起業を決めた理由
──ではどの辺りから起業したいと? NTTドコモのような日本を代表する大企業を辞めてこれからどうなるかわからない、誰もやっていない新しいビジネスをやるために起業するのはかなり大きな決断だと思うのですが。その決断をする決定的な何かがあったのでしょうか。
茂 確かにそれはすごく大きな決断でした。理由のひとつは、やはり、タイの大学院での学びやタイヘルスのHappy Workplace Programを通して実感した「職場健康づくり」の大事さ、とりわけ、それをグローバルな視点で捉えることの重要性を世の中にもっと発信しなければいけない、と思ったことがあります。NTTドコモは、とても働きやすい会社でしたし、両親や知人の多くは、私が退職して起業することには前向きではありませんでした。私が、グローバルな視点で職場健康づくり事業をやるんだ、といっても良く分かってもらえなかったです。ただ、私は、「職場健康づくり」に取り組みたいと思っていました。そのような取り組みをできれば、経営は自ずとよくなっていくはずだという自分なりの理念・信念がありました。もちろん、ヘルスケア業界や病院などに転職することも考えました。でもそれらは私のやりたいテーマと似てはいるけれどドンピシャではなかった。例えば病院は、基本的には、既に病気やケガをしている人をケアする場所です。でも私がやりたいことは、職場に健康や幸せに関する科学的な知見を組み込むことで、従業員がいつの間にか健康的な行動を取り、生産性が高まる集団・組織になっていくということをデザインすること。そういった観点で、職場健康づくりという事業を展開している組織は非常に限られています。
そのような中でタイヘルスは特別な存在でした。同時に私たちのやりたいことに共感して協力してくれるパートナーとして、やはりDr. Chanwit無しで考えることはできない。彼のようなタイの中で圧倒的な存在感のあるソーシャルイノベーターとして、タイの歴史を作るような人と切磋琢磨しながら自分も挑戦したいという気持ちは強く持っていました。
そこで日本とタイを行き来しているときに、彼にこれからも職場健康づくりという領域で活動したいんだという私の思いを伝えたところ、全面的に協力すると言ってくれました。こういうことから自分の中で徐々にタイで起業するという選択肢の優先順位が高くなっていき、妻と何度も何度も話し合った結果、2013年の9月に起業を決断し、当時の上司に辞意を伝えました。
会社を退職し、活動の拠点をタイへ
──退職の4ヶ月前に会社に辞意を伝えるってかなり早いですね。
茂 NTTドコモでは、約11年勤務しましたし、大好きで入社しました。私が就職活動していた頃、NTTドコモは、米国AT&Tワイヤレスへ1兆円の出資をするなど、グローバル展開に積極果敢でした。当時、新聞の一面や社長記者会見などを見て、学生ながら凄いと思いましたし、既に世の中にあるモノを動かすビジネスではなく、未だ世の中に無いモノを作り出していくビジネス、ドコモのグローバルなイノベーションスピリットに、私はとても惚れました。それくらいの想いを持って働いていた場所なので、妻とも話して、とにかく丁寧に辞めたいと最初から思っていました。上司に辞意を伝えるタイミングは、通常ならば1ヶ月前で十分のところを、4ヶ月以上前に、私のこれからやりたいことを丁寧に説明して辞意を伝えたんです。そして2013年の年末ギリギリまで働いてNTTドコモを退職。年明けからタイに移住し、タイで新たな仕事と生活をスタートさせたというわけです。
大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表
株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。
大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー
大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。
※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定
初出日:2015.04.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの