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2015.04.21  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

国民性を理解していちいち落ち込まない

──亜基さんの方はつらいことは?

タイの企業で働く従業員に食と健康についてレクチャーする亜基さん

亜基 起きることが想定外のことだらけということでしょうか。例えば先ほどお話したある企業の社員食堂改革のときも、先方の担当者と事前に綿密に打ち合わせしてサラダバーを設置する場所に必要な道具などを準備しておくようにお願いしていても、当日何の準備もされていないばかりか、私の入館手続きがされていなくて当日会社内にスムーズに入れませんでした。タイではこういうことは日常的に起こるんです。でも笑顔で謝られるとついつい「大丈夫よー」といって、そこから準備を始めてしまう私もいます。


──タイ人の気質もあるのでしょうか。

 あると思いますね。ただこればかりは本当に人によるところで、優秀な方はとても優秀ですし、日本人でも同じですよね。でもタイにおいては、基本的に物事が想定通りいかない可能性が高い、ということは常に意識しておかないといけないなぁと感じています。

亜基 問題が起きたらそこで立ち止まって悩まず、すぐにどうすべきかと解決する方向にシフトします。例えば先ほどのケースでは、テーブルがないという事実が判明したとき、担当者になぜないのかという理由は問い詰めず、できるだけ早くテーブルを用意してくださいと粛々と落ち着いたトーンで伝えます。

夫婦で一緒に働くということ

──お二人は夫婦で同じ仕事をしているわけですが、仕事もプライベートもいつでも一緒というのはいかがですか?

 今住んでいる場所が、1階がオフィス兼コミュニティスペースで2階が寝室やリビングがある住居スペースというタイ式の一軒家です。そういう職と住が同じ場所という環境で1年やってみたわけですが、いい面も悪い面もありますよね。いい面はいつでも話ができるので今日気づいたことを土日関係なくすぐ仕事に活かせたりと日々物事が進んでいくことですね。


──プライベートな時間でも仕事の話をよくするんですか。

 はい。仕事とプライベートが重なっている点も多いので、土日に出かけるときも何かヒントがありそうなところへついつい行きますよね。例えば、オーガニック野菜のサラダが有名なレストランに行こう、オーガニックコーヒーやお茶を出しているホテルでお茶をしよう、ゴルフであれば、このコースは、歩いて回ると結構な運動になるので、効果的なウォーキングワークショップと連動させたゴルフ大会にオススメだなとか。タイの国立公園として有名なカオヤイで行われたカオヤイハーフマラソン大会に参加した際も、走りながら「マラソン大会の運営方法をどうすれば職場の運動推進キャンペーンに活かせるか」など、やっぱり考えてしまいますよね。

亜基 「食」関係の仕事が多いので、どこかのレストランに一緒に食事に行った時も「このメニューは食育に活かせるんじゃないか」とか「こういう取り組みは今度タイヘルスに伝えてみたらおもしろいんじゃないか」「次のプロジェクトに使えるんじゃないか」とかそんな話ばかりしています(笑)。


──では仕事とプライベートが重なっていることや土日に働くこともストレスに感じないんですね。

 亜基 全く感じないですね。

 むしろ実現したいことに向かって進んでいることはうれしいことですよね。ただ、ずっと仕事モードというのはよくないので、毎日ジョギングやヨガをしたり、週末はゴルフやマラソン大会に出たりして、リフレッシュしています。

亜基 でも彼はジョギングやゴルフ中も突然「いいアイディアが閃いた! 忘れないように言っておくね」と私に話し出すんです。私もそれを聞いたらいろいろ考えを巡らせたり。こういうことはよくありますね(笑)。

衝突もメリットのひとつ

──やっぱり仕事から離れてないじゃないですか(笑)。しかしそこまで密接な関係なら衝突というかケンカなどはしないのですか?

 常に私たちはすぐ何でも言い合える状況にあるし、とにかく何かにつけてよく話し合うので、その分ケンカというか衝突は絶えません(笑)。でも私たちは同じビジョンを共有し、本気で成功させたいと思っているのでそれもメリットなんですよ。衝突から反省をすることで学びもありますし、結果的に、よりよいアイディアが生まれればビジョンの実現により一歩近づけるわけですから。

亜基 その点は私も大きなメリットだと感じています。私たち2人の人生の未来に繋がることを大事な人と本気で進められるというのは最高ですよね。夫婦でビションを共有できているというのは本当に幸せなことです。

やっぱり同じビジョンを共有するパートナーってすごく大事だと思うんですよ。他人同士であれば信頼関係の醸成にはすごく時間がかかると思いますが、夫ですからこの人で本当に大丈夫かという余計な不安や心配は一切いらない。お互い絶対に裏切らないという信頼感は絶大で、それがあるからこそとにかく今、自分がやるべきことに専念できる。そういう意味でもすごく大きなメリットだと思いますよね。

 もうひとつの大きなメリットとしては、お互いの得意分野が違うので、役割分担ができて助け合えるということですね。例えば広報やコミュニケーションの部分などはもともと広報が本職だった妻に全部任せられるので私は私の得意分野に専念できます。もし私一人でやっていたら、あまり得意でない分野の仕事も自分でやらなきゃならないので大きな負担になりますよね。

亜基 私は2人で同じ温度感で同じことに取り組んでいるからストレスやつらさも半分になっているのが助かっています。例えば社員食堂の改革のとき、サラダバーを設置して愛情を込めてサラダを作ったのですが、中にはお気に召さないタイ人の従業員も少なからずいました。そんなとき、もし1人ならすごく落ち込んで悩んでしまうと思うのですが、夫がいるので一緒にサラダがおいしいと評判の店に行って、サラダの見せ方、調理の仕方の違いを意見交換して自分たちに足りないものと改善案を検討するなど、すぐ次にどうすべきかという方向に動いています。これも夫と2人で同じ仕事をしていることのメリットですよね。

大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表

株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。

大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー

大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。

※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定

初出日:2015.04.21 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの