかったら絶対に会えなかったであろういろいろな人に会えることですね。いろんな人の人生に触れられて毎晩がドラマのような感じなので飽きるということがありません。中には長い付き合いになる人もいて、それもおもしろいんですよね。
師匠がよく言っていたのが、大企業の社長や弁護士、医師など、社会的地位が高いとされる人たちは普段、他人に弱みを見せられないし、はめもあまり外せないけれど、流しとは利害関係が全くないから素の自分に戻って心の底からその場を楽しむことができる。そこでぎゅっと距離が縮まって仲良くなることもよくあって、そういう普通ではありえない人間関係が体験できたときに流しになってよかったなと思います。
──お客さんと一緒にお酒を飲むこともよくあるんですか?
もちろんあります。歌を歌ったり似顔絵を描いたりした後にお客さんに勧められて一緒にお酒を飲みながら話すこともよくあります。それも仕事のうちなんです。師匠の場合は特にテレビに出演した後は、わざわざ遠方や海外から師匠に会いに来る人もいるくらいです。
歌う漫画家 ちえ[本名:宮本千愛(みやもと ちあい)]
愛知県生まれ。流し
大学時代から昭和歌謡のバンドを組んで歌い始める。集英社「YOU」で初めて描いた漫画が期待新人賞を受賞。プロの漫画家を目指し、小池一夫塾に1期生として入塾。漫画制作の技術を学ぶ。修了後、名古屋造形芸術大学短大に入学。24歳の時漫画家デビュー。地元名古屋の情報誌で連載しつつ、広告漫画などを描いていたが、漫画家としてのステップアップを求め、2010年上京。漫画を使った結婚式ムービーや企業紹介ムービーを作る会社で営業を1年経験した後、同業他社へ営業兼登録漫画家イラストレーターとして移籍。ちょうどその頃、ガロ系漫画家・東陽片岡氏に出会い、四谷荒木町で国内の最高齢流しの新太郎氏を紹介される。2012年7月、東陽氏の勧めで新太郎氏に弟子入りし、「しんちゃんちえちゃん」を結成。新太郎氏のマネージャー兼歌う漫画家ちえとして新太郎師匠と一緒に荒木町を流し歩き、演歌歌謡曲を歌ったり、お客の似顔絵を描いたりしている。その他にも「歌」「漫画」「イラスト」「切り紙」など多方面でアーティストとして活動中。ちえさんが作成したLINEスタンプ「流し新ちゃん&ちえちゃん」「流し新ちゃん&ちえちゃんその2」好評発売中。
流し紹介ムービー
- 『荒木町の新太郎』
- 『荒木町の夜』
- 流し以外のバンド活動記録
youtubeチャンネル
初出日:2016.05.02 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの