仕事は具材のひとつにしかすぎない
──では安藤さんにとって仕事とは?
仕事は楽しいですが「仕事だけの人生」ではさびしいと思う。仕事は「人生という寄せ鍋」の中のひとつの具材に過ぎません。子どもが小さいうちは育児や地域という具材の方が大きいですが、子どもが成長したら育児にはそれほど手間や時間もかからなくなるので仕事という具材を大きくしていけばいい。こんな感じでその時どきでいろいろな具材の大きさを変えればいいと思っています。
──では何のために働くかと問われれば?
仕事は食い扶持ではありますが、やっぱり自分が自分であるために働いているのでしょうね。仕事と労働は違いますよね。「労働」はお金を得るために指示されたことだけをやる作業。いわゆる「ライスワーク」です。一方、僕にとって「仕事」は志を持って世の中に新しい価値を生むことであり、困っている人を支援する仕組みを作ることだと思っています。僕の場合はこのような「志事」「ライフワーク」に取り組むことで、自分が自分であると感じられるんです。だから40歳過ぎてこれまでお話してきたような活動をしているわけです。
会社と社員は対等、という考え方
──なるほど。仕事論もロックですね。今後の人々の働き方はどうなっていけばいいと思いますか?
多くの人は「会社に雇用されて給料をもらっている」という意識だと思いますが、そうではなくて「自分の能力や時間を企業に一時的に貸してその対価として報酬を得ているのだ」、という気持ちで仕事をすればいいんじゃないかなと思います。そうすればより主体的に仕事に取り組めるし、成果も出ると思うので。
働き方のシステムとしては、例えばオランダのワークシェアリングのように、今は子育てのためにお金よりも時間がほしいという人はフレキシブルに週2回、あるいは時短勤務にして、その人が働けない分をほかの人とシェアリングする。そして育児が一段落したらまたフルタイム組に戻ってバリバリ働く、それが子育て中や介護で時短している人とのシェアリングになる。そういう相乗効果のある仕組みが一般化すれば育児や介護で離職する人も減り、みんながハッピーになれるんじゃないかと思います。
いま政府や企業で盛んに言われる「女性活用」にしても、仕事と育児の両立策だけではなく今後は介護の問題、それにともなうベテラン社員の離職問題も出てくるはずです。だから企業は多様性を考慮した働き方やルール・組織の改革を進めないといけません。
働きやすさの環境や待遇も大事ですが、しかしそれ以前に「働きたい」というモチベーションってそもそも「自分がやっている仕事がおもしろいかどうか」に一番関わっているものです。だから女性社員を活躍させたい、貢献してほしいと願うならば、企業は子育て支援だけじゃなくて、入社した段階から本人がおもしろみを感じる仕事に就かせておけばいいと思うんですよね。つまり、代わりがきくような単純作業しかしていない人の多くは、子どもが生まれると「会社の仕事より子育ての方が私にとっては重要な仕事だ」と思って離職してしまうのだと思う。逆に仕事にやりがいや使命感をもっている女性の多くは、出産してからも特別な事情がない限りは育休取得後に職場復帰しています。僕の妻も「子どもも好きだけど、仕事もしていたい」という考え方でした。あ、男の僕ももちろんそう思ってますよ。
まずは人生における価値順位を決める
──確かに仕事に使命感やおもしろみを感じていればまた仕事に復帰したいと思いますよね。働き方に関して疑問や不満をもっている人に伝えたいことがあればお願いします。
働き方の問題は「会社への不満」にすり替えられることが多いと感じています。どういう条件ならこの会社で働けるかではなく、大事なのは「自分がどういう生き方をしたいのか」、「自分の人生において何が一番大事なのか」ということを常に意識すること。そこが定まっていれば、時間の使い方も自ず考えるようになるので、自分なりの働き方や仕事観・人生観も見えてくるでしょう。そういう男性は子どもが生まれたら育休を取るし、仕事でも結果を出すのだと思います。
やりたいことが盛りだくさん
──「いったい自分はどんな人生を送りたいのか」という基本的なことが定まっていない人の多くが仕事や人生に悩みを抱えているのだと感じます。最後に安藤さんご自身の今後の個人的な夢を教えてください。
特にこれという夢はありません。「夢」って言った時点で叶わなそうな気がするので夢はみないことにしています。夢じゃなくて「ビジョン」や「具体的なプラン」はたくさんありますけどね。
例えばラジオのDJ。昔からのあこがれの仕事で、現在、プライベートで「トークライブ revolutions」というイベントをラジオ番組風に毎月開催しています。また、コミュニティカフェのマスターもやりたいですね。店は学校の前に開いて、昼間は喫茶店です。近所の子どもたちが親から「あの喫茶店にいくと不良になるから行くな」と言われるような店がいい。夜になるとロックバーになって悩めるお父さん、お母さん、教師たちが店に集まってきて酒を酌み交わしつつ彼らの相談に乗るんです。一緒にバンド演奏もできるといいね。あと、図書館の館長もやってみたいですね。本のレファレンスだけでなく、自分で絵本の読み聞かせしたり視聴覚室でコンサートやっちゃう館長。あこがれるなあ。この3つを同時にやらせてくれる県や市があればどこでも喜んで移住しますよ(笑)。
安藤哲也(あんどう てつや)
1962年東京都生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパンファウンダー、副代表/NPO法人タイガーマスク基金代表ほか。
大学卒業以来、出版社の書店営業、雑誌の販売・宣伝、往来堂書店のプロデュース、オンライン書店bk1の店長、糸井重里事務所、NTTドコモの電子書籍事業のディレクター、楽天ブックスの店長など、9回の転職を経験。2006年11月、会社員として仕事をする傍ら、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を5年間務める。2012年7月、社会的養護の拡充と児童虐待の根絶をめざす、NPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。地域活動では、娘と息子の通った保育園、学童保育クラブの父母会長、公立小学校のPTA会長を務めた。2003年より、「パパ's絵本プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、全国の図書館・保育園・自治体等にて「パパの出張 絵本おはなし会」を開催中。タイガーマスク基金のハウスバンド「タイガーBAND」ではギター担当。社会起業大学講師、にっぽん子育て応援団共同代表、(株)絵本ナビ顧問、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、東京都・子育て応援とうきょう会議実行委員なども務めている。 『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由~親を乗り越え、子どもと成長する子育て』『パパ1年生』『家族の笑顔を守ろう!~パパの危機管理ハンドブック』など著書多数。
初出日:2014.01.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの