夫婦で一緒に働くことのデメリット
──では夫婦で同じ仕事をすることのデメリットは?
茂 私の場合は1人の時間が絶対に必要なんです。1週間のうち1日でも半日でも、自分1人だけで考える時間がほしいんです。会社員のときは通勤があるので1人の時間がある程度作れるのですが、今は仕事場も住居も同じなので、常に妻と一緒です。ですから自分の時間を意図的に作る必要があるということがデメリットですね。
亜基 私の方はずっと夫と一緒でも全然いいんですよ。いくら一緒にいても煩わしいとか1人になりたいとか全然思いません。だから私が煩わしいと思われないように夫に1人の時間を過ごしてもらうように気をつけています。そうしないと本当に気づかないので(笑)
ワークライフバランスについて
──ご夫婦で同じ仕事をしているお二人には愚問かもしれませんが、ワークライフバランスについてはどのようになっていますか?
亜基 それはすごくいい質問ですね。ワークライフバランスについて語るとき、「仕事をしている時間が長いことがいけないのか」という議論になりがちですが、私はそこに他人からの強制ではなく、自分の意志とコントロールがちゃんと及んでいて、睡眠とバランスのいい食事をきちんととっていれば、特に問題だと思っていません。
私たちは、仕事に費やしている時間は一般的な人に比べて長いかもしれませんが、しっかり寝ていますし、バランスのいい食事を3食とっているので体調を崩すこともなく心身ともに健康的な生活を送っています。このように基本的な人間としての健康的な生活が成立していれば、ワークライフバランスは取れていると言えると思います。
茂 私自身、今は、経営者なので、ワークをいくつ、ライフをいくつにしてバランスを取るという感覚は、あまり持たないようにしています。ワーク=ライフですから。平日でも土日でも重要なことがあればやります。ただ、健康や仕事の効率の観点からも、やみくもに長時間働くことが良くないことは明らかですから、積極的に運動したり、タイマッサージに行ったり、美味しいものを食べたりしています。また、経営者と従業員の視点は違うと思いますし、ワークライフバランスのコンセプト自体はとても重要なので、Marimo5の従業員は、基本的に完全週休2日制で残業は一切なしとしています。
アジア特有の職場健康づくりを
──今後の活動予定や目標を教えてください。
茂 私たちの目標は「職場健康づくり」を浸透させて、企業が「経営者や従業員の健康増進」に投資を行い、働く人々が職場を通して健康になる、という社会を実現することです。そのためにまずはタイにおいてHappy Workplace Programを少しでも多くの経営層に認知してもらい、導入してもらうべく活動を進めていきます。2015年からの3~5年は、アジアの文脈を踏まえたリージョナルフレームワークづくりに専念したいと考えています。どういうことかというと、現在、職場健康づくりの指針は、その多くが欧米から入ってきています。例えば、国連の世界保健機関(WHO)が提唱している「Healthy Workplace Model」も素晴らしいコンセプトではありますが、アジアの文化や価値観を踏まえると、改良の余地はあると思います。
今後の目標
茂 まず、2016年2月にバンコクで開催予定の「Happy Workplace International Conference」の準備を進めて行きます。タイと日本を中心に他のアジア、欧米、アフリカなどの国々からの経営者や専門家たちが参加するこの国際会議では、タイ政府が推進するHappy Workplace Programをアジアのモデルとして発表する予定です。また、他の国で展開されている職場健康づくり取り組みや課題などに関して議論を行い、アジアにおける職場健康づくりとはどうあるべきかという意見を集約。それを、パブリックコメントとして、各国保健省、国際機関、経済団体などに提言しようと考えています。
次に、職場健康づくりの専門家を育成する職業訓練学校をタイに設立したいと思っています。日本と比較してまだまだ職場における健康管理に携わることができる人材は限られていると感じているので、私たちが考える、職場健康づくりの専門家を自ら養成したいと考えています。
最後は、現在従業員と健康をつなぐ拠点である「職場におけるヘルスステーション」を設置していく取り組みをしていますが、この数を増やすとともに内容を充実させて職場における健康情報発信基地になるようにデザインしていきたいと考えています。ヘルシーなドリンクや食品を販売するほか、従業員が体組成計や血圧計などを無料で自由に使えたり、健康や食育につながる情報が得られたりする、従業員の健康意識が高まるような拠点を通じて従業員の方々の健康意識が高まることを願っています。
──日本で活動する予定は?
茂 あります。今年は、まず、5月14日に大阪(グランフロント大阪)で開催される第88回日本産業衛生学会にてランチョンセミナーを主催します。ここでは「職場健康づくりを通したQuality of Working Lifeの向上」というテーマで、私が講演をします。また、今年10月には、NPO法人Asian Healthy Workplace Institute(仮称)を日本にて設立予定です。これは、今後益々タイと日本を中心としたアジアにおいて事業展開を行う企業が増えることを鑑み、各国単体ではなく、「アジア」というリージョナルな視点での職場健康づくりフレームワーク開発やルールメイキングなどを行うためです。今後は、日本本社の従業員だけではなく、アジアを中心とした海外拠点の従業員も含めた職場健康づくりを会社が推進していくための環境づくりが必要になってくるのではないかと考えています。この取り組みを推進していくには、賛同していただける企業や個人の方の協力が必要です。ご興味がある方は、是非、ご連絡をいただけますと幸いです。
大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表
株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。
大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー
大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。
※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定
初出日:2015.04.21 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの