漁師のやりがい
──つらいことや大変なこと、恐い思いをすることが多い割に収入が少ないのに、それでも漁師を続けるのはなぜですか?
とにかく一日中太陽の下で働けるのが私にとってはすごく幸せなことなんです。例えば8月だけは朝4時半までに仕掛けた網を上げなければいけないという規則があるので、朝まだ暗いうちに船を出すのですが、その時に後ろの山からセミの大合唱が聞こえてきたり、息を呑むほど美しい朝焼けや夕焼けが見られたりと、日々自然の中で働けるという点が一番大きな喜びですね。自然を相手に仕事をしているとくだらない人間関係に煩わされることもないですしね。大好きな海で仕事ができて幸せだなと日々、すごく感じています。
あとは、自分が獲った魚がお得意様の飲食店のシェフやお客さんからおいしかったと言われた時もすごくうれしいですね。いつも直接獲った魚をもっていっているので、調理する人とそれを食べる人、そして獲る私と直接顔が見られる距離で繋がれるというのはお互い安心だし、感想を直接もらえるのでありがたいですね。
漁師の仕事自体という意味では、漁はギャンブル的な要素が多いんですね。刺し網を仕掛ける時も、その時の海の状況から魚が獲れそうな場所を予想して仕掛けるわけですが、その予想がピタリと当った時はやった! という感じですごくうれしいんです。
──やはりそういったセンスって大事なんでしょうね。
すごく大事ですね。例えば今は潮がこっちからこう流れているから、魚はこの辺りに隠れているはずだと想像します。イセエビがいる狭い漁場に網をかける時も、風向きや風速、潮流の方向や早さ、船の向きなどを考慮します。ただ網をかければかかるというものではないんですよね。場所がちょっとでも違ったら全然かからなかったりするんですよ。最初の頃は全然わからなかったので、他の漁師が仕掛けるポイントを観察したり、山を目印にして場所を覚えたり、いろんなところに仕掛けてみたりと試行錯誤を繰り返して、段々わかってきました。
──他の漁師さんに聞いたりは?
漁師に今日はたくさん獲れましたか? と聞いても正直に答えてくれる人ばかりじゃないんですよね。漁師は仲間でもありライバルでもあるので。
ですので他の漁師が獲れなくて自分だけがたくさん獲れた時は喜びもひとしおです(笑)。逆に獲れなければ悔しいんですけど、それも含めて、全部自分の裁量、力量、経験、技術で結果が決まるという点がいいですよね。だから毎日楽しいです(笑)。こんな感じでいろいろとつらいことや恐いこと、大変なことは多いですが、それを上回る喜びやおもしろいと感じる部分が多いので、まだ辞めたいと思ったことはないですね。
──ほとんどの漁師さんは高齢で男性だと思うのですが、関係は良好ですか?
いろんな人がいますが、多くの皆さんは私が見習い漁師になった頃から気にかけてくれたり、よくしてくれています。特に朝市を一緒にやってるメンバーとは仲良しです。
畠山 晶(はたけやま あきら)
1985年神奈川県出身。漁師(葉山町漁業協同組合正組合員)
神奈川県立三崎水産高等学校(現・神奈川県立海洋科学高等学校)を卒業後、ダイビングショップのスタッフ、母校の教員、結婚式の司会業などを経て2011年、葉山のベテラン漁師・矢嶋四郎氏に弟子入りし見習い漁師に。2013年、 葉山町漁業協同組合の準会員、2015年、葉山町漁業協同組合の正会員として認められ、葉山漁協で初にして唯一の女性漁師に。年間を通して海に出て、刺し網漁、ワカメ漁、潜り漁などを行っている。2013年12月から漁師仲間に呼びかけて、自分たちで獲った魚介類を販売する朝市を真名瀬港で開始。好評を博している。
初出日:2017.01.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの