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2014.04.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

仕事と趣味が同じ

──働き方についておうかがいしたいのですが、現在はどのように日々働いているのですか?

毎日何かしら仕事をしています。オフィスではプロジェクト戦略や資金の効果的な使い方を練ったりしています。また、毎週立教大学で教えていたり、打ち合わせでいろいろな企業や団体に行ったり、地域のワークショップを開いたり、アメリカにもたまに行くのでけっこう外に出かけていることが多いですね。とにかくいくら働いてもやるべきことは全然減らないという(笑)。

仕事とプライベートの境目も判然としませんね。例えばカフェでゆっくりしているときや街を散歩しているときでも人間観察をしたり、いつの間にか仕事のことを考えていて、おもしろいアイディアがひらめくことも多々あります。仕事と趣味が一緒のようなものですから全く苦ではないんですよね。

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立教大学キャリア形成論の授業の様子

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東北プラニングフォーラムからの依頼でワークショップに参加

──ではワークライフバランスについては?

以前は朝から深夜まで延々と仕事をしていたのですが、帰国してほどなく大病を患ってから少し考え方が変わりました。病院のベッドの上で、今後の自分の人生について考えたとき、これはもう少し休めという神様からのお告げだと思い、それ以来意識的に休むようにしたり、無理はしないようにしています。あとは運動したり料理をしたりおいしいものを食べたり。なるべく今日はいい日だったと思える日を積み重ねていけば生きててよかったと思えるようないい人生になるんじゃないかと思っています。

例えばオノ・ヨーコさんの作品に「生きる喜び-JOY OF LIFE」というものがあります。核心に迫った問いかけですよね。そしてこれは、一人ひとりの答えが違うものです。作品が放つメッセージから今の自分の生きる喜び、その中から自分なりのワークライフバランスを見い出せればいいなと思っています。

前向きにさせる自己暗示が大事

──では現在の働き方に関してストレスはないですか?

働き方という意味では今はありません。ただ、この先もいつ何が起こるかわからないとか、仕事を継続してできるだろうかという将来の不安は多少ありますが、今まで何とか生きてこられたわけなので、これからも何とかなるだろうと前向きに考えるようにしています。また、入院しているときに私はいったい何を求めているのかをよく自分に問いかけていたのですが、住む場所があって、おいしい料理が食べられて、愛せる人たちが身の回りにいて、たまに旅行ができて......という程度のことだったので、案外大丈夫かもと思えるようになりました(笑)。

ストレスという意味では、帰国してしばらくは逆カルチャーショックに陥りました。なにせ高校卒業以来アメリカで暮らしていたので、日本で生活するのは20年ぶり。ちゃんと大人の社会人としてやっていけるだろうかとかなり不安も感じていました。実際、知人に歳相応のことを言いなさいと言われたこともありました。でもそれで気持ちが萎えることはなく、むしろファイトが湧いてきました。そんな私を見て母は「日本にいたころの宏子なら落ち込んでいたけど、自分が今までダメだと思っていたところをポジティブに考えられるようになったからアメリカに行かせてよかった」と言ってくれたのが、とてもうれしかったですね。確かにアメリカは多民族国家なので、見た目というわかりやすい部分からものの考え方、文化、風習など多種多様な人がいるから私だけ変だなんて落ち込む必要は全くなかったし、違いがあるからこそこの世界は美しいんですよね。

モノではない豊かさを

そういうこともあって、仕事の中で大切にしているのは、いろんな地域にいろんな人がいるからおもしろいということ。それを帰国してからことあるごとに徹底して言っているんです。そこは私がコミュニティデザインをする上ですごくキーとなるポイントで、一人ひとりがもっている潜在的な意識や能力などのはかないものを可視化したいという思いや、地域をつくるためには必ず人をつくらなければいけないという思いもそこから来ているんです。もちろんそれを実現するのは簡単ではないということもよくわかっているんですが、チャレンジし続けたいんです。

そこの源流をたどると自分が小さいときにいじめられていた弱者だったというところに行き着くと思うんです。日本の人たちは自分の思いや意見なんて大したことないと思い込んでいてあまり表に出さないのですが、一人ひとりと話すとみんなおもしろいことを考えていますし、誰もが世の中で貢献できるものをもっているんですよね。そういう日本人にもっと自信をもってもらって、日の当たる場所に出てきてほしい。それは私が弱者の側だから強くそう思うんです。

時には思い悩むこともありますが、アメリカで学んだことは絶対日本でも応用できると思うので、そこを信じて今まで得た知識や技術を生かして一人ひとりが豊かな気持ちになれるような仕事をしていきたい、モノではない豊かさを徹底的に追求していきたいと思っています。

慶應義塾大学主催の第4回環境イノベータ国際シンポジウムに参加するなど幅広い活動を展開している

東京をデザインし直したい

──今後の目標や夢があれば教えてください。

地域の中で私がやっていきたいのはやっぱり人の部分なんですよね。モノやカタチだけに頼らないつながったコミュニティの実現。そんな人づくりは、身近なところを見つめる力、個人がもつそれぞれの未来想像力を尊重し、共鳴することが必要だと考えます。「ひと」は、秘めた能力、見えない才能、隠された工夫の技を持っていますが、「ひとり」ではそれらを見つけ出すことができず、「ひと」と「ひと」が触れあって、新しいコミュニティという「Common Unity/共同体」への道が開かれます。そして、凝り固まらず、状況に応じた変化・対応をしながら、多様な可能性を最大限に生かす。これまで話してきたコミュニティエンゲージメントの領域ですね。

また、一般的にコミュニティデザインというと地方というイメージをもたれるのですが、自分が東京出身であり、東京が故郷なので、東京という街に興味があります。それは、日本の中で東京の都心部が一番病んでいてゆがんでいると感じるからです。確かに東京は機能的で便利ですが、そうなった分、物事を深く、真剣に考える必要がなく時間は流れ、人に気遣いある行動をとらなくても毎日の生活に支障がないといったマイナスの部分も大きくなってしまったと思うんですよね。例えば電車の中で人にぶつかっても何も言わない人や、お年寄りが目の前で立っていても席を譲らない人などをたくさん見かけるようになりました。たまにしか東京に帰ってこなかったから余計にわかるんです。東京はもっとみんなが自然と気遣いができるような都市であってほしい。自分の手の届くところや規模で、都市型のコミュニティデザインをもっと追求してみたいと思っているんです。

それから、これまでの仕事を通して身につけてきたワークショップや研修、若者のエンパワーメントやエデュケーション、コミュニティエンゲージメントなどコミュニティデザインの領域のノウハウを若い世代に伝えたいという思いも強くもっています。コミュニティデザインをできる人をもっと増やして日本をより良く変えていければいいなと思っています。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。コミュニティデザイナー/アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

1990年、高校卒業後渡米。ボストン大学芸術学部彫刻科卒、米国タフツ大学大学院博士前期課程修了(芸術学修士)後、マサチューセッツ工科大学・リストビジュアルアーツセンター初年度教育主任、エデュケーション・アウトリーチオフィサーやボストン美術館プログラムマネジャーなどを歴任。美術館や文化施設、まちづくりNPOにて、エデュケーション・プログラム、ワークショップ開発、リーダーシップ育成、コミュニティエンゲージメント戦略・開発、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型の「人中心型・コミュニティづくり」などに多数携わる。2011年帰国。「あいちトリエンナーレ2013」公式コミュニティデザイナーなどを務める。現在は、東京を拠点に、ワークショップやプロジェクト開発の経験を生かし、クリエイティブ性を生かした「人中心型コミュニティづくり」のアウトプットデザインとマネージメント活動に取り組んでいる。立教大学コミュニティ福祉学部兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。

初出日:2014.04.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの