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2015.06.15  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

小笠原 宏子さんの話を聞いて、それぞれの領域が現代アートだからとか保育だからとかどうでもいいというか、入り口が私は保育、宏子さんはアートだったというだけで、たぶんやりたいことや目指している社会は似てるんだなというのはいつも感じてる。宏子さんのWAVEのインタビュー記事を読んで、宏子さんがやってきたアートを使った街づくり、台湾のトレジャーヒルプロジェクトとか私もやりたいなと思ったし、子どもたちと一緒にやったら楽しいだろうなと思ったことがたくさんあったから、やっぱり宏子さんとは近いんだなということを改めて感じたんだよね。例えば今度は「子どもたちと地域を知るという」というイベントを一緒にやるとしたら、タイトルの頭に「保育士と一緒に」という言葉がついただけで参加者の枠って広がっていく。保育士がいるのなら3歳の幼児でも連れていけそうと年齢の幅が広がっていくので、うまくお互いの強みを使って、もっと地球そのものが実験室みたいな感じになっていったら一番おもしろいだろうなって思う。日本とアメリカとで同じ場所にトイレットペーパーを置いたら子どもの反応は違うのかというような実験をいろいろしたい(笑)。毎回趣向を変えて企画するのもおもしろいかなと。

菊池 そう、実験したい(笑)。社会実験的なことは楽しいよね。いわゆるあまりアートっぽくない形、想像力の賜物みたいなアートが日常の中にあふれてほしいし。世の中からアートとか、文学とか藝とか文化とかの会話がなくなるって寂しくないですか? 今でも社会の中でアートはごく一部の限られた人が楽しむ特殊なもの、人が生きていく上で必要ではない飾りという扱いかもしれない。でも、私はアートに救われたし、アートは生きていく上で必要不可欠で、実際に日々の生活をより豊かにしてくれる。そして、もっといえば、世の中を変えるなんらかの機動力にもなると信じているので。アートというものを、この先の未来にずっと残していくためにどうすればいいかって考えて、そうしてたらコミュニティに関与する仕事に導かれた。エゴかもしれないけど、アートという言葉をこの世からなくしたくないというのはあるんですよ。うんちくはこれくらいで(笑)。まずはアートに触れて感覚をわかってもらった上で、実はこれもアートなんだよと伝えたい。先日もasobi基地で子どもがひたすらストローを切って遊んでるのを見て、これこれ! これが意味のないアート作品だよね! って2人で言い合ったよね(笑)。

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子どもたちが自分の好きな素材を使って自由に表現できるasobi基地

小笠原 asobi基地では子どもがずっと顔にシールを貼ったり、ひたすらストローを切ったり、新聞を破っているんですが、これらは大人にとっては無意味な行動だけど、子どもたちはすごく楽しそうに笑顔でやっているんですよね。そういう彼らの姿から人ってこんなに幸せに生きられるんだなということを教えてもらって、すごく楽に生きられるようになった。子どもという人に出会って新しい気づきをもらったり、今までの概念をいい意味で崩してもらった。私の場合は人生での大切なことを気付かせてくれたのがたまたま出会った子どもたちだったので、子どもたちに恩返しするために彼らの自由な発想を守ってあげて、いい社会をつくりたいと思っているんですね。そのためにいろんなプロジェクトやっているわけです。それと同じで宏子さんはアートという言葉をなくしたくないというのはアートに恩返しをしたいみたいな思いもあるんじゃないかな。

菊池 うん。同じだね。

小笠原 こういう話をするとあなたのミッションは壮大だねとか言われるんだけど、自分では壮大だなんて思っていなくて、それをしないと自分が大事に守りたいものが守れないから、社会に対していろいろ働きかけているという感じ。あとは、今宏子さんがアーティストやクリエイターたちと立ち上げようとしているNPOとコラボして、幼児期の子どもたちと大人が一緒にアートを学べるきっかけをつくっていきたい。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの