留職とは
──クロスフィールズのメイン事業である「留職」とはどのようなプログラムなのですか?
企業で働いている人が新興国のNGOやNPOなどへ赴任し、数ヶ月間にわたって、本業で培ったスキルを活かして現地の人々とともに社会課題の解決に挑むというプログラムです。海外に留まって学ぶ「留学」になぞって、海外に留まって職務を遂行するという意味で「留職」と名づけました。我々クロスフィールズは赴任先の国の団体と社員を送り出す企業とをつなげる架け橋としての役割を担っています。
2012年2月、パナソニックさんに最初に導入していただき、現在(2015年5月)までにアジアの途上国8カ国の団体に、20社以上、約70人の方々の留職を実現してきました。
──留職を導入している企業で特に多い業界・業種は?
留職第1号がパナソニックさんだったので最初の頃は電機メーカーが続きましたが、現在ではシステム会社や自動車メーカー、食品メーカー、医療機器メーカーなどのメーカーや、大手広告会社、人材会社、教育産業など業界・業種の裾野が広がっています。
──参加者の年代は?
20代から50代まで幅広い年代の方が参加していますが、最も多いのは30代で、全体の約6割を占めています。留職は現地に貢献することが最低条件なので、何かしら「これができる」という経験と自信のあるスキルをもっていることが求められることもあり、あまりに経験の少ない若手の方が参加するということは推奨していません。
また、単にスキルをもっていればいいというものではなく、現地では困難なことが待ち受けているケースが多いので、往々にしてその自信が打ち砕かれます。ただ、その経験こそがリーダーシップを育む上では不可欠だと考えています。そういう意味でも、新人クラスではまだ打ち砕かれるだけの自信をもっていないので難しいのです。
自信が打ち砕かれることが重要
──自信が打ち砕かれることが大事なのですか?
多くの大企業では社内で評価されているのは、新しいことにどんどん挑戦していくタイプではなく、上から指示されたことをちゃんとこなして失敗しないというタイプなんですね。つまり、できそうなことと難しそうなことがあれば、極力自分にできそうな仕事ばかりを選んできたから成功してきたというタイプが多いんです。しかし、留職で現地に行くと沢山のできないことにぶつかります。そういう不確実性の高い状況の中でも問題解決に挑戦してもがき、最後まであきらめずに結果を出すというプロセスの中で人として大きく成長できます。それがこの留職プログラムの神髄なのです。
──確かに途上国は日本とは環境が全然違うので、日本ではやれることも現地ではやれないという状況も多いでしょうね。そういう状況の中で挑戦することでより成長できるということなのでしょうか。
僕らは「枠を超える」という言葉が好きでよく使っていて、そうした経験こそ、人が劇的に成長する鍵だと思っているんですね。でも日本の企業で働く人たちは会社の枠、既存事業の枠を超えて挑戦することは大変そうだし失敗するリスクも大きいから、今ある仕組みや製品を改良はするけど大きくは変えたくないという人が多い。特に大企業の場合は減点主義で失敗したら降格されたり出世の道が閉ざされてしまうから枠を超えることを恐いと思っている人がけっこう多いんじゃないかと感じていて。
だからそういう枠が一切ない海外へ行って、挑戦する楽しさ、枠を超えることで成長する喜びを感じて日本に帰ってきてほしい。そして企業内の枠、自分自身の枠の存在に気づいてその枠を壊す存在になってほしいという気持ちでこの留職プログラムに取り組んでいるんです。
小沼大地(こぬま だいち)
1982年神奈川県生まれ。NPO法人クロスフィールズ代表理事
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。大学卒業後、青年海外協力隊として中東シリアに2年間赴任し、現地NPOとともにマイクロファイナンスや環境教育のプロジェクトに携わる。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。同時並行で若手社会人の勉強会「コンパスポイント」を立ち上げ、講演会の企画やNPOの支援活動などを行う。2011年3月退社、松島由佳と共同でNPO法人クロスフィールズを創業。2011年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に選出。2015年からは国際協力NGOセンター(JANIC)の理事も務める。1児の父親として家事・育児にも積極的に参加するイクメンでもある。
初出日:2015.08.03 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの