馬搬の魅力
──馬搬の魅力やおもしろさはどんなところにありますか?
まず馬とコミュニケーションを取れることが大きな魅力です。相手も生き物なので、すごくこちらに気を遣ってくれていることがわかるんですよね。そして馬は何本もの大きな丸太を運ぶという僕ら人間には不可能なことをやってくれます。馬を使う仕事というよりも生き物とコミュニケーションを取る仕事といった方がしっくりきます。そういう仕事ってなかなかないですよね。また、「馬車馬のように働く」とか「馬力」とか、昔からある馬に関する言葉をリアルに感じられるのもおもしろいです。
それから、今の時代、山を傷めず合理的に木を運べる馬搬ができる人はあまりいないので、数少ない馬方として自分の仕事に誇りももてます。
初めてお金をもらった仕事
──印象的な仕事は?
近所にこれまで日本の有名なお寺を造ってきた「社寺工舎」という会社があるのですが、その会社がお寺を造るときにその檀家さんに山から木を伐り出してほしいと頼まれたことがありました。それが馬搬としての初めての仕事で、いくらでできるかと聞かれたのですが知識もあまりなかったので適当な額を答えました。今から考えると相場よりも断然安い料金でしたが、その時は知らなかったので作業が終わってみると結構いいお金になると感じました。重機を使うとなると重機を現場まで運ぶだけでかなりのお金が必要になりますが馬ならそれほどかからないので、安くていい仕事をしてもらったと依頼者の檀家さんも喜んでいました。
──馬搬だけで生活できるものなのですか?
今は伐採を待っている山がかなりあるので、仕事はたくさんあるし、1日約3万円の収入になります。実際に最近まで馬搬専業で生計を立てている人もいました。でも僕を含め農業と兼業の人が多いですね。夏場は暑くてブヨも多いので早朝の数時間だけ馬搬をして後は主に農業をします。逆に冬場は積雪により農業ができないので山に行って木を伐り出すわけです。山に雪が積もると凸凹がなくなり、摩擦も減るので山の斜面での作業がやりやすくなるんです。そもそも林業は元々冬に行う仕事ですからね。だから馬搬のシーズンも9月から6月までなんです。
岩間敬(いわま たかし)
1978年岩手県生まれ。馬搬馬方/遠野馬搬振興会事務局長。
高校卒業後、建築家を目指し東京の建築関係の専門学校に入学。卒業後、東京の乗馬クラブに勤務。その後遠野に戻り、乗用馬の繁殖・調教を行う会社に勤めつつ、農林業に携わる。20歳頃から馬搬に興味をもち、2人のベテラン馬方に師事、技術を習得した。2010年、「遠野馬搬振興会」を設立。現在は農林業に従事しながら、馬搬文化と技術の継承、宣伝、普及などを目的として活動している。2011年にイギリスで開催された「馬搬技術コンテスト・シングル部門」で優勝。2012年にはこれまでの活動が認められ、岩手競馬、馬事文化賞受賞。同年、欧州馬搬選手権シングル部門で7位に入賞。
初出日:2013.11.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの