WAVE+

2015.04.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

経営者に聞き取り調査を開始

──具体的にはどのような活動を?

 Happy Workplace Programの調査研究は大学院の修士論文として取り組みました。研究の結果、Happy Workplace Programに参加している従業員の欠勤率は低い傾向にあり、職務満足度が高い傾向にある、という結果が出ました。と言葉で言うと簡単ですが、このアンケート調査・集計・分析には時間と手間がものすごくかかりました。質問に答えるのは、在タイ日系企業のタイ人従業員なので、私が英語で作成した質問票を、プロの翻訳者に依頼してタイ語に翻訳したり別の翻訳者にチェックしてもらったり。また、返ってきたタイ語の解答を英語に翻訳して、私がデータを分析するなど。とにかく、時間がかかりました。私は、駐在員として働きながら、ということもあって、論文完成までに3年かかったんです。長い時間はかかりましたが、研究結果を約130ページの修士論文としてまとめて大学院で発表すると高く評価してもらえました。同時に、タイヘルスにも報告すると、このような論文を書いた人は初めてということに加え、在タイ日系企業や欧米系企業の外国人経営者にも理解してもらえる良いきっかけになる、ということで、Dr. Chanwitを始めタイヘルスやタイ保健省の幹部にも非常に喜んでいただけました。今振り返ると、この出来事を機に、タイヘルスとの信頼関係が更に強固なものになったと思います。

チュラロンコン大学大学院卒業式にて

任期を終え、日本に帰任

──その論文をきっかけにタイヘルスのHappy Workplace Programを広めるためのプロジェクト責任者に就任したというわけですか?

 いえ。もう少し時間を要しました。論文を発表したのが2012年の年明けなのですが、それと同じタイミングで会社から東京本社への帰任辞令が出て妻と一緒に帰国したんです。タイの赴任期間は約5年でした。そして帰国後は日本本社にて駐在経験も活かしながら、法人向け海外案件に携わっていました。

職場健康づくりの施策の1つである「職場に僧侶を招いての托鉢活動」に参加


──日本に帰国してもタイヘルスとの関係は切れなかったのですか?

 全く切れなかったんです。というのも、タイ出張の折やプライベートでも夏休み、さらには有給休暇を活用したりしてタイヘルスに顔を出して意識的に関係をつないでいたんです。また、妻の方も約5年間タイにいる間にMarimo5(当時はまだ任意団体)で有機農家支援をしていたので、それを継続させるためにも私と妻、交代でほぼ毎月タイに行っていました。そんな感じで2012、2013年は日本とタイを行ったり来たりしていました。


──普通は日本に帰任したら赴任先との関係は途切れてそのまま日本の会社員として働くというパターンが多いと思うのですが、それをしなかったというくらいタイヘルスの理念に心酔していたということですね。

 そうですね。あとはHappy Workplace Programの可能性をすごく感じていたというのもあります。現在Happy Workplace Programはタイ国内の従業員の身体的・精神的な健康増進及び幸福度向上を目指すという取り組みですが、私の中ではその先の展開が常に見えていた。すなわちHappy Workplace Programをタイからアジア、世界へ広げていくというビジョンです。

ジュネーブに本部を置くWHO(世界保健機関)は、「Healthy Workplace Model」というコンセプトを提唱しているのですが、私の考えでは、アジアの文脈を踏まえた「Asian Healthy Workplace Model」が必要だと考えており、アジアを代表する国の一つタイで生まれたHappy Workplace Programが、アジアにおけるリージョナルフレームワークの基本コンセプトになると考えています。多くの企業の事業がアジアを中心にグローバルに展開されている今こそ、アジアならではの共通点を見出しつつ、相違点も尊重しあう「アジアにおける職場健康づくりフレームワーク」が必要だと思います。


──ということは、日本に帰国した当時から独立・起業して現在のような活動をしたいと思っていたということですか?

 いえ、少なくとも日本に戻ってからの1年間はまだ会社を辞めて起業したいとは思っていませんでした。

大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表

株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。

大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー

大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。

※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定

初出日:2015.04.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの