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2016.03.22  取材・文/山下久猛 撮影/早坂正信(スタジオ・フォトワゴン) イラスト/フクダカヨ

観光も馬の力で

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安部 とにかくこの地域に人が集まる状況を作りたいんですよ。そのためには奥松島全体で観光に力を入れることがまず第一。昔ながらの東名運河の活力、馬搬、馬車、いろんなことができると思うので、八丸さんたちに期待したいですね。

佐々木 私は八丸さんの美馬森Japanがやってる馬の活動は地域のいろんな場所と場所、人と人とを結びつけてくれる存在だなと思ってます。観光の話では宮戸地区の水産の人たちと農村部を馬で結びつけることも可能。東名運河の昔の歴史的遺産があって、馬が荷物を積んだ船を引いたりした歴史があるので、そういうイベントもできるでしょう。地域づくりという大きな視点で考えた時に、こういう観光イベントを通していろんな人が集まって交流するというエリアに段々育っていけばいいなと思ってます。私たちと八丸さんたちはお互いに必要としているからこうやって結び付けられているんじゃないかなと思うんですよね。

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 今まで私たちがこの地域でやらせてもらったことはそれまでにはなかった全く新しいこと。新しいことをやるときは、周囲から批判されることを恐れて「やらない」という選択をする人の方が多いと思うんですね。やれたとしてもものすごく時間がかかる。でもアグリードさんはこれまでになかったものでも地域のためによさそうだと思えばどんどんチャレンジできる下地を作ってくださるので、すごく助かっています。安部社長は「できるかできないか」で考えているのではなく、「やるかやらないか」で考えているんですよね。現状では課題があっても、どうやったらクリアできるかを考えて一気に動き出しちゃう。その先を読んで行動する力がすごいと思います。当初はそういう安部社長の行動力や何でも受け入れてくれる柔軟さにものすごくびっくりしました。だから僕らとしてはアグリードさんに対しては感謝の念しかありません。これまで話したような事例は本来すごく難しいことなのに簡単に実現できてるのはアグリードさんのようなリーダーがいるからこそなんですよ。

先ほど安部社長が話した、馬で船を引っ張るイベントも近い将来に実際に開催されるでしょう。それくらいスピードが早いんですよね。だからこそ国内屈指の先進的な地域になっている。今後も地域の資源をつなぐというやり方で、地域創生のモデルになると感じています。

安部 やっぱりね、失敗を恐れちゃダメなんだよね。とにかくチャレンジあるのみ。失敗してもダメな部分を改善していけばいいだけのこと。それを毎年繰り返していけば必ず成功しますから。あれこれ議論しているだけではダメで、行動に移さなければいつまでたっても前に進めないということですよ。

佐々木 我々は地域のみんなの喜ぶ顔がみたいからやってるわけですからね。

 馬は機動力、行動力の象徴なので、今後もますます馬を活用していきたいですね。

「昔とった杵柄」で馬耕を行う地元のベテラン農家

「昔とった杵柄」で馬耕を行う地元のベテラン農家

誰もが住みたくなる町に

安部 多くの人がこの地域に住みたいと思う町をつくることが我々の究極の目標です。そのためにいろんなことをやっているわけですが、中でも、私たちは農業サイドの人間なので、農業が医療、福祉、観光、教育などのあらゆる分野とコラボできる運営をしていきたい。1つの狭い分野だけで頑なにやっていても住みにくいところが出てきますが、いろんな分野がまとまって共有することで結びつきができて、最後には自然との共生も可能な、みんなが住みたいと思う町づくりが実現できると思うんです。

佐々木 本当にその通りですよね。この地域に住んでいる人々がいろんな分野を共有しないと心のレベルが下がったままになってしまう。それを上げてみんなで本当に豊かな環境をつくればいい。社長とはいつも酒を酌み交わしながら目標に向かって頑張ろうと励まし合っています(笑)。

安部 これからの地域は独立独歩で努力して頑張らないといけない。そのためには子どもと老人を守ることをしっかりやらなければならない。逆にこれさえできれば絶対に間違いない。そのための第1ステップが2014年につくったデイサービス「和花」なんです。

アグリードなるせが運営するデイサービス「和花」

アグリードなるせが運営するデイサービス「和花」

佐々木 あとはこれから仮設住宅に住んでいる方々が移転してくるので、地域のみんなが集える場所が必要だとも思っています。だから今、社長に提案しているのはこの地域に住んでいる人たちの買い物する環境を変えたいということ。この地域で作ってる自家野菜の足りない部分を買ったり、余剰野菜を販売したりできる市場、マルシェみたいなものを定期的に開きたい。それができればより豊かな町になるんじゃないかと。

 僕らも早くこの地域に牧場を作って、子どもやお年寄りが動物と遊べたり、自然との共生を学べたり、リラックスできる空間を提供したいですね。そのためにいろんな分野の方々とつながり合って、これまでにない新しいものを生み出し、みなさんに元気になっていただきたいですね。そのために生きていきたいと思っています。

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由紀子 前にもこの地域につくる牧場は単なる牧場ではなく、その中に起業家育成の学校も作りたいと話しましたが、その授業料を払うのが難しい研修生には、例えば困ってるお年寄りの家に行って農作業や薪割りや草刈りなどを手伝ったら作業に応じてポイントがもらえて、それを授業料に当てることができるというシステムにしようと思って市に提案しています。こうすれば血縁はないけれどみんなが支えあう温かい地域ができるんじゃないかなと思うんです。

安部 それができれば温かい町になりそうですね。話を聞いてるだけで熱くなってきたね(笑)。ぜひ一緒に実現させましょう。

子どもも老人も幸せな暮らしに!

子どもも老人も幸せな暮らしに!


インタビュー前編はこちら

安部俊郎(あべ としろう)

安部俊郎(あべ としろう)
1957年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ代表取締役社長/のびる多面的機能自治会副会長

宮城県立農業講習所卒業後、いしのまき農協(旧野蒜農協)営農指導員として入組。1992年退職し、地域農業発展を目指し、施設園芸を中心とした専業農家となる。2006年、農地を守り、地域と共に発展する経営体を目指して「有限会社アグリードなるせ」を設立。代表取締役社長に就任。東日本大震災時には自社も壊滅的な被害を受けるも、消防団の副分団長として現場で避難指示、人命救助、行方不明者の捜索、避難所への誘導などの指揮を執る。震災の翌月から津波を被った田んぼの復旧を開始。除塩に成功し、その年の秋には米の収穫も果たすという驚異的な復旧を成し遂げる。現在、東松島市野蒜地区で、土地利用型部門に園芸部門、さらに6次産業化施設を加え、次世代の人材育成や雇用促進など地域農村コミュニティの発展に尽力している。

佐々木和彦(ささき かづひこ)

佐々木和彦(ささき かづひこ)
1959年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ常務取締役/のびる多面的機能自治会執行役員

宮城県立農業講習所卒業後、鳴瀬町役場(2005年から市町村合併により東松島市役所に)に勤務。田畑の塩害対策などに従事。2010年有限会社アグリードなるせ入社。東日本大震災時には安部社長とともに人命救助、行方不明者の捜索、田畑の復旧作業などに従事。現在も安部社長のパートナーとして地域振興に尽力している。


八丸健(はちまる けん)

八丸健(はちまる けん)
1970年鹿児島県生まれ。一般社団法人美馬森Japan監事/80エンタープライズ,Inc.代表取締役社長

地元鹿児島の高校を卒業後、東北大学に進学。入部した乗馬部で馬の魅力にはまり、将来は馬を扱う仕事をしたいとオーストラリア人のホースマンに弟子入り。大学を中退して一関市で競走馬の調教を学ぶ。師匠の乗馬クラブ立ち上げにともない、八幡平市へ移住。

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)
青森県出身。一般社団法人美馬森Japan代表理事/80エンタープライズ,Inc.専務取締役

東京での会社勤務を経て、岩手県内のリゾート総合会社へ転勤。交換研修生としてカナダ・ウィスラーのホテルに4ヶ月出向するも、帰国後1年で勤務先の乗馬クラブが突然廃止となる。その後、大手観光農場を経て、乗用馬トレーニングセンターに勤務。

2000年、同じ勤務先で出会った2人は結婚。2003年、馬を活かし、馬に活かされる社会の創造を目指し、80エンタープライズ,Inc.を設立。2004年、八丸牧場を自分たちの手でいちから開墾、オープンにこぎつけた。2011年、東日本大震災発生の翌月、任意団体「馬(ま)っすぐに 岩馬手(がんばって) 必ず 馬(うま)くいくから」を設立。震災直後から、さまざまな子ども支援活動を継続的に行うとともに、馬たちの力を借りて観光体験、地域活性、子どものライフスキル向上などに取り組む。2013年、当団体を法人化し、一般社団法人「美馬森Japan」設立。震災で甚大な被害を受けた東松島市の新たな町づくりの構想に共感し、アグリゲートなるせとともに野蒜地区でのさまざまな復興支援活動に取り組んでいる。

初出日:2016.03.22 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの