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2013.08.13  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ワクワクを最大値にしたい

──国内外で精力的にさまざまな活動をしていますが、山田さんを動かすモチベーションの源泉は何ですか?

ひとことで言えば「ワクワクすること」。これに尽きます。「ワクワクを最大値にしたい」という思いが根本にあり、すべての活動はこの思いが原動力になっています。単に仕事や雇用を生み出すだけじゃなくて、「ワクワク」の部分が大事で、1人1人が本当に何をやりたいのか、どんなことにワクワクするのか、その1人1人の情熱で、一緒に未来をつくっていきたいと思っています。

今は、改めて子どもたちに興味があるということをすごく感じています。キーワードでいえば「子ども」と「ワクワク」と「可能性」の3つですね。

──現在の仕事のやりがいや魅力は?

一番は子どもの笑顔ですね。フィリピンの孤児院にいた子どもたちが英語を話せるようになってきたときの笑顔や、大学に通うことができて喜んでいる笑顔、そして新しい夢をもちはじめたときの笑顔。日本でも湯河原子どもフォーラムの子どもたちが研修会を通して、「自分たちでこんなにできた!」といったような達成感を得たときの笑顔。そういう子どもたちの笑顔を見られたとき、私自身もうれしくなり、この仕事をしていてよかったなと思います。彼らからたくさんのエネルギーをもらっているんですよ。

子どもだけではなく、大人の笑顔もうれしいですね。今年(2013年)のゴールデンウィークにロレガでワクワークセンターを作るためのラーニングジャーニーを行ったとき、昨年の12月にカフェを立ち上げた人たちも参加して発表会を行いました。

参加者の一人にネリアというお母さんがいるのですが、それまでは内気で全然喋らなかったのに、「私は今カフェの仕事をもっている。働ける場があって、給料をもらえるおかげで子どもに大学を卒業させることができて、刑務所にいる夫にも会いにいけて、本当に人生が変わった。こんな私でもチャレンジをしたことで夢が実現できた。だからみんなも絶対にできるよ」と力強く発言したんです。それを聞いていた、新しく参加したロレガのお母さんたちがみんな涙を流していましたが、私自身もそれを聞いたとき、すごく大きな喜びを感じました。

誰かが自分の可能性に気づいたとき。そして新しい一歩を踏み出したとき。そういう瞬間に大きなやりがいを感じます。

ラーニングジャーニーでカフェをつくった学生たち

──逆に仕事をする上でつらいことや現在抱えている問題などはありますか?

特にはないですね。そもそもあまりつらいとかたいへんだとか思わない性格なので(笑)。あと、我々は「課題」とか「プロブレム」という言葉は全部「チャレンジ」に言い直すんです。そうすることで明るくなるし、元々体育会系気質なので、少しくらいつらいことがあった方が燃えるんですよ(笑)。

ただ、組織をまとめる人間としては、自分自身が人間的にもう少し成長しないと組織がもう一歩前にいかないだろうなということは感じています。これからワクワークイングリッシュを100人体制にして、ワクワークセンターを立ち上げていくのですが、その過程で自分自身の内面を掘り下げながら、1歩ずつ進んでいきたいと思っています。

働くとはワクワクすること

──山田さんにとって働くとはどういうことですか?

ずばり「ワクワクすること」です(笑)。働く意味って人それぞれあると思うのですが、私の場合は、自分のハッピーと相手のハッピーが重なったときに何か大きなハッピーが生み出される。その瞬間に立ち会いたいがために働いていると言っていいと思います。その重なるところが「ワクワーク」で、それが社名にもなっています。言い替えれば私の「働く」は人と何かをわかち合うということ。私のワクワクとあなたのワクワクが重なりあい、新しく何かが生み出され、未来を一緒につくっていくということです。


──誰のために働くかと問われれば?

まずは自分のためです。今の数々の仕事は私がやりたいからやっているわけですから。

それと最近、今の、そして未来の子どもたちのために仕事をしたいなと強く思っています。フィリピンのロレガで作ろうとしているワクワークセンターも未来の子どもたちのためですし。あまり「◯◯のため」とは言いたくないのですが、自分の子どもや孫世代にまでつながる仕事をしたい。今、私が生きているこの社会も親世代、祖父母世代がつくり、つないできてくれた社会ですしね。だから今の仕事によって、未来の子どもたちがワクワク楽しく生きていけるような社会に繋がるといいなと思っています。


──国内外でさまざまな活躍をしていますが、仕事とプライベートの境目はあるのですか?

私の場合、正直仕事もプライベートも1つにつながっているような気がしています。さらに去年(2012年)、結婚したのですが、相手はこれまで一緒に仕事をしてきた人で、今も一緒に働いているのでさらに仕事とプライベートの境目がなくなりました(笑)。

夫の方は日本の子ども向けの仕事や大学への英会話の導入、当社のWebサイトやラーニングジャーニーのパンフレットの制作など、教育系&制作系の仕事がメインです。また、現地ではココヤシを使ったお酒づくりをしていたり、WAKUMAMACAFE(ワクママカフェ)の店長にも就任したり、現地でデザインを通じて仕事をつくる仕事しています。

ともに働き、暮らしている夫の森住直俊さん(写真左)

──仕事も私生活もご主人と一緒というのは快適ですか? ストレスが溜まったりはしないのですか?

確かに、結婚して間もないころは朝起きてから夜寝る直前まで仕事の話ばかりしてしまう状況で、けっこうストレスを感じていました。だから働き方を一度見直したんです。リビングにいるときには仕事の話はしないとか、食事をする場所には絶対パソコンを置かないとか、いくつかルールを決めてからは快適になりました。

また、最近私が体を壊して入院したのですが、抱えている仕事のほとんどを夫がやってくれたり、精神的に弱っているときに支えになってくれたりと、とても助かりました。こういうところが夫婦で一緒に仕事をすることの大きなメリットで、私生活も仕事もパートナーという働き方でよかったなと改めて思いました。最近ではジャーニーなどで深い対話をしている中で、お互いの小さな悩み、葛藤、弱さ、すべてを共有しながら新しいエネルギーが2人の間にあるのを感じています。また、お互いの仕事を深く理解しているので、家事の分担がしやすいのも大きなメリットですね(笑)。

二人でワクワークポーズ

山田貴子(やまだ たかこ)
1985年神奈川県生まれ。株式会社ワクワーク・イングリッシュ代表。

慶應義塾大学環境情報学部卒、2009年同大学院政策・メディア研究科修士課程在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立。フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指してさまざまな事業を立ち上げ中。日本では軽井沢に拠点を置き、地域活性活動に取り組むほか、慶應義塾大学の非常勤講師や「湯河原子どもフォーラム」の講師も務めている。2012年、世界経済フォーラム・ダボス会議により、20代30代のリーダーGlobal Shapersに選出。2013年、第1回日経ソーシャルイニシアチブ大賞の国際部門でファイナリスト選出。

初出日:2013.08.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの