タイガーマスク基金
──安藤さんが代表を務めているNPO法人「タイガーマスク基金」はどのような団体なのですか?
タイガーマスク基金のミッションは児童養護施設の子どもたちへの支援と子どもへの虐待やDVを減らし子どもを守ることです。それを実現するために社会への啓蒙活動、企業とのタイアップ、関連する法律・政策を改善するための働きかけなど、さまざまな活動に取り組んでいます。代表としていろいろなプロジェクトを企画立案して、推進していくのが僕の役割です。
活動の根っこにあるのは、「施設の子どもたちがかわいそうだからお金をあげる」ではなく、彼らに人生の楽しさや仲間や家族を持つことの意義などを伝えていきたいという、父親のようなマインドがあります。そういう意味ではファザーリング・ジャパン(FJ)とは根本的な部分ではつながっているんです。
──タイガーマスク基金の立ち上げの経緯を教えてください。
FJやパパ's絵本プロジェクトで絵本の読み聞かせライブを行う過程で、児童養護施設にも呼ばれるようになりました。そもそも僕らFJの活動の根底には、子どもを笑顔にしたいという思いがあるので、僕も含めメンバーたちは児童養護施設での活動の中で「自分の子どもだけが幸せな社会など存在しえない」ことに気づき、大人はすべての子どもたちに信頼される存在でなければならないという思いが強くなっていきました。
そんなとき、児童養護施設にランドセルを送る人が続々と現れたというニュースがテレビや新聞で大きく報じられました。いわゆる「タイガーマスク現象」です。その報道を知った漫画『タイガーマスク』の原作者の故・梶原一騎先生の奥様である高森篤子さんが「これはきっと夫の遺志だから、私も何かできることをしたい」と『タイガーマスク』の出版元である講談社に相談したところ、たまたま講談社にFJの会員がいて、FJの活動や僕のことを高森さんに紹介してくれました。すると高森さんが僕に会いたいと言ってくださったのでその日にタイガーマスク基金の事業計画書を持って梶原邸へ。構想を話したところ「ぜひ一緒にやりましょう」と言っていただき、その場で多額の寄付を約束してくださいました。講談社も僕らの理念に賛同してくれて「タイガーマスク」という作品名を活動のために使うことを快諾してくれました。
僕自身もFJの活動を通じて子どもたちの総合的な支援が必要だと感じており、さらに寅年生まれなのでこれは運命だと。それで2011年3月1日に、発起人に高森さん、代表に僕が就任して「タイガーマスク基金」を立ち上げたのです。発足の記者会見をしたところ1週間で500万円ほど寄付金が集まりました。幸先の良いスタートで、これで施設の子どもたちをたくさん支援できるぞと思っていたら、10日後の3月11日に東日本大震災が起こってしまい、個人からの寄付がピタッと止まりました。僕もFJメンバーたちとすぐに被災地に行って支援活動を行ったのですが、タイガーマスク基金の方も気になって仕方がなかった。せっかく立ち上げたのにこのままではまずいと思い、震災支援がひと段落ついてから、企業などを回って協力をお願いしました。
子どもたちをさまざまな形で支援
──具体的にはどのような活動をしているのですか?
企業とのタイアップでは、コンビニチェーンのセーブオンの協力を得て、タイガーマスクタイアップ商品が1個売れるごとに2円寄付していただくCRMキャンペーンを実施。また、ベビー・キッズ用品などを扱うパパジーノ株式会社にマスク1袋(3枚入り)が売れるごとに10円寄付していただいたり、サントリーコーポレートビジネス株式会社に自動販売機の売り上げから一定額を寄付していただいたり、いろいろな企業や人々の協力のおかげで、1年弱で860万円あまりの寄付金が集まりました。その寄付金で基金設立初年度に児童養護施設を出所する22名の子どもたちに大学の入学金を援助することができました。
また、児童養護施設の職員の方から「中学生以下の子どもたちの多くは携帯電話をもっていないので親や友達など外部の人との連絡は施設内の公衆電話に頼らざるをえず、毎日夕食後には電話の前に行列ができている」という話を聞きました。使っていないテレホンカードを集めて施設へ送る「テレカプロジェクト」を立ち上げて呼びかけたところ、全国から8万枚のテレカが集まり、約170カ所の児童養護施設へ送ることができたんです。
──すごい数ですね。やはり施設の子どもたちを支援したいという人はたくさんいるんですね。
中には現金を送ってくださるお年寄りもいました。30代、40代の子育て世代の人たちも経済的に余裕はない中で「力になりたい」という思いはもっています。ある地方在住の父親からは「テレカプロジェクトの話をしたら、大掃除するときに子どもたちも協力してくれてテレカが20枚集まったので送ります」という手紙が送られてきました。こういう手紙を読むとうれしくなるとともに、手紙にあるようなコミュニケーションが起こることはテレカというもの以上の価値があると思えるんです。
社会には児童虐待、育児放棄のような問題があって、実の親と暮らせずに施設に保護されている子どもたちがたくさんいます。この状況を広く社会に訴え、支援を啓発することもタイガーマスク基金の重要なミッションです。そういう意味では、お父さんがなぜテレカが必要なのかを子どもたちに説明してくれることがうれしいのです。
また、もうひとつのメリットとして、親から見放された子どもたちの多くは大人不信になっていますが、そうやって集められたテレカを渡すことで、「世の中にはこういう信頼できる大人たちもいっぱいいるんだよ」と伝えることができますからね。
こういう大人をもっと増やすために、会員や資金を集める方法を常に模索しています。施設の子どもたちのために何かしたいという人にはぜひ協力していただきたいですね。
安藤哲也(あんどう てつや)
1962年東京都生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパンファウンダー、副代表/NPO法人タイガーマスク基金代表ほか。
大学卒業以来、出版社の書店営業、雑誌の販売・宣伝、往来堂書店のプロデュース、オンライン書店bk1の店長、糸井重里事務所、NTTドコモの電子書籍事業のディレクター、楽天ブックスの店長など、9回の転職を経験。2006年11月、会社員として仕事をする傍ら、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を5年間務める。2012年7月、社会的養護の拡充と児童虐待の根絶をめざす、NPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。地域活動では、娘と息子の通った保育園、学童保育クラブの父母会長、公立小学校のPTA会長を務めた。2003年より、「パパ's絵本プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、全国の図書館・保育園・自治体等にて「パパの出張 絵本おはなし会」を開催中。タイガーマスク基金のハウスバンド「タイガーBAND」ではギター担当。社会起業大学講師、にっぽん子育て応援団共同代表、(株)絵本ナビ顧問、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、東京都・子育て応援とうきょう会議実行委員なども務めている。 『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由~親を乗り越え、子どもと成長する子育て』『パパ1年生』『家族の笑顔を守ろう!~パパの危機管理ハンドブック』など著書多数。
初出日:2014.01.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの